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HOW TO / 作品制作のヒント

ゴッホを巡る旅の集大成 テラウチマサトが写真展に込めた想いとは


写真集『フィンセント・ファンゴッホ―ほんとうのことは誰も知らない―』を上梓したテラウチマサト。発売に合わせて、2つのギャラリーで写真展を開催します。それぞれ異なる作品が飾られるという展示について、そのこだわりを語ります。

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2度楽しめる写真展

約1年間のゴッホを巡る旅は、1冊の写真集と2つの写真展として形になった。
写真集の仕上がりには自信をもっているし、写真展の内容もそれぞれ楽しんでもらえるようなものになっていると思う。

2つの会場では、まったく違う作品を展示している。
リコーイメージングスクエア銀座 A.W.Pギャラリーでの展示と、京橋の72Galleryでの展示は、会期が重なっているために、条件的にも同じ作品を展示することはできなかった。
そしてなにより、2度足を運んでくれる人にゴッホの人生をいろんな角度から眺めてみて欲しいと思ったからだ。

A.W.Pでの展示は、ゴッホが辿った道を順番に示しながら、彼が描いた絵にインスピレーションを受けて撮影した作品を展示している。例えば、有名な絵画「アルルの跳ね橋」や、「カラスのいる麦畑」、「花咲くアーモンドの木の枝」。

ゴッホが描きその目に映したであろう景色を切りとった作品たち。ゴッホがもし今生きていたらこんな風に描いたんじゃないだろうか。あるいは、もしもカメラを持っていたのならこう撮っただろう。そんなことを考えながら、ゴッホの眼差しを僕なりに表現した。

A.W.Pの展示の様子

 

ゴッホを“感じる”写真展

A.W.Pの展示が始まって数日経った頃、ある方から印象的な言葉をいただいた。

「この写真展は、ゴッホを感じる写真展になっている。テラウチさんの写真の前に立った時に、確かにゴッホの存在を感じた。」

それは、本当に嬉しい言葉だった。ゴッホは、世界中の誰もが知るスーパースター。その画家の歩んだ道を撮影するというのは、ともすればその人を追いかけたガイドブックになったり、作品へのオマージュが強すぎて二番煎じのようになってしまう可能性もあった。ゴッホというテーマは、多くの人を惹きつける強い力がありながら、同時に僕にとっては少しのプレッシャーにもなっていた。

A.W.Pの展示の様子

A.W.Pの展示は、ゴッホの新作、ゴッホの作品制作の続きのような形で見てもらいたかったから、僕の作品を通じて、そこに彼の姿を見つけることができたという言葉には、相当の重みがあった。他にも何人かの方に、写真の前に立って作品を眺めているうちに、自分がゴッホになったような気持ちになってくると言っていただくこともあった。実際、僕自身も撮影を重ねる中で、ずっとゴッホが傍にいるような感覚があった。それが、写真を見る方にも伝わったのであれば、こんなに喜ばしいことはない。

A.W.Pでは、僕の写真の他にもRICOHが開発した「立体複製画制作技術」というものを使って複製したゴッホの絵画も飾っている。凹凸や筆のタッチも最新技術で繊細に再現されているので、よりゴッホの息づかいを身近に感じられるような空間になっていると思う。

ほかにも、ゴッホが自殺するまでの70日間を過ごしたというラヴー亭の鍵のレプリカも展示する。これは特別に、ラヴー亭を管理するジャンセン氏から預かったものだ。

現在禁止されているラヴー亭での撮影は、僕も最初は断られていたが、ユネスコや海外での撮影経験などが認められ許可が下りた。鍵に加え、ジャンセン氏にいただいた手紙や、なかなか見ることのできないラヴー亭内部の写真も公開している。ゴッホが人生の最期を過ごした場所を、写真や手紙、鍵から想像し、楽しんでみてほしい。

A.W.Pの展示の様子/中央にラヴー亭の鍵のレプリカを展示

 

手紙×ゴッホ

そして、5月10日から開催される72Galleryでの展示は少し趣向を変えて、テーマを「ゴッホへの手紙」にした。2017年にポーランド・イギリス・アメリカの3か国の合作として制作された映画「ゴッホ~最後の手紙~」。ゴッホが描いた油絵をアニメーターたちが繋ぎ合わせ、動く油絵で構成されたこのアニメーションにヒントを得て、テーマを決めた。

さらに、ゴッホを追っていく中で、彼自身も弟のテオや友人、家族に宛てて多くの手紙を残していることがわかった。撮影の最中、常に近くにいるような気がしていたゴッホ。そのゴッホに向けて、僕も手紙を書いてみたらどうだろう。今までやったことのない、新しい展示方法に僕自身胸が躍った。

展示作品1点1点に、1枚の手紙をつける。ぜんぶ1点ものだ。
マットも写真を入れる窓と手紙用の窓を分けてつけ、デザイン的に凝ったものに仕上がった。そして手紙は、僕がイチから書くのではなく、編集者に話を訊いてもらい、1度まとめてもらったものに刺激を受けて、僕が新たに紡ぎだした言葉が載る。

これを読んでいる人の中には、「そんな大切なことを他人任せでいいの?」と思う人もいるかもしれない。でも、それがいいんだと思っている。それは、写真集の制作においても同じだった。 

自分だけでは生まれてこない写真集

僕は自分の頭の中にあるものが絶対だとは思っていない。写真を撮るのは、自分。だけど、それを写真集という形に残す時には、僕の力量では不十分だ。
そう考えて、今回の写真集は自分が気に入っているもの、使ってみたいと思う写真を選び出し、信頼しているアートディレクターに渡した。1枚1枚、撮影の状況と意図を説明しながら、最終セレクトと並べる順番はすべて託す。それが僕なりのこだわりだった。

【写真集掲載作品】

1年かけた作品を託すのは、確かに勇気のいることだった。でも、人にはそれぞれ活躍する土俵がある。第三者のその道のプロが選び、並べてくれてたものを見た方が、実は刺激的で面白いと思うのだ。創作活動は、自分だけでできるものではない。何かの刺激を受け、自分とその刺激の間にわずかに生まれるもの。それが、創作の種だと思う。僕がゴッホの人生や、ゴッホが見た風景に刺激を受けたように。

ゴッホ。ラヴー亭のジャンセン氏。編集者。アートディレクター。
出合いから生まれ、出合いに支えられ、出合いに刺激を受けた今回の旅は、写真集と写真展になって多くの人の中で続いていく。写真集のあとがきの最後には、自分の好きな言葉を残した。「チャンスは出合うことからしか生まれない」。

写真集を眺め、写真展に足を運んだ時。僕の作品に出合うことで、あなたの心になにかの感情が芽生えたのなら本当に嬉しい。ゴッホの息吹を、僕の視線を通してぜひ感じてみて欲しいと思っている。

■テラウチマサト写真展『フィンセント・ファン・ゴッホ -ほんとうのことは誰も知らない-』
会場:リコーイメージングスクエア銀座 ギャラリー A.W.P
日程:2019年4月10日(水)~5月12日(日)
※5月1日(水・祝)・2日(木)は臨時休館
時間:11:00~19:00(最終日16:00まで)※入館は閉館時間30分前まで
利用料:一回入場510円(税込)   年間パスポート:3,600円(税込)
レセプションパーティー:2019年4月12日(金)18:30~
トークイベント:2019年4月27日(土)14:00~15:00
※2019年4月27日(土)に新刊『フィンセント・ファン・ゴッホ -ほんとうのことは誰も知らない-』を先行販売予定。
写真集の予約受付中!

会場:72 Gallery(東京・京橋)
日程:2019年5月8日(水)~5月19日(日)
※5月13日(月)、14日(火)は休廊
時間:12:00~19:00 (最終日17:00まで)
オープニングパーティー:5月10日(金)17:00~20:00
※写真集1冊(5,000円)お買いあげの方はどなたでもご参加いただけます。当日参加も可能ですが、先着300冊限定のポストカードが欲しい方は、お早めに下記からお申込みください。なくなり次第、終了となりますのでご少々ください。(2019.04.24時点で残り約80冊)
https://phat-ext.com/photobook_gogh
ギャラリートーク:5月15日(水)19:30~20:00

■テラウチマサト写真集『フィンセント・ファン・ゴッホ -ほんとうのことは誰も知らない-』

定価:4,637円(+税)
仕様:上製本/角背/W182mm×H250mm/104ページ/日英併記
帯文:「もしもゴッホが生きていたら…。そんな想像から紡がれた、テラウチマサト氏独自のイマージュ」
正田倫顕(ゴッホ研究者/『ゴッホと〈聖なるもの〉』(新教出版社) 著者)
 


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