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恐るべきダンサーの写真ドラマ。細江英公『おとこと女』|飯沢耕太郎が選ぶ「時代に残る写真集」Vol.13

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細江英公『おとこと女』(カメラアート社/1961年)、[復刻版](ニューアートディフュージョン/2010年)※写真は復刻版

細江英公は1933年、山形県米沢市で生まれ、東京・葛飾で育った。1954年に東京写真短期大学を卒業、56年の初個展「東京のアメリカ娘」で注目され、59年に東松照明、奈良原一高らと写真家グループVIVOを結成した。VIVO解散後、『おとこと女』(1961年)、『薔薇刑』(1963年)、『鎌鼬』(1969年)と次々に意欲作を発表する。また、東京工芸大学教授、清里フォトミュージアム館長などを歴任した。

細江英公は1959年、東京・日比谷の第一生命ホールで、土方巽が踊る「禁色」を見て大きな衝撃を受けた。のちにその時のことを、「私は観客席から飛び出して舞台裏の楽屋に走って行き、[中略]抱きついたのか握手をしたのかは忘れたが、恐るべきダンサーの出現に声もよく出なかった」と回想している。細江はすぐにこの「恐るべきダンサー」を被写体とした

「写真のドラマを作る」ことを構想し、築地にあったVIVOのスタジオで、土方とその仲間のダンサーたち、さらにファッションモデルの石田正子を撮影し始めた。


「おとこと女」と名づけられたそのシリーズは、1960年4月に小西六フォトギャラリーにて開催された個展で発表され、日本写真批評家協会新人賞、及び富士フォトコンテスト年間作家賞を受賞する。さらに同シリーズを再構成し、山本太郎の詩、エド・ファン・デル・エルスケン「細江英公の“おとこと女”について」と福島辰夫「“おとこと女”——不幸の実験」という2編のエッセイを加えたデビュー写真集『おとこと女』がカメラアート社から刊行された。

写真批評家の福島辰夫は、その「“おとこと女”——不幸の実験」の中で、「いわゆる女性写真でもなければ、人物写真でもない。[中略]いままでのヌード写真のように、ヌードそれ自体を追求しているのではなしに、いわば、現代の人間追求の一つの方法として、人間の体を見ているのだから、これは、いわゆるヌード写真でもない」と評している。では、細江がこのシリーズに込めた意図は何なのかといえば、「人間の根源的な『生』の渇望、うめき、憎悪、そのなかでの愛、そのなかでの自由」の表現だというのだ。

たしかに、粗粒子、ハイコントラストの荒々しい画像で捉えられた、生身の肉体のぶつかり合いは、「生」あるいは「性」への渇望をさし示しているように見える。それを可能としたのは、細江の天性の演劇的構想力と、のちに『鎌鼬』でもモデルをつとめることになる稀代の舞踏家、土方巽の、たぐいまれな身体表現の能力だった。

飯沢耕太郎が選ぶ「時代に残る写真集」Vol.13
細江英公『おとこと女』(カメラアート社/1961年)、[復刻版](ニューアートディフュージョン/2010年)

<INFORMATION>
飯沢耕太郎さん監修『日本写真史 1945-2017 ヨーロッパからみた「日本の写真」の多様性』
荒木経惟、安齋重男、石内都、伊島薫、大森克己、川内倫子、川田喜久治、北井一夫、澤田知子、志賀理江子、柴田敏雄、須田一政、鷹野隆大、土田ヒロミ、Tokyo Rumando、長島有里枝、蜷川実花、野村佐紀子、畠山直哉、HIROMIX、細江英公、森村泰昌、森山大道、吉行耕平
米田知子 (順不同・敬称略)

著者:レーナ・フリッチュ
監修:飯沢耕太郎
価格:本体5,500円+税
出版:青幻舎

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