内藤由樹の海外武者修行ログ vol.22 写真を撮るのがとても好きだとわかった話
2012年関西で行われた日本最大級の写真イベント「御苗場」でレビュアー賞を受賞した注目若手作家・内藤由樹。
世界各地を巡り、現在ペルーにある「Centro de la imagen」のマスタークラス在籍中。
http://yuki-naito.tumblr.com
話の流れは切れてしまいますが、先週は参加型写真展御苗場でしたね。
関わっていた全ての皆様、おつかれ様でした。
私は2度しか出展したことが無いのですが、FacebookやTwitterのタイムラインで
御苗場の話題があがると勝手に感慨深くなっています。
個人的な話になってしまいますが、まあこの連載はそもそも超個人的なものなのですが、
御苗場の後から、私の人生の、写真に関するいろいろなことがとても大きく変わりました。
写真に関することが変わったことによってそこに関さないことも全部変わったとも言えます。
2012年に賞をもらって、それからそのまま東京・京橋の写真センターTOKYO INSTITUTE OF PHOTOGRAPHY(T.I.P)のRISING SUNというワークショップを受け、そこで自分の無知を知り、美大や芸大や専門学校で学ぶようなことが自分には欠けていると恥ずかしくなり、写真史やロランバルト等の定番の読み物、その時話題だった本と手当たり次第に手をつけるも意味がわからなくて最後まで読むこともならずへこみました。
自分のどうしようもないだめさはどうやって埋めたら良いのかわかりませんでした。
そんなこんなでとりあえず社会見学、武者修行のつもりで、
パリフォト、そしてNYヘ、と行ったのですが、おおすげえ。となるだけで
足りないものをどう補ったら良いのかは見えなかった。
現代美術館のよくわからないアートを理解できるようにならなければ!と焦り、
一生懸命やっていました。
ちょっとしんどかったし楽しくなかったです。
とにかく賢くなって、難しい単語でアートのことを話せるようになったら写真家に近づくと。作品と言われるものをつくって写真家と呼ばれる人間になることが、大切になってしまいかけていた。
ちょうど去年の今頃。
ペルーのアレキパの日本人宿に居た私は、英語を使う大事な用事があり、しかし英語が苦手なので、英語教師をしていたという他の旅行者に手伝ってもらいました。
ただ一方的にお願いするのは心苦しいので、何か交換条件を出して下さいと言うと、
じゃあ写真教えて。となり、同じ宿の仲良くなった人たちで
1日町を観光しながら写真ツアーをしました。
わたしが人に教えるなんて、いいのだろうか…とは思ったけれど、
カメラがあれば写真は撮れるので、
どうやったら自分の撮りたいものが楽しく撮れるか。をしました。
みんなで楽しく写真を撮って、それをみんなで見た。そしてあーだこーだ言った。
写真をしていない人と写真の話をするのは、難しいことを考えたり話したりする必要がない、知ったかぶりもしなくていい、ただ写真のことだけ話していればいいから楽しい、久しぶりに楽しかった。
そしてその人達に「本当に写真が好きなんだねえ」と言われ、一瞬違和感を感じ、
しばらく後照れました。
その夜ひとりで、もやもやと、
や、別に楽しいからやってるわけじゃないし、趣味じゃないし。
といったんひねくれてみたりしたけど、いろいろ言い訳を考えてみたりもしたけど、
写真をやっていることの動機は、好きという気持ち、もはや愛と呼んでしまおう、
それとは切り離せないのではないかとなった。
ならばその愛的なものをよくよく観察して、自分のそれを伝えられるようになることが、
作品をつくることを、もしかしたら勉強することよりも、助けるのではないかと思った。
こんなに世の中には星屑のように、と言ったらロマンチックに言い過ぎで、
文字通り屑のようにイメージが、良いのも良くないのも含めて存在するのに、
何故写真をするのをやめないのか、写真を撮ったり人に見せたり人のを見たりして、
嬉しくなったりする気持ちは何なのか。
自分は写真をどう好きなのか。を見失わないように、見失ったら何度でもそこに戻って、
楽しく、制作なんて楽しいばかりじゃないけど、楽しくなれる瞬間や、
つくっているものへの愛情を無くさないようにしようと決めた。
こんなことすっごい当たり前のことで何をわざわざ書いているんだろう、
と我ながら心配してしまうけど、自分のケースを思えば御苗場の後って、
一気に色々な人にそれぞれの視点から色々なコメントをもらってそして、頭が混乱してしまっていたなあと思うので、そんな人がいたら、ただ写真が好きな気持ちを考えなおすきっかけになったらいいなあと思い書きました。
もちろん勉強は大事です。超。
写真が誰でも撮れる時代、写真で何かをしたいなら撮ってるだけじゃだめだと思います。
ただ、今わたしはペルーで写真のマスタークラスにいて、クラスメイトもみんな賢くて、授業も写真のことだけでなく、言語学や哲学や記号学やニューメディアや政治や、情報量が多くて混乱しそうになるけど
このエピソード、わからなくなったら、写真への愛情について考えると決めた。のおかげで、
以前よりは気持ちよく制作しています。
そして、まだできていないけど、以前のものよりも良いものができる予感がしています。
そうでないと困るが。
このまま締めようかとも思いましたが、もうひとつ。
私が最後に出展した御苗場から時間が経ったし、場所も離れているけども、
あの場での人との出合いは今も繋がっています。
勉強している時や授業中、あの時の何もわからなかった私を気にかけて、
あの時の自分でもわかるように教えてくれたいろんな人の言葉を思いだして、
ああ、あの人が言っていたのはこういうことか。と、時間差でやっと受け取れること、
そこからうまれる感謝があるけど、たぶん個人的にいきなりメールを送ったりしたらびっくりさせる、
というか気持ち悪いと思うのでしませんが、これでも十分に気持ち悪いかもしれませんが、
この場を利用して言いますが、本当にありがとうございます。
立派になって日本に帰ります。
内藤由樹 / ないとうゆき
1987 年大阪府生まれ。2013年 キヤノン写真新世紀 佐内正史選・佳作/第2回御苗場夢の先プロジェクトグランプリ/キヤノンフォトグラファーズセッション ファイナリスト/2012 年 御苗場vol.11 関西 レビュアー賞/写真集に「being」(2013年・TIP BOOKS)がある。
次の話を読む
vol.23 マヤのシャーマンと明け方の薄暗い森の中で炎を囲み恋愛話をした話
vol.24 乞食のプロ根性を垣間見た話
vol.25 やっとの思いで辿り着いた渓谷の話