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HOW TO / 作品制作のヒント

写真家を志す人へ テラウチマサトの写真の教科書 第5回 100回のフォトコンテスト審査を経て気づいた審査の傾向


写真の学校を卒業したわけでもない、著名な写真家の弟子でもなかったテラウチマサトが、
約30年間も写真家として広告や雑誌、また作品発表をして、国内外で活動できているわけとは?

失敗から身に付けたサバイバル術や、これからのフォトグラファーに必要なこと、
日々の中で大切にしていることなど、アシスタントに伝えたい内容を、月2回の特別エッセイでお届けします。

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10月20日(金)配信のデジタル雑誌「PHaT PHOTO」でのフォトコンテストの審査員。左から、佐藤時啓さん(写真家)、飯沢耕太郎さん(写真評論家)、テラウチマサト(写真家)。いつもそうそうたる審査員が真剣に審査を行っている。

PPCコンテストは「PHaT PHOTO」創刊以来続く人気企画である。2017年7‐8月号が100回目だった。

創刊からずっと毎号3人の写真に関わる著名な人たち(写真家、キュレイター、デザイナー、写真評論家等々)に出ていただき、3名の審査員が重複可で1位から2位、3位と特別賞(順位には入らなかったが応援したい作品)を選んでいく。

3人にしたのはそれぞれの審査員がどんな基準で写真を選んでいくのか、そのプロセスや結果に私自身興味を覚えたし、読者も面白がってくれるのではないかと思ったからだ。

お陰様で100回を通してさまざまな審査員に出ていただいた。激論になって「これを選ぶなら私は退室する」と言われたアートディレクターや「あなたにはこの良さが分からないのよ」と自説に強く拘って反論される方など、その現場はとても面白い。

その中で100回全ての審査に参加する、という特別な体験をしている。結果、気づいた興味深い2つのことがある。

1つ目、何だかんだといっても一同が介して一度で決める審査だから、ある傾向が生ずることに気づいた。それは、印象深い作品、ファーストインプレッションが強い作品が上位に選ばれるという傾向だ。

単純に目を引くとか、インパクトが強いからとか、そんなことだけで選ばないように、審査員の皆さんは慎重に審査されているのだが、どうしても主張してくる強い作品に目がいきがち。

目立たなくともじんわりと良さを伝えてくる写真は、1日で決める審査ではアドバンテージをどうしても目立つ写真に奪われる傾向にある。

静謐な写真、秘めたパワーを持つ写真にもエールを送りたいので、今後は審査の席で100回を超えたデータから気づいたこととして、「(気をつけていても)ファーストインプレッションの強い作品を選ぶ傾向にある」ことをお話しして審査を開始するよう進めていきたい。

事前説明はバイアスがかからないように慎重にしたうえで説明するつもりだ。別段、目立つ作品が悪いということではなく、最初の印象が時間の経過とともに薄れていくことがある作品と、時間経過のなかでも劣化していかない作品の見極めをしっかり行いたいということだ。

2度、3度、時間をおいて審査をしたら順位が変わってしまったということがないようにしていきたい。つまり、写真にも賞味期限があるのだと感じる。あれほどいいと思っていた作品が日を追うごとに普通なものに見えてくる。

見慣れてくると第一印象が弱まる。どれだけ気をつけていても、どんな方でもそんな傾向が1回だけの審査では生まれることがあると感じる。

自身が審査をした写真展を後日見に行った際に、「あれ、この作品を何故もう少し上位にしなかったのだろう?」という気持ちになることもある。こんな日は、自分自身で反省しきりである。

2つ目は、「1枚の写真だけで良しあしを語るのは無理があるなぁ」というコメントを講評中に聞くことがある。審査員の常套句のように出てくる。このコメントには2つの種類があることに気づいた。

・タイプA 、ほんとに評価することに悩んだ結果出てきたもの。

・タイプB、コメントするに難しく、少し面倒になって出てきたもの。

タイプBだと判断したら(こちらが間違ってタイプA だった時もあったが)必ずこのように突っ込むことにしている。

「このコンテストは最初から1枚だけで選ぶ審査です。それに1枚だけでもいい写真というのはありますよね!」こんな言い方をするから議論は激しくなるのだが、それがどこか自分の中では嬉しい気持ちもある。

「写真界の田原総一朗だね」と言われたこともある所以だが、読者にとってもその方が嬉しいはずだ。「トラブルラブ!」の理由は、それが読者にとって有益だと考えているからだ。

写真には賞味期限があるからこそ、それを超えていく奥深い作品も生まれる。「Timeless」という言葉は時を超えていくということ。賞味期限のロングな写真は本当に素晴らしい。

故に名作と呼ばれ、簡単には生まれないのだろう。Timelessな作品を首をながーくして待っています。

◆プロフィール
テラウチマサト
写真家。1954 年富山県生まれ。出版社を経て1991 年に独立。これまで6,000人以上のポートレイトを撮影。ライフワークとして屋久島やタヒチ、ハワイなど南の島の撮影をする一方で、近年は独自の写真による映像表現と企業や商品、及び地方自治体の魅力を伝えるブランドプロデューサーとしても活動中。2012年パリ・ユネスコにて富士山作品を展示。主な写真集に、「ユネスコ イルドアクトギャラリー」でも展示した富士山をとらえた『F 見上げればいつも』や、NY でのスナップ写真をまとめた『NY 夢の距離』(いずれもT.I.P BOOKS)がある。www.terauchi.com

 

第1回 気が付いたら写真家になっていた
第2回 私の修業時代
第3回 本当なら、僕は選ばれなかった?
第4回 機材編:写真の出来栄えはレンズで変わる?
第5回 100回のフォトコンテスト審査を経て気付いた審査の傾向
第6回 11月6日(月)更新予定

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STORY TELLER / 写真家達の物語 vol.37

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