1. HOME
  2. Magazine
  3. 日常に隠れている美の発見 写真家・佐藤倫子インタビュー
Magazine

日常に隠れている美の発見 写真家・佐藤倫子インタビュー


こちらは「フェイク」というシリーズです。広告は、写真の中では完璧な世界をつくらなくてはならないんです。何かがばれてしまったり、残念なものが見えてしまったりしない世界にずっといるので、わたしの作品にも自ずとそういったものがありますね。花を撮ろうと思ったとき、生の花には、生の花ならではの自然の美しさがありますが、メインにしたいと思うところがどうしても1枚だけ花びらが枯れているとか、どうしてもこっち向いてほしいんだけどそうではないとか、当たり前ですけど自分の思い通りにならないのが自然の花で。それとちがって造花は、つねに完璧で、つねに絶対咲いていて、つねに絶対美しくて、つねに絶対きちんとしたところにポージングしてくれる。そのポージングしてくれている姿が、わたしにはシュールに見えて。花を撮ろうと思ったというより、つねに完璧でいる造花のシュールさが面白かったんです。あとは当時、歌舞伎に興味があって。伝統芸能としての素晴らしさはもとより、舞台照明――非現実的な、影の無い歌舞伎のライティングに興味があって。時間があれば観に行って、あの世界の中だけの色味、光のつくり方を観ていました。その影響が強く出ている作品でもありますね。

 4×5で撮影をし続けていたことがいまにも繋がっているんですが、10年以上前くらいからオールデジタル化していって。デジタルでの最初の頃の作品がこのケーキの写真です。メーカー企画展での作品です。このロールケーキはろうそくで、色合いの配色がよくて。なぜケーキをここに置いているのかでなく、この構図とこの色合いの楽しみ方を写真で表現できたらと思って撮ったものでした。カメラはデジタルですが、ピンクのペーパーを後ろに張って、手前の箱にグリーンのペーパーを張ってその上にケーキを載せたなんの仕掛けもない状態なんです。本来、ケーキの下に影をつくって、写真だよっていうのを表現したかったんですが、思った以上にマットにきれいに映ってしまって。それもありかなと思って、そのまま出展した作品で。立体物を平面構成で撮るきっかけになった作品です。

このあたりで確立したのは、自分の写真の世界の中には現実はいらないということでした。日常では悲しいことやつらいことがある中で、写真を見るときだけは、わたしが思うハッピーでポジティヴな、「なんだろう?」って考えたりするような世界観を見ていただけたらと思うんです。


STORY TELLER / 写真家達の物語 vol.37

フォトディレクターの推し写真集

まちスナ日和