選ばれる人は何をしているのか?表現を豊かにする作品制作のルール~紅たえこさんの場合~


 御苗場vol.15関西でエプソン賞を受賞した紅たえこさん。どこにでもいる鳩をモチーフにした作品は、展示とポートフォリオそれぞれが異なる視点でまとめ上げられ、審査員からも高い評価を得ました。どのようにして作品としてまとめたのか、お話を伺いました。

生々しいエネルギーを発する鳩を捉えたい

――誰もがよく見かける鳩を被写体としていますが、展示作品はどれも群れを成している鳩ばかりですね。

 はい。奈良県にある猿沢池で観光客が鳩に鹿せんべいをあげていたんですが、太陽が照りつける中、ものすごい群れで鳩がせんべいに喰らいついていたんです。その勢いに一目惚れしてしまい、御苗場vol.15関西が開催される1年前くらいから今回の作品を制作し始めました。

――どうして撮りたいと思ったんですか?

 鳩は都会や川原で人間のように群れて暮らし、人間の撒く餌やゴミなどで生きています。それは飼いならされているわけでもなく、人間との関係が無いわけでもない。自然界と人間社会の狭間に鳩がいるように感じました。そんな人間と動物の臭いが混じる、独特で生々しいエネルギーを発する鳩を捉えたいと思ったんです。そんな彼らのエネルギーを作品として表現するには、餌に群がっている姿が一番分かりやすいと感じました。

「御苗場vol.15関西」展示風景

展示は一目で伝わるもの、ブックは枚数を重ねないと伝わらないもの

――展示とブックでは、表現や視点がちょっと違うと感じたのですが、その点は意識されましたか?

 展示については、できるだけ鳩のエネルギーが伝わるようにしたかったので、額装はせずにプリントを壁に直貼りしました。16枚組でひとつの塊のように見えるよう、隙間なく展示しました。鳩の群れている感じも伝わるのではないかと思います。少し見上げるくらいの高さで展示することで、圧迫感や神々しさのようなものが出るかと思いました。
 ブックは、展示で表現している鳩の爆発的なエネルギーを説明するような気持ちで制作しました。どこか人間臭い鳩や、都会で弱りながらも生きている鳩や、今まさにパンくずを飲み込もうとしている鳩。ページをめくるたびに飛び込んでくる彼らのありのままの姿から、より独特で生々しいエネルギーが伝わるかと思います。
 展示は一目で伝わるもの、ブックは枚数を重ねないと伝わらないもの。私の展示とブックの関係はそんなイメージです。

展示は16枚組で鳩が持つ独特のエネルギーを表現

▲ブックに収められた写真は、餌に喰らいつく様子など、鳩そのものの生々しさを意識▲

 
――なるほど。作品を制作する上で、何か工夫された点はあるのでしょうか?

 ブックは大きいサイズにしたい気持ちもありましたが、200名近くの出展者が作品を展示している御苗場会場で、自分の作品で足を止めて頂く為に、片手で持てるサイズで見てもらえるブックがいいなと思いました。そこで、ブックは六つ切りサイズにしました。

――ブックの写真枚数は50枚とのことですが、その枚数に絞り込むまでどういった苦労がありましたか?

 写真のセレクトと管理ですね。特にセレクトに関しては普段から悩まされています。限られたブックのページ数の中で、どうすれば同じような鳩の写真を飽きずに見てもらえるのか、かなり悩みました。
いつも自分が撮影した写真に対してセレクトの仕方が甘くなりがちで、シンプルにまとまらず苦戦しています。

――ブックに入れる写真のセレクトにつまづいてしまった時、どのようにして中身と向き合っていますか?

 時間を置いて冷静になってから見返す、周りの方からのアドバイスを参考にするなどしながら、何度もセレクトを重ねています。時間を置くことに関しては、以前モチベーションが下がってしまったことがあったので、間を置き過ぎないように気をつけています。これらの作業を行うことで、客観的に自分の作品と向かい合うことができると感じました。また、セレクトで迷った時はコンセプトを見返すようにして、構図や色ばかりに囚われないように心がけています。
 とにかく「客観的視点」と「コンセプト」が私の中では重要だと考えています。その2点を重視しながら作品制作をしていけば、最初から最後までの全体的な流れや、レイアウト、写真の組み合わせに対する意識が磨かれてくると思っています。

――御苗場に出展し、受賞の経験をされたことで何か変化はありましたか?

 思いがけず自分の作品を認めていただけて、嬉しいと同時にしっかりしなければ、と思いました。作品を見た方から色んな言葉をいただきますが、舞い上がり過ぎず落ち込み過ぎず、作品を作っていこうと思います。

――次回は、展示やブックの作品のまとめ方について、エプソン販売株式会社のプロフェッショナル・アート・プリンター小澤貴也さんと、Tokyo Institute of Photographyディレクターの速水惟広さんにお話しいただきます。お楽しみに!

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紅たえこ
1993年奈良県生まれ。高校3年生の時にポートレイトを撮り始め、現在は写真表現大学に通っている。同学校のゼミ修了展が3月16日(月)~28日(土)まで、大阪のGALLERY wks.にて開催予定。初めて人間を被写体とした作品を出展する。6月には個展開催も控えており、精力的に作品制作をしている。beni21.com