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HOW TO / 作品制作のヒント

写真家を志す人へ テラウチマサトの写真の教科書 第4回 機材編:写真の出来栄えはレンズで変わる?


写真の学校を卒業したわけでもない、著名な写真家の弟子でもなかったテラウチマサトが、
約30年間も写真家として広告や雑誌、また作品発表をして、国内外で活動できているわけとは?

失敗から身に付けたサバイバル術や、これからのフォトグラファーに必要なこと、
日々の中で大切にしていることなど、アシスタントに伝えたい内容を、月2回の特別エッセイでお届けします。

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第4回 機材編:写真の出来栄えはレンズで変わる?

写真展『RED FISH』より 本作品は「WORLD PHOTOGRAPHIC CUP 2016」のポートレイト部門において日本代表作品として選出された。幼いころ小川で偶然見つけた「赤い魚」を思い出し、構成された異色のポートレイト作品。85㎜/f2.8/SS1/250秒/ISO100/露出補正 +0.3ステップ

デジタルカメラが撮影のメイン機材になってから、カメラはメーカーに拘らなくなった。ニコンもキヤノンもオリンパスもペンタックスも大概のカメラを持っていて、撮影に応じて都度使い分けている。

フィルム時代はカメラが同じでも使うフィルムで仕上がりのテイストを変えることができた。たとえば、この青い海はより発色の鮮やかなこのフィルム! というように。フィルムを変えることで写真の印象を操作できたのだ。

けれどデジタルになってからはフィルムチェンジによる色味の変化ができなくなり、結果、カメラを変えることで代行している。シンプルに言えば、海はこのカメラ、街はこれ、ポートレイトはこのカメラというように、まるで服を着替えるみたいにTPOに応じて使いわけるようになった。

発色性だけでなくシャッター音の違いやボディの大きさ、カメラ内エフェクトが関係することもある。カメラを変えることで同じ青でも微妙に印象が変わる。

フィルムチェンジしていた感覚でカメラ選択を行っているのがデジタルになって変わったこと。もちろんこんなことは撮影後のレタッチでも可能なことだが、よりスピーディに仕事を仕上げる必要から、仕上がりイメージの近いカメラを最初から選ぶ。

しかし機材を揃え、そのボディに使えるレンズをすべて用意するとなると誰にでも進められることではない。プロだからこそのこだわりともいえる。キヤノン派とかニコン派とかって議論を熱く交わしていたことが私には懐かしい。どの機材も同じように揃え使いわけている。だからこそそれぞれの良さも分かるような気がする。

TPOに応じて変えるのはレンズも同じだ。むしろアマチュアの方々には、ボディよりレンズにこそ拘って、TPOに応じて使い分けて欲しい。同じお金をかけるなら、ボディよりレンズを優先する。

レンズにもボディにかける情熱と同じように意識を傾けて欲しいと思っている。カメラボディとレンズの関係は、車にたとえるならハンドルの様なもの。カメラボディは操作性。同じようにレンズはエンジンだろう。操作性も大事だが、エンジンの影響力は大きい。いいレンズを使うことを勧めたい。同じボディなら高価なレンズを使った方が格段に写真の出来栄えは変わるのだから。

最近は単焦点レンズに人気がある。その理由はズームレンズと比べれば写り映えに格段の差を感じているからだろう。F値の明るさ、描写性、レンズ自体の発色の差も大きい。ズームレンズも、レンズを何本も持っていかなくても焦点距離差(ズーム比の大きさ)を変えられる便利さがある。

持ち運びや移動の重量を考えると、ズームレンズの利便性は捨てがたい。軽さだけでなく、レンズ交換しなくてよい簡便性や瞬時に画角を変えられる俊敏さを重視するならズームレンズにも強い魅力を覚える。ただ、今の時流は単焦点にあるようだ。それほどに写り方に拘っているのだろう。

私のレンズ選びの基準も、基本的には、軽さでなく写り映え。重くても写りの良いことが基準。そのために身体を鍛えているところもある。たとえ大きく重くても、F値の明るい最短撮影距離の短いレンズが選択の基準となる。結局、単焦点レンズへと選択基準は流れていく。

昔よく使った24-70㎜というズームレンズをほとんど使わなくなったのもなんとなく不思議だが、写り映えを重視してのことだろう。

もし1本だけレンズを持っていくと決められたら、いまは開放値の明るい35㎜の単焦点。このレンズならスナップも楽しいし、被写体に近づけば望遠レンズの様にボカすこともできる。離れれば広角レンズらしい被写界深度の深さと画角の広さで撮ることも可能だ。

◆プロフィール
テラウチマサト
写真家。1954 年富山県生まれ。出版社を経て1991 年に独立。これまで6,000人以上のポートレイトを撮影。ライフワークとして屋久島やタヒチ、ハワイなど南の島の撮影をする一方で、近年は独自の写真による映像表現と企業や商品、及び地方自治体の魅力を伝えるブランドプロデューサーとしても活動中。2012年パリ・ユネスコにて富士山作品を展示。主な写真集に、「ユネスコ イルドアクトギャラリー」でも展示した富士山をとらえた『F 見上げればいつも』や、NY でのスナップ写真をまとめた『NY 夢の距離』(いずれもT.I.P BOOKS)がある。www.terauchi.com

 

第1回 気が付いたら写真家になっていた
第2回 私の修業時代
第3回 本当なら、僕は選ばれなかった?
第4回 機材編:写真の出来栄えはレンズで変わる?
第5回 10月16日(月)更新予定

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STORY TELLER / 写真家達の物語 vol.37

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