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御苗場vol.26 きりとりめでるさんが選出した理由とは?受賞&ノミネート作品公開

Event, 御苗場


前半(5/22~5/25)・後半(5/28~5/31)会期に分かれ、全面オンラインでの開催となった御苗場vol.26。個性豊かな展示の中から選ばれた受賞作品をご紹介しています。

本記事では、レビュアー・きりとりめでるさん(写真研究 / 執筆 / 企画)が選出した作品をご紹介。レビュアー賞受賞作品だけでなく、ノミネート作品も一挙ご紹介します。どんな視点で作品を選出しているのか?コメントをいただきましたので、作品と一緒にぜひご覧ください。

紅組:W19 磯野ひろき

きりとりめでるさん コメント
明らかにベッヒャー派に影響を受けた1円玉のタイポロジー/ポートレイトで、並ぶことによって初めて見えてくる固有性に驚かされ面白いと思いました。ただ、1円玉は年間で百万枚製造されていることもあり、個別の固有性に目が慣れ始めると、次はなぜこの1円玉が百枚選ばれているのかが気になってきます(例えば、トーマス・ルフによるポートレートは、「戦争を知らない若者の顔」でした)。

たしかに、covid-19以降、衛生面の向上からキャッシュレス化は世界的に進行し、PayPalを始めとした資本主義を加速させるための新たな通貨の前で、1円玉は真っ先に消える運命にあるかもしれず、いま展示されるべきなのかもしれません。ですが、今回のインストールからは、この読み筋が作品から真っ直ぐ届くものではありませんでした。磯野様の次の展開をとても楽しみにしています。

磯野ひろきブース

紅組:T01 望月クララ

きりとりめでるさん コメント
イメージのリズムを作る写真の配置・編集能力が優れていました。ただ、写真のほとんどにキャプションが無いのは鑑賞者の想像力に投げかけ過ぎて勿体ないように感じます。

インスタレーションの次元では、金縁の額装の中途半端な新しさがかつての家庭の風景を想起させ、示唆に富むのに対して、写真集を和綴製本にしたのは過剰な古さの演出に思えました。素晴らしい写真と取り組みですので、これらの写真がどのような支持体とともにあるべきかも今後より一層考えて欲しいです。

望月クララブース

紅組:SS06 ユウ

きりとりめでるさん コメント
重力を扱ったシリーズは瞬間を作り込む力が強く良作だと思います。写真だからこそできる表現を模索し続けてほしいです。ですが、グリッチのシリーズは、グリッチが意匠やエフェクトに留まっているように感じました。その作品にどうやってグリッチをしているのか、どうしてそこにグリッチが必要なのかまで思考が及んでいる作品を見たいです。

白組:T01 大塚卓司

きりとりめでるさん コメント
お母様がのこされた写真と手紙の全てに対してつぶさに向き合った結果、うまれた卓越した構成となっていました。拝見できてよかったです。

ひとつ気になっているのは、ブースの壁に展示された紙面にある手書きの言葉です。母というだけでなく、非常に多面的なひとりの人間としての女性の実存が浮かび上がる複雑さと繊細な本の編集に対して、最初と最後に目に入る壁で母と息子という糸が強烈に結び直されるのが良いのかどうか、悩ましく思っています。

大塚卓司ブース

白組:T02 箱入り息子

きりとりめでるさん コメント
オチも煽りも無いですし、優しくも煮え切らない独白ブログの趣ですが、セルフポートレイトかつコンストラクテッド・フォトとしての印が、段ボールだけで処理され、場合によっては出会った人々との単なる記念撮影までもが貪欲に作品化され続けている点が面白いと思いました。敢えて単なると言いましたが、作品を作り続けることに忠実であることで、被写体となる人々との関係性を刹那的ながらも正面切って結んでいることも強く伺え、好感を抱きます。これからも箱入り息子様が箱に入り、撮影できる世界であることを願ってやみません。

箱入り息子ブース

白組:SS03 Yasuhito Shigaki

きりとりめでるさん コメント
壁の細部を撮影したといえばそれまでですが、本作のようにその細部を抜き出し提示することは写真の本義のひとつだと私は考えています。この作品から、Yasuhito様がその本義を全うする可能性を感じました。ぜひ、撮影した場所・日時・その建造物の名称も記録することで、建築との出会いを深め、あらゆるものを写真平面として等価に扱い、大事に伝え続けて欲しいと思いました。

受賞作品

紅組:W16 塩原真澄

塩原真澄ブース

きりとりめでるさん コメント

写真の意味は時代とともに変化してきました。それは「写真」が、表現や社会上の文脈と、記録や科学技術にとっての文脈、そして支持体の上に成立している制度の総称だからです。本作はこの「写真なるもの」について、「記録」に軸足を据えた上で、あらゆる角度から対峙し、「写真に向き合うこと」が、写真のための写真に充足することはありえないということを思い知らせてくれます。

まず作品に引用されている植物画は、写真機の発明以前の種の同定のための記録物であると同時に芸術表現と見なされていた描画法です。この記録と表現が一体となった植物画は19世紀以降写真が担いはじめ、現代では苗種同定という品種登録の制度へ流れ着き、純粋な記録として振る舞う写真の在り方を開示します。しかしその隣では、同質の撮影とレタッチによる「表現」が表明されるのです。

いずれの作品も精緻な植物の写真であることに変わりはありませんが、植物を記録するという欲望のなかで同着してきた表現と記録の歴史が複雑に絡み合い、いくつものパラレルな二項対立を鑑賞者に往復させ続ける作品構成になっています。

また、記録を目的とした時の写真における支持体への着目も見逃せませんが、支持体のリサーチは二項対立の往復にまでは到達しておらず、深化させて欲しいと思いました(顔料や現像についてのリサーチを行うのも良いかもしれません)。キャプションの情報は洗練の余地がありますが、とにかく拝見できてよかったです。今後の展開も非常に楽しみにしております。


いかがでしたか?
ノミネートされたみなさま、おめでとうございます!
ほかにも、御苗場vol.26のノミネート作品とその理由を紹介しているので、ぜひご覧ください。

御苗場のVRは6月末まで公開中!

御苗場公式HPでは、会場の展示の様子をVRでご紹介しています。公開は6月30日(火)まで。受賞作品をぜひじっくりとオンラインでご覧ください。


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