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HOW TO / 作品制作のヒント

フォトコンテストで上位に選ばれた理由は?講評をチェック!


見れば見るほど、味わいのある作品

7位「今日は『あれ』だな」松橋勝


――続いて7位は2作品あります。最初は、自由応募で松橋勝さんの作品「今日は『あれ』だな」。テラウチさんが3位に選ばれました。

テラウチ 黒い影が大きく入っていて、その先に誰かの足と鳩が写っている。この不思議な切りとり方は何なんだろうと興味が湧きました。写っているものの組み合わせが妙で、なんとなく見過ごせない1枚でした。

佐藤 最初に見た時は、鳩ではなく、座っている人が本を広げているように見えました。黒い部分は堤防とのことですが、そこから覗く足も黒いので、同化して1つの塊のように見えますね。黒い塊に、背景も建物が並んでいる。生を感じさせるのが鳩の動きで、そのギャップが面白かったです。

テラウチ 僕には黒い塊がまるで象の鼻のようにも見えました。写っているのはどこにでもあるものですが、写真にすることで全く違うものに見えてくる。見れば見るほど、味わいのある作品です。

熊谷 鳩が堤防に降り立つ瞬間の捉え方が面白いですね。ただ、タイトルと写っているものの整合性がとれていないような気がしました。

どういう意図で作者がこのタイトルを選んだのかがわからなかった。不思議な構図の魅力はありますが、もう少し説明があったほうがよかったかなと思いました。

寂しい雪国を表した、丁寧な仕上げ

7位「果てぬ冬」池上陽久(富山県)


――同じく7位は、自由応募で池上陽久さん「果てぬ冬」。熊谷さんが3位に選ばれました。

熊谷 富山で撮影されたとのこと。雪の感じは少し違いますが、僕は北海道の雪国で育っているので、この作品を見てなんとなく懐かしい気持ちになりました。ふとした瞬間に、こういう情景を思い出すんですよね。

色のトーンは暗めで統一されていて、車の赤いランプだけが浮かんでいる。このランプがなかったら、あまりにも寂しい写真になっていたと思うんですが、それが逆に雪国を象徴的に表しているように思いました。

テラウチ フードを被って散歩をしている人の様子が、厳しい雪国で生きている人の生活を感じさせますね。景色自体は暗いけれど、そこで確かにしっかりと生きている人々の暮らしが伝わってきて好きな作品でした。

ただ、もしかしたら車の中から撮ったのかなと思って、その部分が気になりました。手前に車が往来しているような黒い影が写っているので、できれば車から降りて撮ってほしかったなと。その点が少し惜しかったかなと思います。

佐藤 印象的な色合いのプリントですね。背景に家がうっすら写っていて、細かい部分の表現もきちんとできています。全体的なトーンも調整されていて、しっかり考えてこの1枚を仕上げようという作者の想いが伝わってきました。

背景のボケが、被写体を浮かび上がらせている

9位「彼岸」求磨川貞喜(岡山県)


――続いて9位も2作品。まずは、自由応募で求磨川貞喜さんの作品「彼岸」。テラウチさんが特別賞に選ばれました。

テラウチ 服と背景のボケ味が合っていて、全体的にまとまりを感じました。画面の切りとり方も面白かったです。背中側から花を持っている人を撮るというのは、割と珍しいので目に留まりました。木漏れ日の下なのでしょうか。背中の光が当たっている部分と、暗い部分のバラつき具合も美しかったです。

佐藤 光とボケが綺麗ですよね。背景のボケゆえに、被写体が非常に浮き出てきていて、自然と視線が背中に集中する。撮りたかったものをしっかり見せることができている点がいいと思いました。

熊谷 菊の花や枯れたような背景の色味、光の具合から、秋の彼岸であることが読み取れました。統一感のある画面構成がいいですね。これからお墓参りに行く場面なのでしょうか。自分のおばあちゃんや家族を思い出させるような作品でした。

光やポイントをおさえた、意図通りの良い出来

9位「もう春がきこえている」山本達也

――同じく9位は、自由応募で山本達也さんの作品「もう春が聞こえている」。佐藤さんが特別賞に選ばれました。

佐藤 グラデーションを綺麗に写し出していますね。木の幹を中央に置いて黒いシルエットで見せたことで、がっしりとした存在感も表現できています。枝のディティールも面白くて、思わず見入ってしまいました。普通は見過ごしてしまうような景色ですが、作者の方がまず光を見て、どこをポイントにしようかと、ねらって撮られている。そういう意味では、意図通りのとても良い出来だと思います。

熊谷 明から暗のグラデーションと枝で冬を、上に咲く花で春の予感を表現したとのこと。実際撮影されたのは、春先なんでしょうか。階調を変えることで、2つの季節をまたぐような表現を試みた点は面白かったです。

テラウチ 大胆な構図で迫力がありました。広角レンズで下から仰いで撮っているので、遠近感も強調されています。全部を枝にするのではなく、上の方に花を入れたところもよかったです。上からの光で花びらが透過して、濃いところと薄いところがある。枝だけだと単純に冬枯れの風景になってしまう気がするので、いい切りとり方だなと思いました。


いかがでしたか?
同じ作品でも、審査員によって見ているポイントが異なりますね。
三者三様、それぞれの評価軸の違いが面白い講評でした。
次回は入選作品7点の講評をご紹介します!


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