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スイス人のユニット作家が写真の中に生み出す“幻影”


タイヨ・オノラト&ニコ・クレブス
Taiyo Onorato & Nico Krebs
「Ghost」

モノクロの写真に不気味に浮かび上がる被写体。
世界で注目を集めるユニットアーティストが、どのように作品を生み出すのかのヒントを探る。

Text : PHaT PHOTO編集部

「何この写真? どうなってるの?」と、写っているものが本物なのかつくり物なのか、その境目を行き来するような仕掛けがある写真作品を生み出し続ける、スイス生まれのアーティストユニット、タイヨ・オノラト&ニコ・クレブス。2人がつくる作品制作の意図や、今回のフェスティバルに向けてのメッセージを聞いた。

――まずは、2人が作品を制作するうえでのテーマを教えてください。

私たちは、写真を媒体として、1枚の中に存在する〝現実〟と〝真実〟という問いかけに興味を持っています。アンビバレンス(相反する価値)と、苛立ちを内包したイメージをつくるのが好きですね。「自分たちが何を見ているのか?」ということを、私たち自身もわからなくなるような瞬間に、もっとも面白い作品ができると感じています。作品を見ていただく人々にも、作品に近づきじっくり見てもらって、目を凝らすことや、「自分が実際に何を見ているのか?」を考えてみてほしいと思っています。

――そうした作品をつくるときに、最も大切にしていることは何でしょうか?

私たちがアート作品をつくる際に、最も重要にしていることは、〝プロセス〟です。思いついたアイディアは、さまざまなプロセスを経ることで、予想外な方法で満足のいく作品になることがある。そのプロセスを見つけたときが、作品をつくっていくうえでいちばん報われる瞬間ですね。

――今回「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」に出展する作品、『Ghost』は、どのような作品なのでしょうか?

最初はカメラ本来の仕組みについての実験をしはじめたのですが、カメラでしか捉えられない画像を生み出す「長時間露光の可能性」に興味を持ちました。作品に写っているのは、自作の電動ドリルドライバーの装置の上をゆっくり回る、がたがたと凹凸のある木の建造物です。それを長時間露光によって写し出すと、美しいシンメトリーの世界の幽霊のような儚い幻影になるんです。

(左写真)
※「Ghost」が生まれる過程で撮影した写真。電動ドリルドライバーをつかって被写体を回転させることで、どんな画が浮かび上がるかを実験しながらシリーズの完成に近づけていく。

――ユニットでの作品制作をされていますが、作品のアイディアはどのように生まれますか? 2人で制作をするにあたって、それぞれの役割はあるのでしょうか?

役割分担をして制作をルーティーン化させる、ということは避けています。私たちは2人とも何でもやりますよ。〝インスピレーション〟というのは、何からでも得ることができると思っています。きっかけになるのはたいていの場合、小さなアイディアだったり、観察や実験です。このときに気づいた引っかかりのような「何か」が、自分たちの頭の中などに残っている状態がしばらく続くと、そのアイディアの存在感が増し、重要性が増し、そしてプロジェクトへと発展することになる。多くの場合は、小さな好奇心から出た疑問が発端だったりするよ。たとえば、「モンゴルまで車で運転していけるのかな?」ってね。

――東京で展示することについて、どのように感じられていますか? はじめて2人の作品を観る方々に、ぜひメッセージをお願いいたします。

僕たちの作品を東京ではじめて紹介することができて、わくわくしているし、嬉しいです。とくに、都市中心部の自然に囲まれた環境でお披露目するというのは、非常に面白い試みだと思っています。より多くの作品をお見せするために、近いうちに日本にもまた訪れられたらと思っています。

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2017年5月。上野公園とその周辺エリアの街中に、世界レベルの写真家9名(タイヨ・オノラト&ニコ・クレブス、鈴木理策、米田知子など)の写真作品を屋外展示する国際フォトフェスティバル「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」。写真雑誌「PHaT PHOTO」Vol.99では、本フェスティバルを特別特集!「Q.この被写体は何?」「Q.なぜこの手法にしたの?」といった、作品を読み解くヒントを紹介しています。「なんとなくステキ」から「だから素敵!」へと、ステップアップしませんか?

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「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」とは?
上野動物園や国立科学博物館、国立西洋美術館など、自然と文化が楽しめる上野公園に、世界で活躍する国内外の写真家9名の作品を展示する、東京初の屋外型国際フォトフェスティバル。本フェスティバルが目指すのは、写真がもたらす特別な体験を、より広く多くの人に触れてもらうこと。美術館やギャラリーのような、普段人々がアートを見る場ではなく、上野公園という場所、その土地に作品があることでしか起こり得ない体験を生み出すことです。展示設営は今回のために建築家が、かつて上野公園にあった「竹」をモチーフに設計。屋外での新しい展示方法も見どころです。

会期:2017年5月19日(金)~5月28日(日)10:00~18:00
※5月22日(月)は「上野桜木あたり」「市田邸」は休館
会場:上野公園、東京藝術大学(トークイベント)、上野桜木あたり、市田邸
入場:無料

東京初!屋外型国際フォトフェスティバル「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」のWebサイトへ

◆ タイヨ・オノラト & ニコ・クレブス
1979年スイス生まれの2人組のアーティストユニット。ベルリンを拠点に活動。スイスのFotomuseum Winterthurでの個展ほか、欧米を中心にグループ展に参加。Foam Paul Huf Awardやイエール国際モード&写真フェスティバルのグランプリなど受賞多数。主な写真集に『Lightning Tree』や『LIGHT OF OTHER DAYS』など。近年の個展に、2016年「Eurasia」(Sies+Höeke、デュッセルドルフ)、2015年「Eurasia」(Fotomuseum Winterthur、ヴィンタートゥール)、「Photoweekend 2015」(Sies+Hoeke、デュッセルドルフ)、2014年「The One-Eyed Thief」(Contemporary Arts Center CAC、シンシナティ)等。


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