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フォトまち便り「Hello Local」vol.30 郡山写真部 ~郡山の音楽を支える人~


紀南、郡山、下田の地域写真部が綴っていく連載企画「Hello Local」。今回は郡山写真部、yamaさんによるフォトエッセイです。2008年より郡山は音楽都市を宣言。「郡山は音楽のまち」として盛り上げてきました。音楽の魅力を発信する場所として郡山駅前にライブハウス「CLUB♯9」があります。そのライブハウスのオーナー福井さんに郡山写真部が取材しました。決して楽ではなかったこれまでの道のり、それでも郡山の音楽を支え続け、その魅力を発信するストーリーをご紹介します。


郡山写真部は2年ほど前、ライブハウス「CLUB♯9(クラブシャープナイン)」を撮影したことがあります。

郡山市は、コンサートや音楽活動が盛んだったことから2008年に音楽都市を宣言。郡山駅前には音楽をモチーフにしたイスやベンチなどもあり、以前はライブハウスや生演奏を楽しめるお店が多かったそうです。

今まで音楽に関する情報を発信していなかったので、今回は郡山の音楽に関することを少しでも伝えられたら。そんな想いもあり、僕は再び福井さんにお会いすることにしました。ここでは、郡山の音楽シーンを陰で支えるCLUB♯9についてご紹介したいと思います。

【今回お話を伺った人】福井 公伸(ふくい こうしん)さん
ライブハウスCLUB♯9(クラブシャープナイン)の代表。宮城県石巻市出身。高校生の時にビートルズに魅了されバンド活動を始める。大学卒業後に仕事の転勤で郡山へ。その後、脱サラしてライブハウスの店長を勤め、2000年に独立してCLUB♯9を立ち上げる。2021年2月の震災の影響により、同年12月に郡山駅前にて移転オープン。

CLUB♯9の「歩み」

―CLUB♯9はどんなことがきっかけで始まったのですか?

もともと不動産会社に勤めていて、転勤後も郡山を拠点に音楽活動をしていたんです。その時よく利用していたライブハウスに「お店の収益を伸ばすにはこうしたらいい」と、冗談で提案書を書いて店長に見せていたら、それがオーナーの目にも入って店長になることを勧められたんです。

当時の郡山はロック不毛の地だったので、郡山の音楽シーンを変えたくて店長を勤めることにしました。

ライブハウスの経営に携わるうちに「もっと郡山の音楽を変えたい」という気持ちが強くなって、プロもアマも使えるライブハウスを一から自分自身で立ち上げることにしたんです。

「”♯9″は、オノ・ヨーコや、ジョン・レノンが2人の間で使っていた暗号の一つで、”行動開始”という意味が秘められているんです」と話される福井さん。

ライブハウス文化のない郡山で新しい試みをするご自身にぴったりだと思い店名に採用されました。また、CLUBには「バンドだけでなくDJや色んな人に使って欲しい」という願いを込められたそうです。

―立ち上げた後は大変じゃなかったですか?

最初は高校生バンドが多く、スケジュールもスカスカでしたね。店員もいなかったのでバンドの予約や会場の受付、ドリンクなど色んなことを一人で回してました。

そうしているうちに少しずつ平日のスケジュールも埋まるようになってきて、仙台や県外のイベンターからの仕事が増え、知名度の高いインディーズバンドからも利用されることが多くなりました。郡山からツアーバンドを出せたのも良かったですね。

旧CLUB♯9のロッカーには様々なバンドのサインやシールが貼られていました。色褪せたものも多く、当時の賑わいを感じられます。

福井さんが守り続けてきた「絆」と「笑顔」

―今まで多くの地震があって、今はコロナが猛威を奮っています。その影響はありましたか?

そうですね。スケジュールが埋まってようやく軌道に乗りかけたところで2011年に東日本大震災が起きて、風評被害の影響もありキャンセルが続きました。復興が始まり再び活気が戻ったと思ったら、今度は新型コロナウイルスで休業を余儀なくされまして。

2021年2月に起きた福島県沖地震では、郡山駅前のアーケード商店街も大打撃を受けて旧CLUB#9のビルが使用できなくなったんです。でも一番心が弱ったのは癌になったことですね。

―ご病気になられたんですね…

実は、子どもの頃に頭を酷く火傷したことがあって、その部分が癌化してしまって…。検査で発覚した時にはステージ4まで進んでいました。

旧CLUB♯9の写真(提供/福井さん)

福井さんの癌が発覚したのは2016年頃。震災復興からお店が軌道に乗り始めた矢先のことだったそうです。

―それはとても辛いですね。どのように乗り越えられたんですか?

家族や友人、職場の仲間に支えられながら沢山笑って生きてこられたのが大きいと思います。あとは「癌友」の存在ですね。

僕が癌になってから、友人から「癌友」を紹介してもらったことがあって、入院している間色んな話をしたんです。

その癌友がね「私は笑顔を忘れない。諦めないと決めたから。」と、生前僕に話したことがあったんですよ。10年くらいずっと癌と戦っているのに、その子はよく笑う子で笑顔も素敵で。

それから僕も笑顔を大切にしました。「笑顔のためには自分を信じて、お医者さんを信じて、未来を信じること。そして警戒はしても恐れずにいきたいな」と前向きになれたんです。

東日本大震災の時は、様々な方から励ましの連絡や支援物資が届いたり、福島県沖地震の時も手を伸ばしてくれる方やクラウドファンディングで援助してくれる方が沢山いたので、癌を克服してからもこうして郡山駅前で再びライブハウスを始めることができました!

確かに辛い道のりだったけど、その分人の優しさを感じることができましたよ。

去年、郡山駅前のアーケード街にCLUB♯9が復活。「20年以上に渡って色んな方に支えられてやって来れたので、これからも歩みを止めたくないしこの場所でまた続けたいです」と笑顔で話される福井さん。

その姿を見て、今のCLUB♯9は福井さんと今まで関わってきた方々との絆から成り立っている様に思えました。

オープンした際には、GReeeeNをはじめ様々な人気バンドからもお祝いや応援のメッセージが届いたそうです。(提供/福井さん)

郡山はGReeeeNゆかりの地。郡山西口駅前広場には「緑の扉」と呼ばれるモニュメントも建てられ、メンバーの手形や足形、メッセージが刻まれたベンチがあります。彼らがデビューする前に郡山で活動をしていたとは聞いていましたが、CLUB♯9と繋がりがあったのは驚きでした!

―福井さんのお話を聞くと、人との繋がりは本当に大切だなと感じます。

昔、ハワイで事業に成功している従姉妹に「成功の極意は?」と質問した時があって、「極意はないけど、サンキューにはサンキューが返ってくるよ」って言われたんです。その時、ビートルズと一緒だ!と思ってハッとしました。

ビートルズの最後のアルバム「アビイ・ロード」の楽曲の中に「ジ・エンド」という曲があるんです。その曲の最後に「あなたの与える愛は、あなたがもらう愛に等しい」という歌詞があって、従姉妹の言葉と通じるものを感じました。

自分が与えた分だけ返ってくるのであれば、僕もいっぱい周りに「サンキュー」と言って、愛を贈ろう!と思ったんです。

辛い過去も笑顔で話される福井さん。その強さの理由は、ビートルズの曲をはじめ様々な音楽が礎になっているように思えました。たった一つの歌詞でも人生に影響を与える音楽や言葉の力。本当に素敵です。

福井さんの「夢」

―これからのCLUB#9や郡山をどのように思い描いていますか

今ってバンド自体やっている人が少ないんですよ。なので、もう一度原点に立ち返って音楽を志す人を増やしたいですし、郡山をもっと魅力のある街にできないかなと常に思っています。

CLUB#9はライブハウスの枠組みに囚われないで、お芝居や、結婚式など色んなことに会場を使って貰えたら嬉しいですね。

それと、郡山から音楽のスターを輩出できたらとも考えているんです。例えば、ここでオーディションを行って、小学生や若手のバンドやア―ティストを育てられるような環境を作り、練習だったりスキルを磨く指導をしたりとか。

今ってK-POPがすごく人気ですけど、福島からもK-POPを超えるようなアーティストを輩出できたら郡山の音楽界も変わりますよね。

音楽都市として、郡山の音楽文化が今以上に活気が出るように地域に貢献したいですし、ライブハウスの文化も守り続けたいです。

新しくなったCLUB#9。ここから新しいアーティストが生まれるかもしれないと思うと僕までワクワクしました。

ロッカーも新しくなりましたが、「今後は様々なシーンで使われるのでサインやシールは控えて頂きたい」と笑う福井さん。

郡山の「街」と「人」の為にできること

取材の後、郡山駅前の街並みの景色がいつもと違って見えました。

いつも何気なく歩いていたアーケード、居酒屋や飲食店が並ぶ路地裏。だけど、その見えないところで郡山を活気付ける為に奮励する人や、郡山の文化を守り続ける人の存在を改めて感じました。

一体写真で僕は何ができるだろう…。

きっと、それはリアルな郡山の姿を写真で伝える事かもしれない。上手い下手に関わらず、僕にしか発信できないものを僕の写真と言葉で発信していけたら…。

郡山の音楽シーンを陰で支える福井さんの姿を見て、郡山で生きる人々の等身大の姿をこれからも撮り続けていきたいと思いました。

【取材協力】

CLUB#9(クラブシャープナイン)

福島県郡山市大町1-4-15 第2増子ビル地下2階

TEL 024-973-5242

HP https://sharp9.net


yama

1990年生まれ。地元郡山の魅力を探したくて郡山写真部に参加(2期生)。自然とグルメ写真を中心に撮影しています。

郡山に住む写真好きの仲間が集まり、2018年から活動をしている「郡山写真部」。

郡山のまち、人の魅力を「写真」を通じて見つめ直し、「#郡山写真部」で発信しています。

郡山写真部が取材・記事を書いて作ったデジタルフォトマップ「郡山フォトスポットガイド」はコチラ


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