関西御苗場2017 受賞作品② エプソン賞/Wacom賞/ぎをんさかい賞
Wacom賞
デジタル撮影ならではの特性を生かし優れた作品に送られる賞です。受賞者には、プロフォトグラファー必須のアイテム、レタッチや画像処理などに最適なペンタブレットWacom Intuos Proを授与。
Sebastian Susilo
「The Hidden Pearl」
■concept
19世紀に、私の先祖はインドネシアの首都ヴァタビア(現在のジャカルタ)で暮らし始めた。大抵は中国の福建省や広東省から移り住んでおり、インドネシアのジャワ人やスンダ人、そしてロシア人の血も流れている。色々な文化を持ち、良き未来のために家族を支える。
そうして生きてきた家族を、様々な事件が翻弄した。オランダ人による植民地統治、インドネシアの独立戦争、そして、中国系に対する人種差別―――。
私はよく「大家族」だと言われる。しかし、幼い頃はそれが当たり前だったので、「平凡な家族」だと思い、昔話や思い出話に耳を傾けることはなかった。しかし、あることをきっかけに、次第に興味を持つようになった。それは、2008年と2013年に両祖父が亡くなったことだった。
この時、私は家族の歴史をあまりに知らな過ぎたと痛感した。先祖たちは家族のことを一生懸命に支えてきたはずなのに、私の記憶の中での彼らの存在感は希薄だ。まだ、私の祖母は生きている。しかし、当時の中国コミュニティでは、女性の地位が低かったこともあり、もうその頃のことを快く話そうとしたがらない。
知りたいことが沢山あるのに、誰の口からも聞くことができない。 残されているのは「大家族の写真」―――ただそれだけだ。
そんな私は現在、写真に映された人の表情や服装を研究し、その中にいる人々に問いかけるのだ。当時の情景を浮かべ、直接会っているかのように。
そして、以前の出来事を聞いたり、オランダ語、ジャワ語、スンダ語の勉強も欠かさない。時には、写真を撮りに出かけることだってある。私は、失われた記憶を探し、今もこれからもずっと彼らは私の心の中で生き続ける。特別な存在として。
translated by Iida Hiroko
選考理由:
自らの出生やご家族への想いというバックボーンからコンセプトを立ち上げ、残されていた古いフィルム写真と今の自分の姿をデジタル技術で切実に融合させた作品は、ファウンド・フォト的な面白さも相まって印象に残りました。デジタル合成というとケレン味あるイメージも強いですが、上手に使うことでイメージする表現の可能性を自然と大きく広げることが出来るということもよく分かる作品だと思いました。お祖母さんが着用されていた衣服などを用いた展示もスマートでセンス良く、ご本人とお話したときの感じの良さも選出理由のひとつです。
インドネシア・ジャカルタ生まれ。現在、台北・台湾に拠点に活動中。2017年 Wonder Foto Day(台湾・台北)参加のほか、2014年よりTaipei Free Art Fairへ参加。