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内藤由樹の海外武者修行ログ vol.13 友だちが戦闘の中にいるかもしれない。となったことで、平和を願った話

Magazine, レポート


2012年関西で行われた日本最大級の写真イベント「御苗場」でレビュアー賞を受賞した注目若手作家・内藤由樹。
現在世界各地を旅しながら写真を撮影している。
http://yuki-naito.tumblr.com

この写真武者修行は2013年の11月、パリフォトから始まったのですが、
出発前の10月にも1ヶ月間、タイ~ミャンマー辺りにいました。
その時に、ジャングルの中にある、反政府ゲリラ軍事基地にしばらく滞在していました。
字面だけみると随分と過酷な印象を与えてしまいますが、
森の中の秘密基地で(文字通り)同年代の軍人たちとキャンプをしているみたいでした。
簡単に説明をすると、ミャンマーは独立を求める少数民族と
それをひとつにまとめたい政府軍との間にいろんな問題が起きていて、
そのために結成された軍なのですが
想像していた「ゲリラ軍」とは違って、地域を守る自衛官という感じでした。

毎日近くの川に水浴びに行き(泥色)、みんなでご飯を食べて(料理をするテーブルにはトマトと手榴弾が同じように並べられていた)、ギターを弾いて歌ったり、ボードゲームをしたり、夜にたき火をしたりしていました。
ハンモックで、ライフル銃の手入れの、ガシャガシャン!という音をBGMに昼寝をしたり、たまに軍のハンターが仕入れて来た獲物(ヤギやカメやリスやカエル等)を料理したり。
女の子軍人と女子校みたいな話をしたり。英語もほとんど通じないので何言ってるかはわからないけど、共同生活の中でみんなととても仲良くなり、大家族みたいでした。

そうやって楽しく過ごしていると自分がどこにいるのか忘れそうになるけれど、彼らは軍人で、3年前にその地域で起きた内戦で戦いたくさん敵を殺して数人の仲間も亡くしたそうです。
基地の周りを散歩していると(地雷がまだ埋まっていたり山には野生の熊や象がいるので武器を持った数人の軍人の護衛付きじゃないとどこにも行けなかった)、ここで戦闘があったよ、とか、この穴に隠れながら敵を撃ったよ、とか話してくれました。
24時間体制で見張りをして、政府軍が攻めて来たらすぐに闘えるようにしていました。1日に2回、軍服を着て軍歌を歌い、寝る時もライフルを抱えていました。
お別れの時に、また会いたいねと言ったら、
戦争がまた起きても生き残るから会えるよ。敵を全部やっつけるから!と20歳の若い軍人は笑った。

前置きが長くなってしまいましたが先日(9月末)、彼らの基地がある少し北の地域で、彼らの所属している軍と政府軍の間で大きな戦闘が始まったそうです。なので、もしかしたら彼らがいま闘っているかもしれません。
誰も死なないで欲しい。と思ったけれど、誰もって何だ?と考えると、私の知っている彼らは誰も、でした。
旅行をしていろんな場所でいろんな人と知り合うと、幸せに生きていて欲しい人が増え世界が平和になればいいなーなんて思ったりします。

たまに訃報がきて悲しくなるけど、病気や事故で亡くなるのは仕方ない、出会えたことを喜んで、ご冥福をお祈りしよう、亡くなってこんなに悲しくなる人が増えていくのも人生だな。なんて考えます。
けれど、
「いま友だちが人を殺したり、人に殺されたりしているかもしれない」なんて考えるのが初めてで、そのことをうまく捉えられません。
戦闘があって、全員が無傷なんてことはない。
あの子たちと会えたのだって、彼らが敵を撃って生き残ったから会えたのだし、敵に撃たれて死んでしまった彼らの仲間には会えなかった。
彼らとまた会いたいから生き残って欲しいけど、友だちが人間を殺すということを、しっかり受け止められないが、知らない人よりも友だちの方が大事なので、もし闘っているのなら負けないで欲しい、勝って生き延びて欲しい。

でも、敵の方の人たちと知り合っていたら、その人たちの無事を祈り、いま友だちの軍人たちが負けて死んでしまうことには、いまのように心を痛めなかったのだろうな。
そんなこと、みんな同じ人間なのに、どうやって勝手に分けて、絶対生き延びて欲しいとか、友だちが生き延びるためなら敵の生死はかまわないとか、何で考えてしまえるんだろう。

軍事基地にいた時に軍人のひとりが、
「たくさん殺したけどほんとはもう誰も殺したくなかった、でもまた戦争になったら殺す、軍人だから。」
と泣きそうな顔で言ったのを思い出しました。
ああもう、本当に、平和になって欲しい。
平和が何なのかわからないけど、少なくともこんな気持ちになることはないだろう。
友だちが殺されるかもしれないことで改めて「平和になって欲しい」と認識するなんて、気楽な日常を送っているんだなあと呆れたけれど、わたしは、どこで何が起ろうが、YouTubeを見て時間をつぶしたり友だちと呑みに行ったり写真のことで悩んだりしている。

そんな自分が少しだけ考えたところで世界にとっては何も意味が無いけど、こんなことには答えが無いけど、適当なところで妥協点を見つけて仕方ないことだと納得して、自分には関係ないふりをすることはやめよう絶対に、と、これだけは決めている。

内藤由樹 / ないとうゆき
1987 年大阪府生まれ。2013年 キヤノン写真新世紀 佐内正史選・佳作/第2回御苗場夢の先プロジェクトグランプリ/キヤノンフォトグラファーズセッション ファイナリスト/2012 年 御苗場vol.11 関西 レビュアー賞/写真集に「being」(2013年・TIP BOOKS)がある。

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