
ハービー・山口/小松整司/テラウチマサトがフォトコンテストでその写真を選んだ理由は?講評をチェック!
演劇のようなシュールなイメージ
「はざまにて」岩本ゆうな(静岡県)
——続いて、テーマ応募で岩本ゆうなさんの作品「はざまにて」。
テラウチ 人物のところはかなりレタッチしているのではないでしょうか。ここまで手を加える必要はなかったかなと思いました。暗めのトーンの中に佇む女性は印象的ですが、カメラの位置を工夫してみてほしかったですね。右側から撮ってみたり、あるいは女性にポーズをとってもらったりしてもよかったかもしれません。
ハービー 今号のテーマ「明日へ」に沿った作品とのこと。鳥と、先を真っすぐ見つめる女性でテーマを表現したのだと思いますが、この表現からは明日というイメージが伝わりづらかったですね。少し爽やかさが足りない気がしました。
小松 演劇のようなシュールなイメージですね。レタッチを入れていると思うので、そういった不思議な世界を描きたかったのでしょうか。1枚では判断しづらいですが、この少し現実離れした感じを30 人ほどの人で撮ってみたら、1つの世界ができるかもしれません。
第一印象から、深めていく必要がある
「小さな反抗期」加藤光博(メルボルン)
——次は、自由応募で加藤光博さんの作品「小さな反抗期」。
小松 オレンジ色の花がフォトジェニックすぎるので、人を立たせれば絵になりますよね。そこをもう一歩踏み込んでいってほしかったです。あるいは、少年の帽子もオレンジにしてアクセントにするとか。そこまでつくりこんだら、もっといい写真になると思います。
ハービー 息子さんの反抗期とのことですが、オレンジ色に目が奪われてしまって、その反抗的な表情が窺い知れなかったですね。もし反抗期がテーマなのであれば、もっと寄った方がいい。もしくは、カメラを見ないでつまんないなという動作をしているところを捉えると、伝えたい意図が表現できたかなと思いました。
テラウチ いい場所を見つけられたと思うのですが、ここで撮る最初の1枚という感じがしました。みんなこういう風に撮るだろうなと。
オレンジの花は美しいですが、花びらが落ちた道も素敵です。散った花びらを入れ込みながらこのカーブした道に息子さんを立たせて、強い色の花と反抗期のテーマがぶつからないようにしたらよかったかなと思います。第一印象でいいなと感じたら、どう表現すればいいかを深めていく必要がある。そうしていくことで、初めて見えてくるものがあると思いますよ。
おじいさんの生き方を1枚で表現
「爺さまの教え」西久保美千代(東京都)
——続いて、自由応募で西久保美千代さんの作品「爺さまの教え」。
ハービー 少しメッセージが強すぎる気がしますが、現在なかなか人物を真正面から捉えるのが難しい中で、よくこれだけ近づくことができたなと思いました。伊勢のおかげ横丁に座って、手づくりの小物を売っていたと作品説明にあったので、撮られ慣れている人なのかもしれませんが、このおじいさんの生き方をこの1枚で感じさせる。現実を突きつけ、引っ張られるような作品でしたね。
小松 おじいさんが持つ小物に最初に目がいきますよね。文章のインパクトが強いので、意識がそちらに持っていかれてしまいました。
テラウチ 写真としては力があるいい写真だと思います。皺もこの方の人生を思わせて魅力的でした。ただ、文章に対して自分の心情的な部分で票を入れられませんでした。恐らくさまざまな経験をされた上でこのメッセージを書かれたのだと思いますが、その経験を自ら否定されているところが少し残念に思ってしまいました。
見せたい中心点を明確に
「精神科診察室の光景」冨永貴則(兵庫県)
——最後は、自由応募で冨永貴則さんの作品「精神科診察室の光景」。
テラウチ 精神科医のご自身を、診察室で撮影されたとのこと。とてもいい作品ですが、肝心の作者自身がきちんと写っていないところが気になりました。影が顔を覆い隠していて、本来見せるべき中心点がそこまで目立ってこなかったように思います。
ハービー 横顔の影の落とし方などは工夫しているのでしょうね。ただ、物凄くシリアスなテーマでドキッとしましたが、今ひとつ作者の叫びは写っていないのが残念です。顔が疲れ切っていると作品説明にありましたが、その表情の見せ方も惜しかったです。
たとえば、ため息をついたような動作をしたり、カメラ目線ではなく呆然とどこか違う1点を凝視したり、もう少しできることがあったと思いました。
小松 診察室に射し込む光は美しいです。光の有り様は人の気持ちを掴む大事な要素ですね。この写真の魅力は光そのものですから「神」の文字がこの写真の美しさとぶつかってしまった。文字に意識が逸れなければ良かったかもしれませんね。でも実力のある方に違いありません。