御苗場vol.26 林紗代香、小林正明、小松整司選出 受賞者インタビュー<望月クララ>


全面オンラインで開催した御苗場vol.26の受賞作品を紹介。選出理由と受賞者インタビューをお送りします。

本記事で紹介するのは、林紗代香さん、小林正明さん、小松整司さんが選出した、望月クララさんの作品とインタビューです。
まずは、望月クララさんの作品が選出された理由から。

林紗代香(「TRANSIT」編集長) 選出理由

とくに3部作にまとめた編集が素晴らしいと思いました。
お父様の育った環境や人となりがわかるような情報をリズミカルに紹介する1部/2部があるからこそ、3部の寡黙でなんてことのない道とか建物といった風景写真のなかにお父様の気配が立ち上がってきて、余韻が残る作品になっているのだと思います。まるで1本の映画をみおえたような充足感がありました。お父様の撮影された写真の情感・存在感が強いので、2部の、遺品を白バックでモノとしてクールに俯瞰で撮影しているコントラストもよかったです。

小林正明(gettyimages シニア・アートディレクター) 選出理由

10年位前からアートフォトの世界でファウンドフォトという言葉が歩き始めました。蚤の市などで見つけた昔の写真を「光を当てて、時代を繋いでいく」という、そういう手法のカテゴリだと思います。やはり会場を回っていて、圧倒されたのが、望月さんの作品の手作り感です。

非常に自分と父親のパーソナルな、私的なテーマでありながら、そこにぐいぐいと引き込まれていく普遍的な力がありました。ギリシャ神話の昔から、父と娘の関係なのか、母と息子の関係なのか、いろんなことが取り上げられていますよね。とにかくやはり、その丁寧さ。圧倒的な愛や美しさというものに拍手を送りたいと思いました。

小松整司(EMON,Inc. CEO / EMON Photo Gallery ディレクター) 選出理由

御苗場は自由な発表の場であると共に賞を勝ちに行くというコンペティションの要素も魅力となっている。賞を狙うためには、作家のユニークな視点や表現技術がその対象になるけれど、アートとしての作品ばかりがその対象では決してない。

人と違うことをする。それはアートでは当たり前のことでアプローチは作品の要となる。それだけに突き抜けた表現を獲得するのは非常に難しいことでもあるわけだ。

望月さんの提案は決して目立つものではない。技術も方法論も先端性を思わせはしない。しかし、人と人、あるいは家族との関係、そうした最も自分に近いところに視点を集めて紡ぎ出したものには、深い作家としての造形力が伝わって来る。どうやってこの作品を作ったの?と質問されるよりも、なぜあなたはこの作品を作ったの?そう訊ねられることは大事なことだ。この作品には、そうした根本があって素晴らしい記録を残したと思う。

続いて、望月クララさんのインタビューです。撮影のきっかけやコンセプトについてお伺いしました。

望月クララ『風立ちぬ 玄き峰より』

1冊の古いノートがきっかけに

-この作品を撮影することになったきっかけを教えてください
実家の書棚にあった錆びた缶の中から、一冊の古いノートが見つかったことをきっかけに、制作はスタートしました。

ノートには戦時中、戦闘機「震電」の設計技師だった父の戦争の痛みの記憶が綴られており、たいへんショックを受けました。真実を知りたいという衝動に駆られ、父の遺品やアルバムを探し出し、撮影を始めました。また、縁の深かった土地を訪ね歩くことで、父との対話を深めてゆきました。

-作品のテーマ、コンセプトを教えてください
この作品は、亡き父のドキュメンタリーとして3冊の本にまとめたものです。制作を通じて、私が意図したことは「再生」というテーマです。誰の目にも留まらなければ、物も記憶も風化してゆきます。そこに今一度目を向け、光を当て、風を通すことで、過去を未来に繋ぎ、新たな価値や関係性を見いだすこともできるのではないでしょうか。
生前、父と私の間に対話のようなものはなかったけれど、今となって父はゆっくりと私に語りかけてくれているように感じるのです。

父との関係性を取り戻すための試み

-作品をつくる上で苦労したことはありますか?
父のドキュメンタリー作品として3冊の手製本にまとめていますが、
第1部は父の生い立ちを父の古いアルバムからのファウンドフォト、
第2部は父の遺品、
第3部は父の所縁ある場所を訪ね歩いて撮影した風景写真
を、主たるモチーフとして構成しました。

第3部で、既に亡くなって久しい父との関係性を取り戻そうと試みたわけなのですが、それを写真表現としてどのようにしたら伝わる形になるのか、その点に一番苦心しました。

父と母に与えてもらったテーマ

-作品に対する熱い思いを語ってください!
父の遺品を発見したところから始まったプロジェクトでしたが、この作品には様々なテーマが含まれていることに、後から気づくこととなりました。

・戦争の記憶
・父の人生だけでなく、戦争という時代を生きた人々のドラマ
・過去を今と未来へ継承する、語り継ぐということ
・封印を解く、抑圧を解放すること
・父と娘の関係性について
・再生というテーマ(過去に失われたもの、関係性も取り戻すことができるということ、生き直せるということ)
などです。

昨年、母を看取りましたが、介護のために実家に滞在する時間の中で、この作品が生まれました。これらのテーマは父と母に与えてもらったような気がしています。これらを大切に育み、またなんらかの形にしてゆきたいと思っています。

-今後目指していることなどあれば教えてください。
本を作りたいです。今回、手製本で作品をまとめるのは初めての体験でしたが、写真表現の手段として、手触り感からも伝えたいことを表現しうる「本」という媒体にとても手応えを感じました。今後は手製本(ダミーブック)での表現を一から学び直し、意図を反映させた作品作りをしてゆけるようになりたいと思っています。

■作品の動画

LensCulture ダイジェスト版 限定公開中

https://bit.ly/3ec3JVJ
※海外レビュアーの方に見ていただくためにレンズカルチャーに提出したもの

望月クララ(Clara Mochizuki)

東京都出身。機械の設計技師だった父から譲り受けたカメラで写真を撮り始める。
2000〜04年テラウチマサト氏の写真教室に参加、10年ブランクの後、2015年〜PHaT PHOTO写真教室にて学ぶ。2000年より心と体のケアの仕事に従事しつつ、「ヒーリングプロセスとしてのフォトグラフィー」をコンセプトに、内面を見つめあるがままの自分自身でいるためのアクションとして、写真を撮り続けている。

Instagram:@sweett4u