第43回木村伊兵衛写真賞受賞、小松浩子のインスタレーションをたどる


第43回木村伊兵衛写真賞を受賞し、5月7日(月)までニコンプラザ新宿 The Gallery1で同時受賞の藤岡亜弥と一緒に受賞展を開催している小松浩子。
小松は今回、展覧会のインスタレーションが評価されての受賞となった。

2017年「人格的自律処理」ギャラリーαM(東京)

4月7日(日)に六甲国際写真祭のイベントとして東京・京橋のTOKYO INSTITUTE OF PHOTOGRAPHYにて開催された「写真とインスタレーションの最前線」で語られた過去の展示作品を振り返りながら、小松浩子はどのような写真家なのか、紹介していきたい。

登壇者:小松浩子(写真家) タカザワケンジ(写真評論家) 杉山武毅(六甲山国際写真祭代表、Mirage Gallery代表)

1点1点をきちんと見せない

第43回木村伊兵衛写真賞の受賞対象となったのは、小松が2017年9月9日から10月14日までギャラリーαM(馬喰横山)で開催した展覧会。

2017年「人格的自律処理」ギャラリーαM(東京)

おびただしい数のプリントが、床と壁に貼り巡らされ、天上のワイヤーからは、巨大なロール紙がまるで今も延々とプリントアウトされ続けているかのように波打ちながら垂れ下がっている。

木村伊兵衛写真賞は、毎年1月~12月までに雑誌・写真集・写真展などで発表された作品を対象としており、展覧会が受賞対象作になることは今までもあったが、
小松は主にインスタレーションの空間構成が評価されての受賞となった。

「この時に使ったロールペーパーは270m。壁と床に展示している六つ切の印画紙は約3000枚使って。発砲スチロールに巻かれている印画紙も大全紙で50㎝×60㎝が9点。それ以外はテキストとデジタル化した8㎜映画で構成していました」(小松)

2017年「人格的自律処理」ギャラリーαM(東京)

1点1点の写真と対峙して観るというよりは、空間全体が圧倒的に迫ってくるような体験だ。

「1点1点はすごく大事にしているものの、1点1点ちゃんと見られないようにしています。時系列を無視してたくさんの写真を並べていますので、1点を集中して見ようとしたところで隣のイメージなどに引っ張られて、その人の視線が動いてしまう現象が起こるんです。それは意図的にやっているのですが」(小松)

「ロールペーパーで遮られたり、テキストがあったりして見通しが効かないんですよね。1枚だけの写真に焦点を絞ることができない。そういう時って、頭の中で自分の視覚を意識しなおして画面を再構築しているような気になる。非常に写真を撮りたくなる展示で、フレーミングすることによってどんどん新しいイメージが生まれてくる展示なんです」(タカザワ)

展覧会に訪れた人が写真を撮ってSNSにあげることもしばしば。

「平面的に撮る人もいれば、奥行きのあるように撮る人もいる。その人がもつ写真に対する考え方とか展示に対する考え方が如実に表れていて、SNSにアップされる写真を集めても面白いかもしれませんね」(タカザワ)

小松が写真を撮り始めたのは2006年。写真家の金村修氏のワークショップに参加していた。3年で作品がまとまり、初個展は2009年11月のギャラリー山口だ。

最初から、現在のようなダイナミックな展示方法だったのだろうか。

「初個展の時からロールペーパーを使っていました。35㎜カメラで撮っているのですが、大きく伸ばせるか気になって、ちょっとやってみようと思ったのがきっかけです。
大きいとみんなびっくりするかなと思って始めたのですが、ふだん六つ切でプリントしていたので、自分がいちばんびっくりしましたね。
これはすごい!と思い、続けてやろうと思いました」(小松)

2009年「チタンの心」ギャラリー山口(東京)

写っているのは、資材か、廃材か?

写真に写っているのは、都市近郊にある工場の屋外の写真だ。

「湾岸地帯などに下請けの小さい工場がいくつもあるのですが、その資材・廃材置き場などを対象にしています。物が集積してあるけれど、何に使われるかわからなくて、どういうルールで置かれているかわからない。そんな状況をよく撮ります」(小松)。

中国語のWebサイトで「木村伊兵衛写真賞を受賞した小松は、廃墟を撮っている写真家だ」と見出しに書かれた記事があったそうだ。

「それは間違った情報なのですが、イメージとしては確かに荒廃している。プリントもある種の乱暴さがあって、ロールのうねった感じが、廃墟になっているというか。
資材置き場が写っていても、展示されると使用された後の一種の廃墟空間になっている。その不思議さを、間違いが教えてくれるっていう…」(タカザワ)。

「写真を撮ったらその時間って止められるから、壊れている方に向かっているか、作っているほうに向かっているかは、1枚ではわからない。でも、物って有機物でも無機物でも、出来上がったときから終わりに向かっている。経年劣化イコール人間でいえば老化、機能停止は死で。絶対死に向かっている。印画紙もプリントされて出来上がったときから劣化に向かっているんです」(小松)

ロール紙をまるごと使う

初個展のあと、2010~2011年は「ブロイラースペース」という自主ギャラリーを運営していた。30代になってから写真を始めたため、少しでも早く追い付こうと、普通の人の10年分を1年でやってみようと思ったのがきっかけだ。

写真家と2人で始めたブロイラースペースは、国道20号沿いにある二階建ての建物。いわゆるホワイトキューブではなく、濃いブルーに塗られた壁や濃い緑の階段など、なかなか個性的だった。1年間限定ということもあり、そのまま使うことにした。

毎回実験的な要素を取り入れながら個展を開催していた。

「必ず新しいことを試すようにしていました。前回の展示で反省したところ、思いついたことを次の展示で試します。
たとえば、ロールぺーパーはいつも30mと20m巻きの規格サイズを切って使っていたんですが、ブロイラースペース7回目の時にはそのまま使いました。『規格サイズだから切っちゃいけない、人間の手が入らない部分も必要』と思って。20mそのまま使いたかったんですが、部屋が狭かったので、窓を乗り越えるとか、壁も柱も乗り越えるということをやって部屋を一周まわしています」(小松)

2011年「Monthly Exhibition #07」ブロイラースペース(東京)

2011年「Monthly Exhibition #07」ブロイラースペース(東京)

「写真は二次元なのでふつうは平面を1単位で考えると思うんです。柱や窓は置いておいて、壁を展示する。でもそれだと収まらないから、柱や窓の部分を乗り越えてしまう」(タカザワ)

2011年、トキ・アートスペースでの展示でもロール紙が活躍している。

「図面をもらったら、壁が一周で30m。30mロールをそのまま見せられると思い、2段掛けにして展示しました」(小松)

「床のテキストを止めている石はギャラリーの近くの石を拾って、搬出が終わったら捨てて帰りました。いまはもっと工業製品の金属片みたいなものを置くようになりました。この時までは有機的な感じがあったのかもしれないです」(小松)

2011年「拡張スロット」トキ・アートスペース(東京)

土足で写真の上を歩く「床」展示

2013年にphotographers’galleryとその隣のKULA PHOTO GALLERYで展示を行った際にも、新しい試みに挑戦した。床に写真を敷き詰めたのだ。

「“写真を踏む”ということが注目されるのですが、私は部屋の内部をつくっている感覚があるんです。内側に入ってもらうことが重要なので、踏まないで浮いて入ってもらってもいい。中に入ってもらうことが重要なんです。中を歩いてもらうと、景色が変わって見え方が変わります。タカザワさんと私は背の高さが違うので見え方が変ります。その人が持っている体験も含まれるので、個別の経験になる」(小松)

2013年「毒皿方針」photographers’gallery/KULA PHOTO GALLERY(東京)

2013年「毒皿方針」photographers’gallery/KULA PHOTO GALLERY(東京)

「photographers’galleryはロール紙のみ、KULA PHOTO GALLERYは六つ切とテキストを配置。六つ切は上で2点留めにしていたら、下は湿気でくるくると丸まったんです。2点留めが活かされました」(小松)

「風が吹いているように見えますね。KULA PHOTO GALLERYはかなり狭いスペースですが、全面にプリントがびっしりでした」(タカザワ)

2013年「毒皿方針」photographers’gallery/KULA PHOTO GALLERY(東京)

「ロール紙の上は絨毯みたいであまり抵抗はありませんが、六つ切のプリントを踏むのは、気持ち的に背徳感がある。入るのに躊躇する人もいましたね」(タカザワ)

さらに2015年The Whiteで開催された個展「公開自意識」からは、発泡スチロールに貼られた写真をラップで巻く手法も取り入れられた。

2015年「公開自意識」The White(東京)

イタリアの財団が壁面を丸ごと購入

小松のインスタレーションは海外でも高く評価されている。2015年にはドイツの6th Fotofestivalで発表された作品の壁面がイタリアのMAST財団による収蔵作品となり、ボローニャのMAST.GALLERYで展示された。作品の買われ方もダイナミックだ。本作も今回の木村伊兵写真賞の受賞対象作品となっている。

2017年「The Wall, from 生体衛生保全, 2015」MAST (イタリア・ボローニャ)

2017年「The Wall, from 生体衛生保全, 2015」MAST (イタリア・ボローニャ)

展覧会ごとに新しい試みにチャレンジし、どんどん進化している小松浩子のインスタレーション。

現在開催中の木村伊兵衛写真賞受賞作品展にて、その場に身を置いたときにどう感じるか、実際に体験してみてほしい。

第43回 木村伊兵衛写真賞受賞作品展
日程:開催中~5月7日(月)まで 日曜休館、5月3日(木)~5月6日(日)休館
会場:ニコンプラザ新宿 THE GALLERY 1
住所:東京都新宿区西新宿1-6-1 新宿エルタワー28階日程:6月14日(木)~20日(水) 日曜休館
会場:ニコンプラザ大阪 THE GALLERY
住所:大阪市北区梅田2-2-2 ヒルトンプラザウエスト・オフィスタワー13階

小松浩子個展「限界非効用」
日程:開催中~5月6日(日)まで 2か所同時開催
会場:RAINROOTS 名古屋市中区松原1-9-13、MUNO 名古屋市中区大須1-24-51