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HOW TO / 作品制作のヒント
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仕事を次に繋げる、写真家としてのふるまい1/2


テラウチマサトの写真の教科書 vol.27。
今回は、写真家であり続けるためのふるまいについて。
撮影は1度きり。でも1度きりで終わらせず、仕事を次につなげるための工夫とは?
テラウチが実践している、1度で出合いを終わらせないための仕事術を教えます。

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僕でなければいけない理由とは?

僕にしかできないことってなんだろう。
写真家として活動してきてから、幾度となく考えたことだ。
出版社時代には、その悩みに直面して何度も辞めようとさえ思った。

当時、写真部には僕の他にも先輩含め何人かのカメラマンがいた。しかし、なぜか経営者の方に指名を受ける回数は僕が1番多かった。
でも、どうして自分が指名されているのか、その理由がわからなかった。
「シャッターを押すシーンがいい」、「素敵な笑顔が捉えられている」と言われることもあったが、それは他の写真家でもできること。僕でなければいけない理由ではなかった。
(その頃のことは、書籍「すべてのことは1度きり」に詳しく書いた。ぜひ読んでもらいたい)

PP誌面

(PHaT PHOTOで撮らせていただいた芸能人の方々)

自分のどこが評価されているのか分からない中で、期待に追われ、そしてその期待を裏切ってしまう時がくるんじゃないか。
得体のしれない称賛への恐怖が、写真家としての自信を失わせていった。

それでも、さまざまな人からの「あなたに撮ってほしい」という声で、現在に至るまでなんとか写真家を続けている。
しかし、不安は、今でも撮影のたびに浮かんでくる。

撮影の現場は、緊張と不安の連続

最近、ある経営者の方を撮影する機会があった。
僕が撮る写真はどこに飾られ、そしてそこにはどんな人々が訪れるのか。

色々なことを考え、経営者ながらも自ら積極的に行動し、かつ朗らかなその方の人間性が滲み出るような写真にしよう。そんな風に撮影した。僕自身が素晴らしい1枚になったという実感のもとにそれを提出したけれど、先方からは「他の作品はないか」という答えが返ってきた。
もう少し、威厳を感じられるようなものにしてほしいと。

僕が依頼を受けたのは、ある記念館に寄付した方として飾られる肖像写真だった。そうであれば、長い間学生たちが眺めるものとして、ベートーヴェンやシューベルトの肖像のような写真にはしたくないと思った。途方もなく遠い存在の人ではなく、いつの時代の学生が見ても、今ひょっこりとここに現れそうだねと感じるくらいの近さに。

1度目に出した時には気に入られなかったが、秘書の方を通して自分の想いを伝えたら、やはり最初に提出したものを採用してくださることになった。

こういうことは、

もちろん初めてではない。
クライアントが求めているものは多様だからこそ、僕がこれは絶対にいいと思っていても、相手の心には刺さらないこともあるし、正直自分があまりうまくいかなかったかもしれないと思うようなものに、好意的な反応を示されることだってある。なかなか思い通りにいくものではないから、さまざまな経験を重ねても、毎回が緊張と不安の連続なのだ。

撮影は1度きり。あとから改めてセッティングできるわけはない。
1回限定の中で実力を発揮して、でもそれが本当に相手の意向に添っているかはわからない。自分の力全てを出したと思って見せても、ぶつかり合うことだってある。
誰かと対峙し、誰かの感情を引き出し、そして誰かの目を意識する職業である写真家の、避けては通れない苦しみだろうと思う。

相手の声と、自分の想いも忘れない

撮影する前に、相手の要望はある程度ヒアリングして進める。
相手の声に耳を傾けながら、今までの経験の中でこう撮った方がいいだろうと想定し、あるいは見た目とは別のイメージを引き出すためにあえて難しいポーズや表情をつくってもらうこともある。

写真に写る人が、どんな人に見えるのか。会話や細かなテクニックを使いながら、見せたいイメージに近づけるための努力をしている。

たとえば先ほどの経営者の方の撮影で言えば、後から要望された威厳のある写真も僕はおさえていた。相手から欲しいと言われた時に、「ない」と答えるのはプロとして悔しい。

これだ!と思う1枚が撮れた後に、他でも撮れそうな写真も必ず併せて撮っておくこと。イメージを変えるために便利なものや、他の場所や媒体でも使えるようなもの。要望に応える写真は確実に捉えながら、その枠を超えて、自分がその時間の中で相手にできる最大限のことをする。
撮影の仕事をする機会があったなら、それだけは大切にしてみてほしい。


STORY TELLER / 写真家達の物語 vol.37

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