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内藤由樹の海外武者修行ログ vol.9 ひとりの若者と出会って中米に行くことになった話

Magazine, レポート


2012年関西で行われた日本最大級の写真イベント「御苗場」でレビュアー賞を受賞した注目若手作家・内藤由樹。
現在世界各地を旅しながら写真を撮影している。
http://yuki-naito.tumblr.com

旅行の途中から、きっとこのままふらふらと写真を撮っていても
写真家にはなれないんじゃないか。
ここらで写真を一度ちゃんと学ぶべきなのではないだろうか。と思うようになりました。
それから、NYで学校を探して見学に行ったりしたけど
別に、よしここに通おう!という強い衝動がわき上がることもなく、どんどん、
まあいっか。旅行しよう!という気分に戻ってペルーにきました。

そんな時、縁あってリマのミラフローレスで写真学校の先生をしている人を紹介してもらい
学校の見学をしました。
先生にいろいろ話も聞いて、なんだそれすごくいいじゃないか!と思いました。
何でかはうまく説明できないのだけれど、
場所とか雰囲気とか、そこで会った人とか、全部が気に入りました。
しかし。スペイン語話せません。
英語ですら全然だめなのに。
言葉の通じない所を旅行して、
どうやってコミュニケーションをとるのかといつも聞かれるけれど、
そんなものいくらでもカバーできるものです。
でも、ノリとキャラ押しでは楽しく呑めるくらいには話せても、しっかりと、
例えば、ポートフォリオレビューでレビュアーに自分の作品を説明したりはできない。
このままじゃ全然だ。海外で云々と言いたければ語学なんて最低限のことなのに。

良さそうな学校だったなーでもそうなったらイチからスペイン語勉強しなきゃいけないし、
まあとりあえず旅行を楽しもう。そしてそのうち学校のことも忘れるだろう。
と少しの心残りを感じながらアレキパという町の日本人宿にいました。
そこで出会った卒業旅行中の若い大学生が語学オタクで、いろんな言葉を話せました。
リマで良い写真の学校を見つけて行きたいけど、スペイン語話せないから難しいんだー。と、
今思えば恥ずかしいことを話したわたしに、その子は、
え、スペイン語話せるようになればいいじゃないですか。
と、あたりまえのように、お腹減ったならコンビに行って何か買ってくればいいじゃん。
みたいなノリで言いました。
生意気だ。と思ったけど、その子には実績からくる説得力があり黙ってしまいました。

そうだよなあ。旅行やめたくないし、学校行きたいって認めたら
いろいろ頑張らないといけないから言い訳してるだけなんだよなあ。
とじわじわ悔しさのようなものが湧き上がってきました。

その夜夢を見ました。
アルゼンチンで、スペイン語をペラペラに話しながら今よりもうちょっと歳とったわたしは
すごくのびのびと写真を撮っていました。
なんでアルゼンチンなのか全然わからないけど。
なんかもう、これはそういう流れなんだと、よし、勉強頑張ってみよう。と
目覚めた瞬間決めました。
そして、ペルーよりも授業料の安いグアテマラに行く航空券を買いました。

いえ、本当は、
目覚めた瞬間決めたとか書いてしまったけれど、なかなか思いきれなくて、
同じ宿の旅行者を誘って昼間からビールを呑んでその勢いで買いました。

そういえば、学生時代就活をしていて、どこにも特には就職したくなく、
何か好きなことがしたい、でも何になればいいかわからなくて悩んでた時も、
インドで写真を撮っている自分が夢にでてきて、その自分に憧れ、
一眼レフを触ったことも無かったのにカメラマンを始めた。
まだインドには行ったことがないのですが。
その時に憧れてた感じくらいの人間にはなったけど、また新しい夢の中の自分に会ってしまい、
それが大きな決断をするきっかけになってしまった。
不思議です。

そもそも、本当にその学校に行きたいのかわからない。
ただ、学校案内も読めないようじゃ選択肢にすら入らない、悩むための情報すらないので、
せめて学校案内やHPが読めるくらいにはなろう、と思っていました。

写真の修行のつもりでパリフォトから始まったのに、
スペイン語の勉強のために中米に行くことになるなんて
人生どうなるかわからないものだなあと思いました。

内藤由樹 / ないとうゆき
1987 年大阪府生まれ。2013年 キヤノン写真新世紀 佐内正史選・佳作/第2回御苗場夢の先プロジェクトグランプリ/キヤノンフォトグラファーズセッション ファイナリスト/2012 年 御苗場vol.11 関西 レビュアー賞/写真集に「being」(2013年・TIP BOOKS)がある。

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