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HOW TO / 作品制作のヒント

小林正明・松本友希・テラウチマサトがフォトコンテストでその写真を選んだ理由は?講評をチェック!


「PHaT PHOTO」の人気コンテストPPC。
毎号異なる3名の写真関係者を審査員としてお招きし、審査を行い、座談会形式で3名の視点から講評します。
上位50作品は必ずコメントがつくフォトコンテストです。

本記事では、上位9作品に続いて、入選7作品をご紹介します。

審査員:小林正明/松本友希/テラウチマサト

メッセージを伝えるための表現を

「息子(ある1日)」岩田徳彦(広島県)


――ここからは入選作品です。自由応募で、岩田徳彦さん「息子(ある1日)」。

松本  全体的に青い色味で、寒い季節だということは伝わるのですが、ここから何が言いたいのかはわかりにくい気がしました。この子を通して他の人と共有できることがあるといいかなと。もっと引いた状態で背景も見せてあげると、そこが見えてくると思います。

小林  確かに作者の意図がわかりませんでしたね。今はみなさんスマホの中にたくさん写真データがあると思うんですが、その全体の中のパーソナルな1枚。何千万カット、何億カット分の1のような写真に見えました。審査に出す作品としては、少し主題が読みとりづらかったです。

テラウチ  きっと作者の中には、これを撮ることで伝えたいメッセージがあったと思うんですね。でも、その考えを表現するための足跡が見えなかった。作品や撮影意図なども見ましたが、決定的な要素に欠けている気がしました。

その場にあるものをどう活かしていくか

「青空の下、大漁を願って」畠山雄一郎(宮城県)


――続いて、自由応募で畠山雄一郎さん「青空の下、大漁を願って」。

テラウチ  あえて人物を小さく入れて、青空の広さと大漁旗の存在感を表現したとのこと。書かれていることは理解できますが、まだそこまでは表現しきれていない気がしました。構図を引くことも重要だと思うのですが、少しバランスが悪いような感じがします。青空と旗と人を、もっと切りつめて撮ってもよかったかもしれません。

松本  最初に左側の人物の影に目がいってしまったので、右側の男性の意味がわかりませんでした。このシーンを作者がどういう風に見たのかが伝わりづらかったですね。

たとえば、真ん中から右半分を入れず、旗、日の丸、影などのアイコン的な要素だけで切りとってみるのもよかったと思います。その場で感じたことを、そこにあるものを活かしてどう表現していくのか。もう少し表現の仕方を考えてみてほしいです。

小林  テラウチさんが言われたように、文章と写真のバランスがあまりとれていない感じがしましたね。写真家である以上は、文章よりも写真で語ってほしい。単純に青い空は美しいなと思いましたが、それ以上には心が引き込まれる作品ではありませんでした。

答えをあえて見せない切りとり方

「へっぴり腰。」okirakuoki(東京都)


――次は、自由応募でokirakuokiさんの作品「へっぴり腰。」。

テラウチ  よくこの瞬間を捉えられましたね。いつも猫写真を応募してくださるのですが、別の生きものとの組み合わせは新鮮でした。

亀も写したことで状況はわかりやすいですが、亀は入れずに切りとった方がよかったかもしれません。なぜ驚いているのかの答えが出てしまっているので、あえて見せない方がインパクトだけで終わらない写真になったと思います。

小林  説明のいらない写真ですね。それはいいですが、
猫を通して何かが伝わらないと、作品としては弱い気がします。面白いポーズの向こうに何があるのか。見せ方で工夫できる部分はありそうです。

松本  よく撮られたなというのが第一印象です。素直に誰でも楽しめる写真だと思いますが、1枚で見た時に、最初の「おっ!」と思ったところで終わってしまうような気がして。亀が行き過ぎた時の猫の反応だったり、このシーンの中でもっと他に面白い部分があったんじゃないかなと思いました。

タイトルではなく、写真で伝えるための工夫を

「入学式」shikalovin


――続いて、テーマ応募でshikalovinさんの作品「入学式」。

小林  入学式で、双子の男の子が一方はぐずり、一方は上機嫌で隅で見切れている様子とのこと。うまくドキュメンタリータッチで捉えていて、仕込みもあり面白い写真だと思います。もう1人の子の顔も見てみたかったですね。

松本  後ろに桜や学校を入れて少し明るめに撮られていて、親御さんのこれから頑張ってねという気持ちが伝わってきました。この表情、この場面はやっぱり家族にしか撮れない。思い出の1枚として、とても素敵な写真だと思います。

テラウチ  面白い作品ですが、勿体ない点もありました。1つ目は、入学式を連想させる桜の色をもう少し出すべきだったんじゃないかということ。男の子の心情を表現するのであれば、それで顔が暗くなってしまっても問題ないと思います。

もう1つは、胸についたリボンを見せて欲しかった。少し右にずれるだけで、リボンが入り、見切れている男の子の目も写る。入学式であることをタイトルではなく、写真で伝えるための工夫ができればよかったかなと思います。

松本  誰の気持ちを表現するのかで変わってきますよね。男の子の嫌な気持ちを表現するのであれば、確かにアンダーにしてもいいと思います。でも、親御さんが記憶に留めるという意味で撮影されたのだとしたら、私はこの明るさは悪くないと思いました。

自分の世界観を写真に落とし込む

「陽炎」にたばる(滋賀県)


――続いては、自由応募で、にたばるさんの作品「陽炎」。

松本  雰囲気は好きですし、物憂げな表情もロケーションに合わせたんだろうなということは伝わってきます。ただ、私なら下の看板はないところで撮りますね。背景の緑が彼女の心情を伝える大切な要素だと思うので、もう少し整理してほしかったです。リュックを背負ったままなのも気になります。

ステートメントが詩的できちんと考えられていたので、ご自身の世界観を表現として落とし込めると、よりよかったですね。撮影する時から細部に気を配れると作品の完成度は上がる気がしました。

小林  ステレオタイプな女性の撮り方とは少し違う気がします。ありがちなものから、ふわっと浮いているような感覚がありました。

テラウチ  無表情の中に何かを伝えようとするのは難しい挑戦です。この作品は、まだモデルと背景の力強さで成り立っているように感じました。

背景選びは作者の力ですが、世界観を表現するために何かを加えて撮られたら、もっといい仕上がりになったかなと。作者だからこその1枚を撮れる可能性は十分にあるので、伝わる表現をもう少し考えてみてほしいです。


STORY TELLER / 写真家達の物語 vol.37

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