近所を散歩しながら撮影した作品が、世界で知られるきっかけに。ソール・ライター『Early Color』|飯沢耕太郎が選ぶ時代に残る写真集


残念ながら新型コロナウイルス感染予防と拡大防止のため2020年2月28日以降中止となった、
Bunkamuraザ・ミュージアムでの「ニューヨークの生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」展。

本記事では、ソール・ライターが世界に知られるきっかけとなった、写真集『アーリー・カラー』を紹介します。

カラー写真の先駆として、再評価されたきっかけの写真集

ソール・ライターは、1923年にアメリカ・ペンシルバニア州ピッツバーグで生まれた。ユダヤ教のラビ(聖職者)だった父の意向で神学校に通うが、1946年に画家になることをめざしてニューヨークに出る。同時期に写真も撮影し始め、1950年代後半にはファッション写真家として名声を得た。だが、1981年に5番街のスタジオを閉じ、以後、街のスナップショットや身近な女性たちを撮影し続ける。2006年に刊行された『アーリー・カラー』によって、カラー写真の先駆という位置づけが定まり、再評価の気運が高まった。

世界的にも注目を集めるようになったソール・ライター

2017年4月~6月に東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催された「ニューヨークが生んだ伝説 写真家ソール・ライター」展は、8万5千人以上の観客を動員するという、異例のヒット企画となった。日本ではほとんど知られていなかったライターの知名度は、この展覧会をきっかけに一挙に高まり、2020年1月~3月には、同じ会場で「ニューヨークの生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」展が開催される(新型コロナウイルス感染症の感染予防と拡大防止のため2020年2月28日以降中止)。2013年の没後、彼の写真は日本だけでなく世界的にも注目を集めるようになり、写真集も次々に刊行されている。

カラー作品が明るみに出たことで再発見された

その、ソール・ライター復活のきっかけになったのが、本書『アーリー・カラー』である。それまでは、スナップ写真の様式を取り入れたファッション写真家として、またロバート・フランク、ウィリアム・クライン、ルイス・フォアら、「ニューヨーク・スクール」の一員として、一定の評価はあったが、どちらかといえば地味な存在だった。だが、この写真集によって彼が1940~60年代に、カラー・ポジフィルム(コダクローム)で撮りためていた写真群が明るみに出たことで、人々は、そのみずみずしい色彩感覚、大胆かつ優美な画面構成の能力の高さに、あらためて目を見張ることになる。

画家と写真家の眼差しの融合


ライターはもともと画家志望で、特にフランスのピエール・ボナール、エドゥアール・ヴュイヤールらが19世紀末に展開した、ナビ派の画風に強い影響を受けていた。その淡いパステル調の色味や、日本の浮世絵風の「間」を活かした画面構成を、写真のスナップショットに応用しようとしていたのだ。だが、それだけではなく、ガラス窓の映り込み、画像のブレ、画面の片隅で起こる小さな出来事など、写真特有の表現のあり方も巧みに取り込んでいる。画家と写真家の眼差しの融合こそが、ライターの真骨頂と言えるだろう。

ありふれた日常の奇跡のような輝き


だが、何よりも素晴らしいのは、1940年代から60年以上にわたって、イースト・ビレッジの住居からごく近いエリアを、あたかも散歩するように撮り続けたということだろう。彼のスナップ写真には、ありふれた日常が奇跡のような輝きを放つ瞬間が捉えられている。その宝石のようなきらめきを、『アーリー・カラー』におさめられたどの写真からも感じとることができる。

飯沢耕太郎が選ぶ「時代に残る写真集」Vol.26
ソール・ライター『アーリー・カラー』 Saul Leiter, Early Color, Steidl, 2006

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