プリピクテ国際写真賞・東京巡回展の 見どころを紹介!
世界各地を巡回する国際写真賞、Prix Pictet(プリピクテ)の展覧会が
まもなく東京にやって来ます。日本人作家では川内倫子さんや西野壮平さんなどの作品も展示。
今回で7回目となるプリピクテですが、日本での展示はこれで3回目となります。
その東京巡回展をコーディネートしているキュレーターの小高美穂さんに
展示の見どころを聞きました!
Q.Prix Pictet(プリピクテ)について教えてください!
プリピクテは、2008年にジュネーブを拠点とする資産運用・管理サービスを提供するPictetグループによって創設された国際写真賞で、昨今の地球規模の緊迫した社会問題、環境問題に向き合う優れた写真を発掘することを目的としています。創設からの9年間で、プリピクテは世界で指折りの国際写真賞となりました。 毎回あるひとつのテーマが設けられ、そのテーマに関連する作品を世界中の写真家の中から選出します。プリピクテへのエントリーは推薦制で、延300人にも及ぶ世界中の推薦者は、主要美術館やギャラリーのディレクターやキュレーター、ジャーナリストや批評家などヴィジュアル・アートの専門家たちによって構成されています。
Q.どんな作家が選ばれるのですか?
写真を審査する際には、写真家が著名であるかどうかや、ジャンルや技法は判断基準にはなりません。審査員たちはその年のテーマに関して、写真という媒体を最大限に生かしながら問題意識を効果的に反映し、かつオリジナリティーをもって表現している作品であるかどうかを重要視します。
Q.今年、ノミネートした作家について教えてください。
Space(宇宙・空間)というテーマのもと、約700人のエントリーの中から最終選考に残った12名の写真家が選出されています。今年の5月にロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館で今回の12名の写真家のノミネート作品を展示する展覧会が開催されました。展覧会のオープニングでは、今年のプリピクテ受賞者が発表され、アイルランド人の写真家、リチャード・モスが、第7回目のプリピクテを受賞しました。
Richard Mosse(リチャード・モス)
リチャード・モスの作品「Heat Maps(ヒートマップ)」は、ヨーロッパ全域の難民キャンプや移民の立ち寄り場所を、30キロ先の体温も検知する軍事用の望遠サーモカメラを使用して記録した作品です。過酷な状況に置かれ常に命の危険に晒されている難民と彼らを取り巻く現状をサーモカメラは謎めいた鮮烈な像として浮かび上がらせます。
Benny Lam(ベニー・ラム)
世界で最も豊かな経済都市のひとつでもある香港。その一方で深刻な貧困問題や所得格差の問題を抱えています。ベニー・ラムの「Subdivided Flats」は人間が生活する空間としてあまりにも窮屈な空間で食事、睡眠、洗濯や読書など日常生活の全てを完結させている人々の過酷な現状を浮き彫りにした作品です。
Mandy Barker(マンディ・バーカー)
マンディ・バーカーの写真は、1800年代のアイルランドの海洋生物学者、ジョン・ヴォーン・トンプソンによる顕微鏡標本を模倣して制作されています。水の中を漂流するプランクトンのように見えるものは、実はすべて海から引き上げられたプラスチックのゴミです。プランクトンがマイクロプラスチック粒子を食べ物と間違えて摂取することで、プラスチックが海洋生物や人間に与える有害な影響は、深刻な懸念事項でもあります。
Michael Wolf(マイケル・ウルフ)
通勤ラッシュは、東京では日常茶飯事の光景と言えます。特に新宿駅は、毎日平均364万人に利用されており、乗客数では世界で最も混雑した駅のひとつです。マイケル・ウルフは60日を超える平日の朝を新宿駅で過ごし、都心に通勤する人々の姿を撮影しました。私たちにはあまりに見慣れたものでもある通勤ラッシュですが、このように客観的に視覚化されることでいかにその空間が異質であるかに気付かされます。
Saskia Groneberg(サスキア・グローンバーグ)
この作品は、オフィス空間が題材になっています。従業員によって仕事場に持ち込まれたり、オフィスインテリアとして雇用者が配置した観葉植物は、規格化された人工的な空間と対象的に、機械やオフィス空間の一部を侵食しながらどんどん成長していきます。少しでも居心地の良い、個人的な空間にしようと工夫する人間の試みと植物の生命力の対比がユーモラスでアイロニカルな視点で表現されています。
Thomas Ruff(トーマス・ルフ)
昨年東京国立近代美術館でも大規模な企画展が開催されたトーマス・ルフ。「Ma.r.s.,」は、NASAの探査機に搭載されたカメラによって撮影された火星の衛星写真が用いられています。それらの写真にルフはデジタル加工を施し、火星の光景として一般的に認識されている色を加えたり、あるいは色を故意に変えることで、それは宇宙の克明な記録であると同時に私たちが認識している宇宙の色はフィクションでもあるということを喚起させます。
――などなど、計12名の写真家の作品が展示されて見ごたえ充分!
プリピクテ名誉会長であるコフィー・アナン氏が、2017年5月に行われたロンドンでのセレモニーで以下のように述べられています。
「都市、海、国境、バリケード、宇宙、欧州各地で繰り広げられているどんな人道危機に焦点を当てていようとも、今期のプリピクテの最終選考に残った写真家たちは、特異で明確なヴィションを持って各々が選んだ主題に取り組んでいます。彼らは、たびたび窮状に追いやられても生き延びようとする人々のあり様を、幾度となく私たちに提示します。その中にはきっと、希望があります。私たちは自然に対して破滅的なダメージを与え、社会の中で最も弱い者たちにもダメージを与えて来ました。しかしまだ、それらの被害を修復したり、私たち一人一人がもう一度そのことについて考え直したりするのに遅すぎることはないのです」
テーマづくりに悩んでいる、またはテーマに沿った作品制作が難しい!という悩みを持つ読者も、ぜひ会場へ足を運んで、刺激を受けてみては?
Prix Pictet 東京巡回展 『SPACE』
日時: 2017年11月23日(木)~12月7日(木) 11:00~19:00 会期中無休
会場:代官山ヒルサイドフォーラム
東京都渋谷区猿楽町18-8 (東急東横線[代官山駅]下車 徒歩3分)
prixpictet.com
www.pictet.co.jp/company/prixpictet
■Prix Pictet 『SPACE』東京巡回展展示作家
・マンディ・バーカー(1964年/英国生まれ)
・サスキア・グローンバーグ(1985年/ドイツ生まれ)
・ベアテ・グーチョウ(1970年/ドイツ生まれ)
・川内倫子(1972年/日本生まれ)
・ベニー・ラム(1967年/香港生まれ)
・リチャード・モス(1980年/アイルランド生まれ)
・西野壮平(1982年/日本生まれ)
・セルゲイ・ポノマリョフ(1980年/ロシア生まれ)
・トーマス・ルフ(1958年/ドイツ生まれ)
・ムネム・ワシフ(1983年/バングラデシュ生まれ)
・パヴェル・ヴォルベルグ(1966年/ロシア生まれ)
・マイケル・ウルフ(1954年/ドイツ生まれ)