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糸崎公朗 オリジナル作風の写真と改造カメラワールド


TALK&PHOTO:糸崎公朗(いとさききみお)

1965年長野県生まれ。東京造形大学卒業。2000年度コニカフォトプレミオ年度賞大賞受賞。第19回東川賞新人作家賞受賞。2014年『日本の新進作家Vol.12路上から世界を変えてゆく』(東京都写真美術館)出品。主な著作に『フォトモの物件』『東京昆虫デジワイド』(ともにアートン新社)。主な連載に『おもしろ2コマ写真』(『子供の科学』 / 誠文堂新光社)『切り貼りデジカメ実験室』(『デジカメWatch』)。2004年より『糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程』の講師を務める。

TEXT:伊藤亮介

 いまは路上観察とか散歩写真は、かなりメジャーになっていますが、僕がそれらを意識しはじめた90年代はまだ黎明期でした。当時僕は、路上そのものの魅力をもっと表現できないかと思って、イギリス人画家デイヴィッド・ホックニーがやっていたフォトコラージュに影響を受けた作品をつくりはじめたのです。何枚かの写真をツギハギした多視点的パノラマ写真で、ぼくはこれを『ツギラマ』と命名しました。
もともと僕は小学校の3年生くらいまで昆虫に興味があったのですが、その後、プラモデルの製作に夢中になって昆虫のことはしばらく忘れていました。ところが大人になって、芸術家の赤瀬川原平さんに影響されて路上観察をはじめたときに、空き地で虫を見つけたんですね。野山ではなく街中にいる虫というのが面白くて、それで昆虫をテーマにツギラマをやってみようと思いました。それが『昆虫ツギラマ』という作品です。(左上写真)

 昆虫ツギラマは、昆虫写真の第一人者として知られる海野和男さんにも影響されました。海野さんが撮る写真というのは、超広角レンズを使って虫を周りの風景と一緒に写したものです。このような写真は今では当たり前のように目にしますが、海野さんが撮りはじめた頃、手前から奥までピントを合わせて撮るその手法はとても画期的でした。それまで虫はマクロレンズで背景をボカして撮るというのが一般的な考え方でしたから。それで僕はこの手法をツギラマに置き換え、路上の昆虫を撮ったのです。この昆虫ツギラマは『コニカ フォト・プレミオ』に応募したところ「2000年度大賞」をいただきまして、非常に励みになりました。

 昆虫ツギラマに先駆けて、ツギラマを応用してできたものがフォトモでした。『フォトモ』とは、写真プリントを切り抜いて、立体的に構成する3D写真の一種。飛び出す絵本をイメージしていただくと、わかりやすいのではないでしょうか。フォトモは立体作品ですが、これをペーパークラフトにした平面作品「組み立てフォトモ」を雑誌『散歩の達人』に1996年から2004年まで連載し、作品集も発売しました。また『フォトモほか一連の作家活動に対して』として「第19回東川賞新人作家賞」もいただきました。

 僕はツギラマやフォトモの制作をしてきましたが、実はこれまで主に認知科学や生物学、宗教や哲学など、写真以外の勉強ばかりしてきました。それは他人の作品を見ると、影響を受けて似てしまうという先入観があったからです。でもいまはその考えを改めて、もっと他人の写真を見るべきだ、と考えています。というのも、他人の作品を見る数が少ないと影響を受けてしまいますが、多ければ特定のものに影響を受けにくくなり、そこでまたオリジナリティーが発揮されるんじゃないかと思ったからです。


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