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関西御苗場2019 姫野希美選出 受賞者インタビュー<Yusuke Sakai>

Event, 御苗場


まもなく申込開始の「御苗場横浜2020」。
募集開始に先立ち、9月13日(金)~15日(日)までの3日間、大阪・海岸通りギャラリーCASOにて開催された「関西御苗場2019」の受賞作品を紹介。選出理由と受賞者インタビューをお送りします。

本記事で紹介するのは、姫野希美さんが選出した、Yusuke Sakaiさんの作品とインタビューです。
まずは、Yusuke Sakaiさんの作品が選出された理由から。

写らなかった時間の、その余白を想わせる写真の連なり

Yusukeさんのブース写真
― 姫野希美( 赤々舎代表) 選出理由

ブックが素晴らしいなと思いました。身近な人を時間をかけて撮影したシリーズですが、単に彼女を見る、撮るだけでない、互いに向き合っている時間を感じます。写らなかった時間の、その余白を想わせる写真の連なり。人と向き合うことが、自らと向き合うことでもあった、ある厳しさ、寂しさを感じさせる時間が印象的でした。

続いて、Yusuke Sakaiさんのインタビューです。撮影のきっかけやコンセプトについてお伺いしました。

初めて会った日から撮影していた

Yusukeさん作品2
-この作品を撮影することになったきっかけを教えてください
ここ2年ほど、作品のテーマに共感して応募してくれた人のポートレートを全国各地に行って撮影するということを続けています。彼女はその最初の方の応募者でした。初めて会った日から撮影していたので、彼女の写真を撮ることは自然なことでした。

記録のための写真

Yusukeさん作品4
-作品のテーマ、コンセプトを教えてください
これについては、テーマやコンセプトありきの作品ではなく、記録のための写真だと思っています。
ステートメントは次のとおりです。

これは僕が恋人と初めて会った日から約1年間の、彼女と彼女の住んでいた東京についての記録だ。2年前、僕はポートレートの作品の撮影を始めた。自分の同類を撮りたかった。
大して人が訪れることのないホームページで「全国だいたいどこでも撮りに行きます」と書いた。2人目か3人目に応募してきたのが彼女だった。
彼女が抱えている問題は、僕の持つそれと同じ部分もあれば違う部分もあった。
だから僕は勝手に分かったつもりになったり、何もわかっていないことに気づいて、どうしたらいいのか、何を言うべきかわからずその場でうなだれたりした。
Yusukeさん作品1彼女は東京に住んでいた。
東京の大学に入学するときに故郷を離れ、そのまま東京で就職していた。
大阪に住む僕は関東での撮影が終わると彼女に会いに行った。
彼女はいつも武蔵小山の改札の正面で待ってくれていた。
大きな赤い長財布がいつもスウェットのポケットから落ちそうになっていた。
僕にとっての東京はいつも、キラキラした街だった。
「やってみないと本当かどうか分からないやろ」
彼女は自分のなかで「体験すること」を知識より遥かに上に置いていた。
だから、小学生のころ「大丈夫な気がして」高いところから飛び降りて骨折した。
裸足のまま学校まで歩いた。水の匂いを辿れば川に行けた。Yusukeさん作品6彼女が掘り出しものだと自慢する6万円の部屋にはロフトがあって、そこが彼女の寝床だった。
枕元の小窓のすぐ向こうには隣接する戸建ての子供部屋があって、夜に聞こえてくるそこの高校生の歌声がうるさいと彼女はよく僕に愚痴った。
その夏、彼女は転職を挟んで仕事を辞め、8年間過ごした東京から地元へ帰った。
とても暑い夏だった。エアコンが壊れて蒸し返すような部屋で、僕達は汗だくになりながら段ボールに彼女の荷物を詰めた。
年末も近づいた頃、彼女は1年前に応募したポートレートの作品を「今度は故郷でもう一度撮って欲しい」と僕に頼んだ。
撮影した写真を見て僕は「もうあの作品には使えんわ」と言った。
「そうやな」と彼女も頷いた。

映画やドラマのようではない、私が見たもの

Yusukeさん作品5
-この作品で一番伝えたいことはなんですか?
自分の目の前で起こったことの記録なので「伝えたいこと」が第一にある作品ではないのですが、目の前であったことと自分が感じたことは表現したつもりです。映画やドラマのような大きな事件はなかったのかもしれませんが、写真に撮れなかった瞬間や場面はありました。「私が見たもの」をみてもらえたら嬉しいです。

時間が経っても、良いと思えた

Yusukeさん作品7

-作品をつくる上で苦労したことはありますか?
作品にしようと思い立ってからは、苦労したことはほとんどないかもしれません。
最初から作品にしようとしていたわけではなく、ただ会っている間に彼女の写真を撮っていました。そして写真が撮りたまると定期的にフォトブックにして彼女に渡していました。

そのような経緯もあり客観的な視点では見づらい写真群でしたが、時間が経っても最初に作ったフォトブックがとても良いと思えて、また、時間が経ち私も彼女もあの頃を客観的に見られるようになったと判断して、まとめ直して人に見てもらいたくなりました。私は写真のエディットの作業が得意ではないのですが、この作品については、入れるべき写真やその見せ方は自分の中でこれしかないというものが見えていた気がします。

全部肯定したかった

Yusukeさん作品3

-作品に対する熱い思いを語ってください!
彼女のこれまでのこともこれからのことも、加えて彼女が過ごした東京という場所も肯定したくて、当時何もできなかった自分の思いも併せて写真と余白に全部込めました。

-今後目指していることなどあれば教えてください。
他に現在2本撮り続けているシリーズがあって、それらを作品としてまとめることが当面の目標です。なんとか作品にとって幸せなかたちで発表できたらと思っています。
大きなスパンでの目標は、私は写真集が好きなので、将来的には自分の作品の写真集を作りたいと思っています。

Yusuke Sakai

1984年9月11日生まれ、大阪府出身。26歳のとき、友人の披露宴の余興で使うムービーを作るために購入した一眼レフカメラが手元に残り、身の回りのものを撮りだしたのがきっかけで、現在も仕事を続けながら写真を撮り続けている。そのなかで「写真」というものに対しての考え方は変わってきているが、今は写真を「世界」や「他者」を見つめ、関わり、向き合うための手段だと考えている。主な受賞・写真展歴に、「関西御苗場vol.11」レビュアー賞・受賞展(2012年)、エモンアワード2012 審査員賞受賞・受賞展(2012年)、「Med Fhoto Fest 2014」参加(2014年)、第4回キヤノンフォトグラファーズセッション キヤノン賞受賞・受賞展(2015年)、「A.W.P Selection 2017-次世代を担う写真家たち-」参加(2017年)。

Webサイト:sakaiyusuke.com


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