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HOW TO / 作品制作のヒント

ハービー・山口/小松整司/テラウチマサトがフォトコンテストでその写真を選んだ理由は?講評をチェック!


「PHaT PHOTO」の人気コンテストPPC。
毎号異なる3名の写真関係者を審査員としてお招きし、審査を行い、座談会形式で3名の視点から講評します。
上位50作品は必ずコメントがつくフォトコンテストです。

本記事では、上位8作品に続いて、入選9作品をご紹介します。
評価ポイントに加えて審査員からのアドバイスも。審査員たちのさまざまな視点から、あなたの写真がレベルアップするヒントが見つかるかもしれません。

審査員:小松整司/ハービー・山口/テラウチマサト

しみじみと味わいのある作品

「おすわり」イトウエージ(千葉県)

イトウエージ作品
——ここからは入選作品です。自由応募でイトウエージさんの作品「おすわり」。

テラウチ 第一印象は少し弱かったのですが、よく見ていくととても魅力的なシーンに思えてきました。おじいちゃんと向かい合うお孫さん。散歩中だったのでしょうか。犬が少し離れたところで1匹お座りをしている。人と動物の関係性や距離感をうまく切りとられているなと思いました。

小松 テラウチさんの講評を聞いて、このシーンが身近なもののように見えてきました。雰囲気はクールで少し冷たい印象ですが、逆にその、それぞれが目に入る距離にただ存在しているということが、とても温かく感じられた。しみじみと味わいのある作品です。

ハービー 僕は後ろの建築も面白いなと思いました。犬と2人もいい間隔で点在している。ドラマのお膳立ては揃っていますが、もう1つ何かポイントが欲しかったですね。たとえば、日が暮れて後ろの建築物に光が灯っていたらまた魅力的になるでしょうし、犬が飛び跳ねていても違う面白さがある。あと1つ、足りない部分を埋めるものがあったらよかったです。

想像力を掻き立てる工夫を

「Air Walk」okirakuoki(東京都)

okirakuoki作品
——続いては、自由応募でokirakuokiさんの作品「Air Walk」。

小松 あと一息でテトラポットに上がろうかとする手前をタイミングよく捉えられています。まるで重力に逆らうような、面白い場面ですね。ただ、猫が被写体になった写真が溢れていますから見る目も自然と厳しくなってしまいます。背景のボケなどの処理が作品を高めるかもしれません。

テラウチ 右側に斜めのテトラポットを入れたところはよかったと思います。一瞬の出来事だと思いますが、冷静な判断でうまい切りとり方をされていますね。

ハービー 小松さんが言われたように、猫が好きな人であればいいですが、それ以外の人への訴求力は確かに少し弱い気がしますね。画面に海とテトラポットと猫しかないので、それ以上の物語が生まれにくい。

ただ、テラウチさんが言われたように斜めのテトラポットによって変化は生まれているので、ここにある要素の中では最高のフレーミングだとは思います。たとえば、テトラポットにもう1匹猫がいる瞬間を捉えてデートをしているように見せたり、釣りをする人の背中を写したりして、より想像力を掻き立てるような工夫を考えてみるといいと思います。

組写真としての将来に期待したい

「家族写真(年賀状用2020)」shikalovin(山梨県)


——次は、テーマ応募でshikalovinさんの作品「家族写真(年賀状用2020)」。

ハービー 日の丸構図で撮影し、周囲にその人の環境や生活を入れ込むことで、姿以上のものを写し出すことができると作者は考えられているとのこと。その理論は大変よくわかります。

その手法でいくのであれば、単写真ではなく、5枚ほどの組写真にしたらさらに深い作品になるのではないでしょうか。日の丸構図にして、さまざまな家族を撮っていけば、1つのテーマで十分作品になり得ると思います。組写真にしたときの将来に期待したいですね。

テラウチ この作品を見た時に、僕はアメリカの写真家ポール・フスコの『RFK Funeral Train』という写真集を思い出しました。ロバート・ケネディの遺体を運ぶ列車の中から沿道の人々を撮影したものですが、この作品もどこか車窓から写したように見えたんですね。

その偉大な作品に気持ちが引っ張られて、興味が下がってしまいました。ただ、周囲の風景から読みとれることは多いですし、人物だけでなく風景もきちんと撮れていると思います。

小松 僕はこの写真家の心の清潔さ、清々しい感じがいいと思いました。家族を取り巻く環境までシンプルな構図で見せる。その眼差しが、見ていて心地よかったです

シンプルな構図と美しい色彩

「手を伸ばして、と」奥田晃介(京都府)

奥田晃介作品
——続いて、自由応募で奥田晃介さんの作品「手を伸ばして、と」。

テラウチ 真っ青な空と、石の壁。シンプルな構図に色彩的な美しさがあって目を引きました。ただ、顔は入っていないほうがよかったかもしれませんね。

ハービー 無駄なものを廃して手の長い人なのでは?と思わせる構図をねらってみたとのこと。構図的には確かに面白いですね。ただ、

手を見せたいのであればもう少しその部分を切り出した方がよかったと思います。ここまで引いてしまうと弱くなって、作者の意図が伝わらなくなってしまう。この青空の色はとても美しく魅力的だったので、そのちぐはぐな感じが惜しかったです。

小松 多分ここは日本ではないのでしょうね。からっとした空気と、抜けた空。そして美しい白い壁。この澄んだ場所を見て撮りたいと思った作者の心は伝わってきました。あまりにシンプルな風景なので、ついつい何か余計なことをしたくなってしまう場面だとは思いますが、あまり難しいことを考えず素直にその感動を表現してみたらよかったと思います。

同じテーマで撮ってみたくなる

「西日に集う」崎田憲一(東京都)

崎田憲一作品
——次は、自由応募で崎田憲一さんの作品「西日に集う」。

ハービー 右側から射す、夕日の橙色がいいですね。後ろは観客席でしょうか。右側が少し散漫な感じがするので、カメラをもう半歩左から構えてもよかったかもしれません。「西日に集う」というタイトルはとても素敵です。僕も同じテーマで撮ってみたくなりました。

テラウチ 右奥が少し寂しい感じもしました。たとえば電車が走っていたりしたらバランスがとれたかなと。人の入り方はいいですが、右奥の背景があまり役立っていないのが惜しかったです。

小松 みんなが夕日のもとで思い思いに過ごしていて素敵なシーンです。肌色がもう少したくさんあると、よりいいですね。真ん中の女性の肌が見える面積が違うだけで、印象がずいぶん変わりそうな気がしました。


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