大人気の猫写真家になったいまも
続けていること


~写真集「必死すぎるネコ」作家・沖昌之さんの場合~
photo:Masayuki Oki

ユニークな猫の表情やポーズをとらえた写真で人気の猫写真家・沖昌之さん。
自身初となる写真集「ぶさにゃん」(新潮社/2015年)を発表して注目を集め、
今年2017年に2作目となる「必死すぎるネコ」(辰巳出版)を発表。
TVやWebなどで活躍する沖昌之さんですが、現在も写真コンテストへの応募を続けています。
その理由と、ふだん猫を撮影するときに心がけていることなどを訊きました。

写真集「必死すぎるネコ」(辰巳出版/2017年)
編集部:
沖さん、写真集3刷目おめでとうございます!

沖さん:
ありがとうございます!

編集部:本当にいつも素敵な猫のシーンを撮られ続けていらして。写真家として活動しながらも、ずっとファットフォトコンテスト(※)に応募され続けることはすごいなと思っています。2014年からスタートされて、いまもほぼ毎号、応募くださっていますよね。

※写真雑誌「PHaT PHOTO」が行う写真コンテスト。データまたはプリント応募された単写真を、毎号変わる審査員3名で審査。座談会形式の講評が特徴。詳しくはコチラ

沖さん:
そうそう。応募のきっかけは、写真家のテラウチマサトさんが講師の写真教室に通っていたことから。授業で宿題の写真を提出したときに、「猫と足元の写真はたくさんの人が撮影するから、よほどのことが無いと、賞で選ばれるのは難しいと思う」って言われて。そのときに、「あ、そうなんだ。猫って結構険しいんだ」って思いましたね。

編集部:
ショックではなかったですか?

沖さん:
う~ん、その当時は僕、猫の写真コンテストに応募したことはあっても、「写真のコンテスト」というカテゴリーのものに出したことが無かったんですよ。だから、猫というものはとても日常すぎて、猫は簡単に撮れると思われがちなのかな、って勝手に想像していました。

編集部:
客観的に分析されていたんですね。

沖さん:
いやもう、自分の中では猫しかないな、って一点張りしていたんですよ、だから「じゃあどうやったら納得してもらえるんだろう」って考えていました。提出した写真を見てもらって、叱ってもらえればいいかなって。

編集部:
叱ってもらう、という姿勢がすごいですね!

沖さん:
テラウチさんに言われた印象的な言葉があるんですよ。「センスとは、生まれ持ったものじゃなくて、他者から教わって身につく後天性のものなんだよ」って。それまで写真が上手い人に対して、センスの違いで終わりにしてきたところがあったので、追いつけるのかもしれないなって。だからとりあえず写真を出してみて、もしかしたら褒めてもらえるかもしれないし、怒られるだけ怒られてみてようって。

編集部:
ううっ…その言葉、心に刻みます。

沖さん:
「猫写真家」としては歩んでいるのかもしれないけど、「写真家」としてはまだ全然劣るところもあるし、学ばなきゃいけないところもたくさんあると思っています。だからそういう意味で、できる限りやってみようと思って。

編集部:
これまで印象的だった、審査員からのコメントや視点はありますか?

沖さん:
タイトルとか、伝えたいことに対してのトリミングの仕方を考えた方が良いよねって、いろんな審査員の方から指摘いただいている気がします。これまでインスタグラムに写真をアップし続けていて、伝えたいことをトリミングして伝えているつもりなんですけど…インスタグラムで写真を観るときって、スマホのサイズで小さいじゃないですか。でもコンテストになるとA4サイズとかで大きくなりますよね。だから余白とかまだ全然考えられてないのかなって。でも写真評論家の飯沢耕太郎さんから「この写真のクオリティであと20~30枚あったら、面白い写真集になると思う」って講評されたとき、すごい嬉しかったです。

飯沢さんが審査でコメントされた写真/photo:Masayuki Oki

編集部:
そのときの審査は沖さんの写真集の発売前にあったので、写真集を出されることをご存じなかったんですよね。自身2冊目となる写真集「必死すぎるネコ」を出版された経緯を教えていただけますか?

沖さん:
2016年の春先に、自分の猫写真を使った2017年のカレンダーをつくりたくて、いろんな出版社に声をかけさせてもらったんです。それで辰巳出版の方にお会いすることができて、カレンダーの話と一緒に、「何か連載とかできたら…」と伝えたら考えてくださって、連載がスタートしたんです。当初は、連載がうまく波に乗ったら、いつか本にできるかもね、くらいのお話しだったんですよ。それでもし2冊目が出せるんだったら、悔いがないようにしたいなって。

編集部:
2冊目の制作が決まったとき、なにかリクエストをなさったんですか?

沖さん:
写真集のデザイナーさんですね。以前に写真展示したとき、写真家の梅佳代さんの写真にテイストが似てるよねってお客さんから言われることが多かったんです。じつは僕、そのときは梅佳代さんのことを存じ上げていなかったんですが、調べたら人の瞬間を面白くとらえていて、しかもストーリーがあって。写真集の2冊目をつくるんだったら、梅佳代さんが木村伊兵衛写真賞を受賞されたときの写真集「うめめ」をデザインした方、山下リサさんにお願いしたかったんです。

編集部:
なるほど。確かに沖さんのとらえた猫写真を観たときと、梅佳代さんの作品を観たときの感情は近いかもしれないですね。

沖さん:
そう。それで山下さんのすごいところは、僕にはできない写真の組み方とか、トリミングもシンプルなんですけど、全部分かったうえでなさっているんですよ。僕にとっても教科書みたいな存在の写真集ですね。たとえば、この写真(下写真)とか、じつは僕セレクトに入れていなかったんですよ。

photo:Masayuki Oki

沖さん:
でも山下さんに「これすごく面白い」って言われて。左上に憲法9条についての看板があって、平和の象徴の鳩がいて、それを猫が追いかけている、とか。

編集部:
純粋に「可愛い、すごい」だけじゃなくて、違うレイヤーのメッセージ性がありますね。

沖さん:
セレクトの基準も、きれいとか可愛いだけじゃなくて、見たときに心が揺さぶられるような仕掛けがあるんですよ。辰巳出版の方が付けてくれた「必死すぎるネコ」っていうタイトルも、そのひとつだと思います。

編集部:
いまSNSで写真を楽しまれる方も多いなかで、この写真集を手に取る方がたくさんいらっしゃるのは、そういった仕掛けや工夫が凝らされているからなのですね。沖さんにとって、写真集の魅力とは何でしょうか?

沖さん:
コレクション性があるのかな。僕の写真はSNSに全部転がっているので、その気になればピックアップできると思うんですよ。でも、本当に素晴らしいセレクターがセレクトして並べた本っていうのは、同じ作品だけど、受け取り方が違います。そういう意味では、写真集はひとつの個体になりますよね。分散されている写真を1つの本にまとめて、その1冊を作品として提案しますから。あとは、写真はモニターで見ている以上に、出力したものの方が目に入る情報量が多いことですね。モニターで見えなかったり、見落としがちなものが見えてくるんです。
写真集で見ると、猫の手元にトンボがいるのが分かります/photo:Masayuki Oki

編集部:
2017年の11月現在、なんと3刷目ですよね。反響も大きいのに、沖さんはいつも謙虚で、冷静に状況を把握されているような印象を受けるのですが、心境としてはいかがですか?

沖さん:
この本は、トンビが鷹を生む、くらいの気持ちで見てしまっているんですよね。それはやっぱり、いろんな方が手塩を掛けてくださっているので、僕の実力だとは思わないんです。自分の中では、今回ご褒美をもらったので、またイチからだなって思います。イチからまた猫を撮ろうって。

編集部:
日々初心を忘れずにいる、ということですね。

沖さん:
はい。猫が僕の前で何もしなかったら、僕は何も撮れないんですよ。瞬間を撮るって言ってるけど、猫が瞬間をくれているから撮れるだけであって、自分から瞬間をつくることはできないですし。そういう意味ではなんというか、偉そうにできないんですよね。それを猫が見ていて、「あいつ偉そうになっちゃって~」って思われたら、もう終わりかなって。

編集部:
以前仰っていましたよね。猫って人間の考えていることというか、雰囲気を察するというか。

沖さん:
そうそう。猫はやっぱり賢い。空気読みますね。撮らなきゃ!と思いながら焦っていると猫は何もやらないし、「次に移るか…」って思った瞬間に、何かやり始めたりとか。本当にタイミングを見ているんですよね。だから猫を撮るときは、できるだけ平静でフラットな状態にしておかないと。

編集部:
猫写真を撮るときのコツは、どうやって身に付けられたんですか?

沖さん:
最初のころは、猫を撮ろうとしてもパッと逃げられるから「何なんだろう?」って思ってて。それでずっと見ていたら、近所のおばちゃんが自転車で近くを通るのに、猫はピクリともしなかったんですよ。多分それが猫にとっては日常で、おばちゃんに何もされないことがわかっているから動かないんですよね。それで、じゃあ自分も「撮るよ!」って意識せずに、とりあえずカメラを触らないで「この猫、ジャマだなあ」って思いながら横切ったんです。で、そのあとにすぐカメラを出してグッてしゃがんで構えたら撮れたんですよ。本当に街の空気そのものになってしまった方が、猫もそこまで不快に思わないんだなって気づきましたね。

編集部:
なるほど。確か、いつも猫を撮影するときに回るルートとか場所を決められているんでしたよね。それも街に溶け込むためというか、空気をつかみやすいからですか?

沖さん:
そうですね。あと、そこに住んでいる人としても、路地裏に全然知らない人がカメラ持って居たら嫌じゃないですか。僕も嫌ですよ(笑)。撮っていくうちに気づいたんですけど、新しいところに行ったとしても、まず猫を探すのに時間がかかりますし、スペシャルなシーンに出会えるかといえば、100%ないんですよね。ずっと通っていれば、「これ奇跡だね」っていう瞬間って、絶対あると思うんですよ。だから奇跡が出やすいように、僕が入り込んでも波風たたない状態にして、ボーッと見ているようにしています。

編集部:
たしかに。地域猫だけじゃなくて、そこで暮らしている人としても「今日も撮ってるね~」っていう関係性のある人の方が、ピリピリしないですよね。

沖さん:
そうそう。新しい場所に行かなくてもいいんです。たとえば僕の撮影場所には、自分が働いていた職場のある街もあって、見慣れた風景なんですよ。それなのにたくさんの人から「これすごいね」言われて。ふだん見ていないだけで、見方さえ変えれば、奇跡ってあるんだなって思うんですよね。

photo:Masayuki Oki

編集部:
でもその奇跡が起きるまで、やっぱり長い時間をかけられますよね。沖さんの継続力とか、忍耐力ってすごいねって、たくさんの人に言われませんか?

沖さん:
よく言われます。そんな粘って大丈夫?しんどくないの?とか。でもね、本当に猫を見てると楽しいんですよ。なんだろう…若干気持ち悪いくらい(笑)。ずっと見とけって言われたら、ずっと見ていられます。自分としては、待って辛いなっていうより、待たないと猫は動いてくれないですしね。さっきも言ったように、猫って空気を読むから、こっちが気を抜いたときに、不思議と何かをはじめちゃって、撮れないときもあるんです。でも猫が好きだから、裏をかかれても「猫らしいわ」っていう言葉で済むと思うんです。

編集部:
猫への愛情とリスペクトが伝わってきますね。新作も楽しみです。

沖さん:
そうですね。初期の作品で、よくすごいねって言葉をいただく「ネコザイル」(下写真)という写真があるんですけど、やっぱり僕が60歳、70歳になっても、写真展とかでみんなから「ネコザイルを見に来たんです」って言われたら残念じゃないですか。それに同じスタンスでやってたら、飽きられたり、「あの人努力してないね」ってなるから、ずっとパーソナルベストを出していく気持ちでやっていかないと厳しいなと思います。

「ネコザイル」/photo:Masayuki Oki

編集部:
最後にひとつ、今後挑戦してみたいことがあれば、教えてください。

沖さん:
海外で猫を撮ってみたいです。現地で写真展や、出版もしてみたいですね。猫が多いところ…たとえばトルコとか。頑張って、ニューヨークでも写真展ができたらすごい楽しいと思うんですよ。「こんなに猫を愛している日本人って、気持ち悪いかも…でも面白いよね」っていう風に理解してもらえたら、自分が写真を撮っている意味があるのかなって思っています。いまはインスタグラムでも海外に発信もできるし、チャンスはあるのかなって。できるかできないかはわからないけど、猫はチャンスをくれるから、それをちゃんと逃さずにやっていけば、面白いことができるんじゃないかなって思うんですよね。

――沖さんが猫を撮影するときにずっと大切にし続けていること。
それは、猫への尊敬の心と、いつまでも学び続けたいという貪欲さでした。

沖昌之さんに訊く!猫のキホンの撮り方

 

■プロフィール:
沖昌之(おき・まさゆき)
1978年兵庫県生まれ。家電の営業マンからアパレルの撮影カメラマン兼販売員に転身。初恋のネコ「ぶさにゃん先輩。」の導きにより2015年に独立。独自の視点で猫を撮影し発表している。写真集に「ぶさにゃん」(新潮社)、「必死すぎるネコ」(辰巳出版)がある。
Instagram:@okirakuoki/Twitter:@okirakuoki
野良ねこちゃんねる。

 

「必死すぎるネコ展」

開催期間:2017年11月23日(木・祝)~11月26日(日)
場所:京都 GALLERY35KYOTO
住所:京都市中京区大黒町696(二条釜座上ル西入ル)
電話:050-5216-8867

■書籍情報

『必死すぎるネコ』
発売:2017年
価格:1,200円(税抜)
出版:辰巳出版
ページ数:96ぺージ
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『ぶさにゃん』
発売:2016年
価格:1,200円(税抜)
出版社: 新潮社
ページ数:96ページ
Amazon

ぶさにゃんカレンダー2018
にゃんこ相撲 カレンダー2018