1. HOME
  2. 写真集
  3. 飯沢耕太郎が選ぶ「時代に残る写真集」Vol.1 志賀理江子『螺旋海岸|album』(赤々舎)2013年
写真集

飯沢耕太郎が選ぶ「時代に残る写真集」Vol.1 志賀理江子『螺旋海岸|album』(赤々舎)2013年

写真集


志賀理江子『螺旋海岸|album』(赤々舎)2013年

飯沢耕太郎 いいざわこうたろう
写真評論家。1954年宮城県生まれ。1977年日本大学芸術学部写真学科卒業。1984年筑波大学大学院芸術学研究科博士課程修了。主な著書に『写真美術館へようこそ』(講談社現代新書1996)、『デジグラフィ』(中央公論新社 2004)、『写真的思考』(河出ブックス 2009)、『深読み! 日本写真の超名作100』(パイインターナショナル 2012)などがある。

飯沢耕太郎と写真集を読む Vol.32 「赤々舎の写真集を読む」
2017年10月15日(日)10:00~11:30
写真集食堂めぐたま
ゲスト:姫野希美さん(赤々舎代表取締役・ディレクター)

「震災後の写真」の、最も優れた成果のひとつ

1980年に愛知県で生まれた志賀理江子は、1999~2004年にロンドンに留学する。2008年に写真集『CANARY』(赤々舎)、『Lilly』(アートビートパブリッシャーズ)で第33回木村伊兵衛写真賞を受賞。東日本大震災の前後に制作された作品群は、驚くべき強度に達し、大きな反響を呼び起こした。志賀理江子は2008年から宮城県名取市北釜に居を移し、「専属カメラマン」として地域の住人たちと交流しながら活動を展開していった。

住人たちの語る「オーラル・ヒストリー」を元に共同制作を試みるなど、実り多い成果が生まれつつあった矢先に、震災でアトリエと撮影機材一式を流出する。だが、その「時間、生、死、感情、物の価値などが崩壊して、そこにあったすべてが見渡す限り真っ平らに」なるという大きな痛手を梃にして、さらなる表現の深みに突き進んでいった。

2011年6月〜2012年3月にかけて、せんだいメディアテークで10回の連続レクチャーをおこない、その内容を『螺旋海岸|notebook』(赤々舎)にまとめる。さらに、250点以上の写真パネルを配置した大規模展『螺旋海岸』(せんだいメディアテーク、2012年11月7日〜2013年1月14日)を開催した。本書『螺旋海岸|album』は、展示をそのまま再現するのではなく、「書物」の形に再構成したものであり、志賀の写真家としての表現能力が極限近くまで発揮されている。

「いまださめぬ」、「みなさん、さようなら」、「父探し」、「朝いきなり死んだ」、「眩しくてなにも見えない」、「開墾の肖像」、「ばけものと暮らした」・・・。写真のタイトルを抜き出しただけでも、写真集全体に漂うただならぬ雰囲気が伝わってくるだろう。それは、北釜という土地に根ざす「地霊」を全身全霊で引き出そうとする営みの集積といえる。特に写真集の後半部分に出現してくる白く塗られた石、石、石の存在感は凄まじい。

それらは、あらゆるものを拒否しつつ、同時にあらゆるものを映し出す沈黙の「鏡」として屹立している。『螺旋海岸|album』は、東日本大震災を受けとめ、投げ返す「震災後の写真」の、最も優れた成果のひとつとなった。
志賀はその後北釜を離れ、結婚と出産を経て、新たな領域に踏み出そうとしている。その成果は丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開催された個展『ブラインドデート』(2017年6月10日〜2017年9月3日)で発表された。

飯沢耕太郎が選ぶ「時代に残る写真集」Vol.1
志賀理江子『螺旋海岸|album』(赤々舎)
8,000円(+税)/サイズ257 × 364 ㎜ 280頁/上製本
アートディレクション:森大志郎
http://www.akaaka.com/

志賀理江子 しがりえこ
http://www.liekoshiga.com/


STORY TELLER / 写真家達の物語 vol.37

フォトディレクターの推し写真集

まちスナ日和