御苗場vol.26 房彥文、きりとりめでる選出、「写真の町」東川町賞 受賞者インタビュー <塩原真澄>


全面オンラインで開催した御苗場vol.26の受賞作品を紹介。選出理由と受賞者インタビューをお送りします。

本記事で紹介するのは、房彥文さん、きりとりめでるさんが選出し、「写真の町」東川町賞にも選ばれた塩原真澄さんの作品とインタビューです。
まずは、塩原真澄さんの作品が選出された理由から。

―房彥文(Wonder foto day創設者)) 選出理由

古典科学のハンドブックを彷彿させる、分類学のような写真を撮られていて、それをご自分の果物農家やブリーダーの仕事につなげられている点が素晴らしいと思いました。仕事はシンプルで純粋ですが、それを同じスケールで表現するのは難しい事です。今回はウェブ経由でしか作品を見られませんでしたが、羊皮紙にプリントされている作品を実際に確認するのが楽しみです。

―きりとりめでる(写真研究 / 執筆 / 企画)) 選出理由

写真の意味は時代とともに変化してきました。それは「写真」が、表現や社会上の文脈と、記録や科学技術にとっての文脈、そして支持体の上に成立している制度の総称だからです。本作はこの「写真なるもの」について、「記録」に軸足を据えた上で、あらゆる角度から対峙し、「写真に向き合うこと」が、写真のための写真に充足することはありえないということを思い知らせてくれます。
まず作品に引用されている植物画は、写真機の発明以前の種の同定のための記録物であると同時に芸術表現と見なされていた描画法です。この記録と表現が一体となった植物画は19世紀以降写真が担いはじめ、現代では苗種同定という品種登録の制度へ流れ着き、純粋な記録として振る舞う写真の在り方を開示します。しかしその隣では、同質の撮影とレタッチによる「表現」が表明されるのです。いずれの作品も精緻な植物の写真であることに変わりはありませんが、植物を記録するという欲望のなかで同着してきた表現と記録の歴史が複雑に絡み合い、いくつものパラレルな二項対立を鑑賞者に往復させ続ける作品構成になっています。

また、記録を目的とした時の写真における支持体への着目も見逃せませんが、支持体のリサーチは二項対立の往復にまでは到達しておらず、深化させて欲しいと思いました(顔料や現像についてのリサーチを行うのも良いかもしれません)。キャプションの情報は洗練の余地がありますが、とにかく拝見できてよかったです。今後の展開も非常に楽しみにしております。

「写真の町」東川町賞) 選出理由

圧倒的な果物への愛情と厳しさが、伝わりました。被写体との関係性が見えてくるようでどの写真も心がザワザワしました。
「果樹園の農作業が終わった夜に撮影を行い閉散期となる冬場に編集をする」という日々に、塩原さんの、果物と写真への敬意と力強さを想像します。ご自身のイメージを更に超えていくような、そんな作品をこれからも作られていく事を、また拝見出来る事を、楽しみにしています。

続いて、塩原真澄さんのインタビューです。2つのテーマの作品、それぞれについて撮影のきっかけやコンセプトについてお伺いしました。

塩原真澄『果物を育てて』

■ボタニカルアートのような作品について


-この作品を撮影することになったきっかけを教えてください
ボタニカルアートの作家さんに素材を提供した時に写真でやってみたらどうだろうと思ったこと。

-作品のテーマ、コンセプトを教えてください
果物品種の同定について


-この作品で一番伝えたいことはなんですか?
果物の植物としての美しさ

-作品をつくる上で苦労したことはありますか?
畑には沢⼭枝に実っているのですがモデルとなる枝がなかなかないのでそれを探すこと。撮影の段取り。撮影が農作業の後の夜からなので眠たい。年々詳細化して撮影個所(葉・茎など)が増え、合成するのに手間がかかるようになりました。

はじめはボタニカルアートと同様に白い背景で撮影して作品を制作しました。ボタニカルアートは等倍に描く事や影を作らないようにすることが必要とされました。これはボタニカルアートについて学びながら写真技法についても学ぶことができました。

独学だったため試行錯誤を繰り返し技法を定めるのに何年もかかりました。背景を白い布で撮影していたり、ストロボ撮影が分からず蛍光灯で撮影していたりしていました。撮りためた写真を確認するのは冬の時期ですので後からピントが合っていなかったり、ブレていることに気づいてがっかりしていました。最近だと去年の話ですが何百枚何週間分もパソコンに取り込みし忘れてデータを消してしまいました。今思えば何やってたんだろうと思う事が沢山あります。色合わせも苦労しました。カメラとモニターとプリントの色が合わず苦労しました。


-作品に対する熱い思いを語ってください!
作品を仕上げるのにとても時間と手間がかかっています。そして毎年反省点を踏まえて新たな作品づくりに取り組んでいます。
ボタニカルアートは始めは薬草など植物を同定するために描かれていました。やがて大航海時代に遠方の本国へ持ち帰る事が困難な植物を細密に描くことなどによって発展し、その精緻な美しさからアートとして評価されるようになりました。

現在、種苗登録出願の際には(果物であれば)品種を同定するために花や実の特性を撮影した写真を提出しなければなりません。これは特性が分かれば「ただ撮っただけの写真」で構いません。私はこの品種の特性写真(特性値は約60~80項目あります。)を作り込んで1枚に合成してまとめ、果物の品種の違いがぱっと目で見て分かるようにしたいです。そして植物細密画がアートとして評価されたことと同様に植物細密画のような写真がアートとして評価されるように取り組みを続けています。

■モノクロの作品について


-この作品を撮影することになったきっかけを教えてください
面白そうだという感覚やその時の感情で思いついた事。ボタニカルアートのような作品制作と違うことをやりたいという思い。

-作品のテーマ、コンセプトを教えてください
果物のオブジェ (⾯⽩そうだと思いついたアイデアを作品にしています。)


-この作品で一番伝えたいことはなんですか?
ぞくぞくするような感情が⾼まるように並べ形を作った果物

-作品をつくる上で苦労したことはありますか?
直感的に挑戦した作品なので後からタイトルやキャプションを考えることに苦労する。


-作品に対する熱い思いを語ってください!
感情を高ぶらせて撮影し、それが響くよう制作しています。

■今後について


-今後目指していることなどあれば教えてください。
ボタニカルアートのような作品は、より詳細な部分をまとめて⾏きたいと思います。海外で個展をしたいです。ホームページを作りたい。

塩原真澄

1974年、長野県生まれ。自身で農園を営む。約20年前からチラシを作るために自宅の果物の写真を撮り始め、現在も果物に関する作品づくりをしている。

Webサイト:https://www.lensculture.com/masumi-shiohara
Instagram:@masumi_shiohara

■個展
個展:美果選 果物を育てて, ソニーイメージングギャラリー銀座, 東京, 2020 年
個展:果物を育てて, 72gallery, 東京, 2019 年
個展:果物を育てて, エプサイトギャラリー, 東京, 2018 年

■グループ展
ソニーワールドフォトグラフィアワード2020 受賞作品展, ソニーイメージングギャラリー銀座,Part1 ⼀般公募・ユース・学⽣・⽇本賞,2020 年
Budapest International Foto Awards 2019, Hybridart Space Gallery, ブダペスト, 2019 年
Tokyo International Foto Awards 2018/2016, ギャラリー⼤和⽥, 東京, 2019 年/2017 年
Sony World Photography Awards 2019/2018, Somerset House, ロンドン, 2019 年/2018 年
ソニーワールドフォトグラフィアワード2018 年度受賞作品展, ソニーイメージングギャラリー その他多数

■受賞歴(2020)
ショートリスト(⽇本賞):ソニーワールドフォトグラフィアワード2020:⼀般公募部⾨ ⽇本賞,
Gold: Moscow International Foto Awards 2020:ノンプロフェッショナル部⾨, 広告カテゴリー
Honorable Mention:Monochrome Awards:ノンプロフェッショナル部⾨, ファインアートカテゴリー
ファイナリスト: Pink Lady Food Photographer of the Year Award 2020,Pink Lady® Apple a Day Category

■展示情報
Photographer’s Masterpiece 絶対鑑賞写真展 エプソンスクエア丸の内 エプサイト
開催会期:2020年7月23日(木)~8月29日(土)
開催場所:エプソンスクエア丸の内 エプサイト