PROFILE
鈴木萌 Moe Suzuki
1984年東京生まれ。London College of Communications, University of the Arts London写真科を卒業後、グラフィックデザイナー、イラストレーターなどの経験を経て2011年帰国。以降、製本技術を習得し、写真、アーカイブ、イラストを織り交ぜたアーティストブック制作、及び他アーティストに製本コンサルティングを行う。
2019年Reminders Photography Stronghold主催のワークショップ「Photobook as Object」に参加し、後藤由美氏、Jan Rosseel氏の指導のもとアーティストブック「底翳」の制作を開始。2020年に完成した同作品が国際的に高い評価を受け、アルル国際写真祭のダミーブック賞、カッセルダミー賞の特別賞を受賞した。
INTERVIEW
底翳
「底翳」(そこひ)とは、底にある翳、眼球内に潜む翳、つまり何らかの眼内部の異常により視覚障害をきたす目の疾患の俗称として古来から使われてきた。15年前から進行性の緑内障/青底翳と共に生きてきた父の視野はだんだんと狭窄し、毎日昨日よりも少し暗くなった朝に目覚める。物を取ろうとする手が宙を泳ぎ、視線が合うことがほとんどなくなった彼の目の前に広がる世界を、晴眼者である私は決して見ることはできない。しかし、父が手放した過去の日記や写真、「見えること」と「見えないこと」の壁を隔てた捉えた父の姿、そして視覚とは別の感覚を頼りに外界と関わろうとするゆっくりとした時間の流れを視覚的に再構築することで、父が向き合う世界に静かに思いを馳せた。