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HOW TO / 作品制作のヒント

モニターへの考え方が変わった一台とは。
岩根愛さんによるカラーマネジメントモニターBenQ SW271Cレビュー


8月11日から9月26日まで開催されるREBORN ART FESTIVAL 2021-2022への参加が決定した写真家の岩根愛さん。

第44回木村伊兵衛写真賞受賞作『KIPUKA』の舞台となったハワイ諸島と福島、国内各所での展示やレクチャー、海外でのレジデンシープログラムやワークショップ等々、 岩根さんは、自宅のある東京を起点に、1年の大半を移動しながら作品制作を続けています。

取材を行った2021年6月中旬に岩根さんが滞在していたのは、REBORN ART FESTIVAL 2021-2022の開催地である宮城県石巻市。

2020年、短編ドキュメンタリー映像『KIPUKA -New Beginnings-』がハワイ国際映画祭に招致され、高い評価を受けるなど、近年は映像作品の制作にも意欲的な岩根さんに、石巻での滞在制作で使用しているカラーマネージメントモニター、BenQ SW271Cについてお話をうかがいました。

text:渡邊浩行

モニター上の色は信用していないんです

ーREBORN ART FESTIVAL 2021-2022ではどのような新作を発表予定ですか?

岩根 映像と写真を織り交ぜた映像インスタレーションを考えています。石巻の隣の女川町は、日本で初めて銀鮭の養殖の事業化に成功した場所。滞在を始めてから、銀鮭の養殖にまつわる人や土地の物語を追いかけています。

石巻にて取材中の岩根さん

ー岩根さんは、日常的に各地を移動しながら作品を作っていて、ここ十数年は自宅のある東京に1か月以上滞在したことがないと聞きました。ふだん、作品制作に使っているパソコン環境を教えてください。

岩根 MacBook Pro 13インチを持ち歩いてます。ちょっと古いのですが、自宅ではApple Cinema HD Display 23インチに外部出力しています。

ーデジタルデータから写真作品を作る際のワークフローはどのような?

岩根 RAWで撮影したデータをMac Book Proで現像、レタッチ後にインクジェットプリンターで出力。プリントの確認と調整を繰り返しながら見本を作ります。展覧会向けの大きなサイズのプリントは、その見本を元にラボのプリンターの方とあれこれやりとりしながら色を追い込みます。

ーこれまでカラーマネージメントモニターを使ったことはありますか?

岩根 Apple Cinema HD Displayの購入時にキャリブレーションかけて使っているけれど、その後は特に何もせず、こだわっていません。そもそも、モニター上の色をそれほど信じていないんですよ。私にとって写真作品を作る際の基準となるのはプリントです。

ーデータを追い込む際に、モニター上での見え方と出力したプリントのギャップが大きくて不便じゃないですか?

岩根 不便だけれど、しかたない。そういうものだという前提で使ってきました。

ユーザーコンシャスで配慮の行き届いた機能、サポート

ーSW271Cを使ってみて、どういう印象を持ちましたか?

岩根 自宅のモニターと比べて自然な発色で、愛用しているバライタベースのインクジェットペーパーに出力した際の色味にかなり近い印象を持ちました。モニターとしてもシンプルに綺麗な描画で、発色や明るさのムラもまったく感じません。信頼性は高いと思います。

ー液晶パネル、全体の設計、色調整のシステム、クオリティコントロールなどに力を入れることで、正確な色再現を可能にするAQCOLOR技術が活きているんでしょうね。お使いのApple純正モニターと違ってノングレアなので、周囲から入る光の不要な反射も抑えられているのだと思います。

岩根 自宅のモニターは、一見自然な発色をしているように見えて、意外とコントラストが高いんですよ。SW271Cと比べて彩度がやや高めに感じます。

ー昨年発表した『A NEW RIVER』では、夜の桜並木の下で複数のライトを組み合わせて撮影したイメージが収録されていますね。夜の闇の漆黒さ、ライトの光が透過した桜の花弁の白さといった、対照的でデリケートな複数のオブジェクトで、「桜並木の下を見えない鬼が蠢いている」というイマジネーションを1枚の写真で表現し切ることを考えると、モニターの再現性の高さが制作の決め手になると思うんです。

▽『A NEW RIVER』作品の一部

岩根 ある意味、セオリーから外れたようなライティングもしているし、ハイライトの飛び気味な部分とシャドウの締まった部分とのギャップの処理、全体の色乗りといった、こだわる要素がいろいろありますからね。昨年、東京都写真美術館で展示した『A NEW RIVER』の最終データを、SW271CとMacBook Proそれぞれのディスプレイで表示して見比べたところ、SW271Cはグラデーションがより自然に見えました。

SW271CとMacBook Proで比較

ーハードウェアキャリブレーションは試しましたか?

岩根 機械のことは得意じゃない私でも拍子抜けするくらい簡単。短時間で終わりました。ただ、キャリブレーションをかける前とかけた後で、そう大きく変わった印象もなかったんですよ。きっと、開封してパソコンを繋げば、そのままでも問題なく使える状態だったんでしょうね。

ーSW271Cは1台1台にキャリブレーションをかけて、色調整された状態で、データシートを添付する形で出荷されるんです。キャリブレーションをせずに使えたのはそれもあってのことだと思います。ホットキーパックG2の使い心地はいかがでしたか?

岩根 便利ですね。新作ではカラーで撮影した映像の合間にネガフィルムで撮影したモノクロ写真を織り込んで一編の映像に落とし込むような構成を考えています。でも、モノクロ写真の撮影はこれからで、作品全体の構成を考えるためのサンプルムービーは、ロケハン時にカラーで撮った映像を素材に作っています。とはいえ、映像編集ソフトでモノクロのフィルター処理するとちょっとした一手間なのですが、モニターで切り替えられるのが便利でした。ほんのちょっとしたことですが、スピーディになることで浮かぶアイディアもあるので。

ーそこでホットキーパックG2にプリセットされているモノクロモードが生きると。

岩根 そう。普段私が使っているAdobe RGBからモノクロに切り替えることで、そのままシミュレーションできました。

3つのショットカットキーとダイヤルキーが搭載され、様々な操作を素早く行うことができるOSDコントローラー「ホットキーパックG2」

ーAdobe RGBの色域の99%をカバーしている点も含めて、SW271Cは岩根さんにマッチしているのかもしれません。

岩根 遮光フードもありがたかったですね。日中に野外の現場で使う場合にはマストなのに、標準で付属しているモニターって聞きませんよね。別売品はを買うと1~2万円くらいしますし。

ー高いですよね。しかたなくホームセンターで入手した安い材料でDIYする作家もいます。

岩根 ちょっとしたことかもしれないけれど、ユーザーへのそういう配慮って本当にありがたいんです。USB Type-Cポートの実装もその1つ。ケーブル1本でパソコンと接続できて、そのまま充電もできるのは、私のように、常にノートパソコンを持ち歩いて、出先で作業をするスタイルだとなおさら重宝します。複数のケーブルが必要なシステムは、セットアップの手間が大きいうえにトラブルの原因にもなりかねません。モニターそのものの構造もシンプルで、組み立てが楽でした。高さや角度、向きの調整もすぐできましたよ。

ー故障時に代替機を貸し出してくれるサービス(有償)も用意されていますね。

岩根 トラブルが起きても、すぐにそれ以前と遜色ない環境を作れるのはありがたいです。モニターのように毎日使う機材は、性能面だけでなく、サポートを含めた細かな配慮がどれだけ行き届いているかも重要ですよね。それが、作品制作のペースとクオリティを担保するのだと思います。

ハイエンドな映像制作に対応した仕様とパフォーマンス

ー映像編集の観点から、SW271Cを使った印象を教えてください。

岩根 4K映像のサポートに加えて24Pで出力できることが強みだと思いました。24Pをサポートしたモニターは現状少ないうえに、非対応のモニターでプレビューすると、パラパラしてぎこちなく感じられます。試しに、4Kで撮った映像をSW271Cで再生したら、滑らかな描画に驚きました。

ー24Pと30Pでは、映像の印象がそこまで変わるものなんですね。

岩根 そういう感覚的な部分が忠実に再現されるということはすごく大事なこと。プレビューは作品が完成するまでのプロセスの確認行為ですから、使用モニターの再現性の高さは重要。感覚的な部分についても、観てくださる方たちときちんと共有できるかが問題になるわけです。SW271Cのような、細かな差異までも掬い上げてくれるモニターは心強いです。

ーSW271Cは頼りになりそうですね。

岩根 初めにお話ししたように、私はモニターには期待していなくて、そこで作品を追い込んでもしかたないと思っていました。でも、SW271Cで今回は主に映像作品の作業をしてみて、いい作品を作るうえで疎かにできない複数の要素がしっかり担保されてことに驚きました。ちょっとオーバーかもしれませんけれど、モニターという道具に対しての考え方が変わったというか。

ー木村伊兵衛写真賞受賞者であり海外の映画祭に作品が招致されるような、すでにいくつもの高い業績を重ねてきた作家の発言としては意外です。

岩根 私にとって自宅も作業場ですけれど、常に移動していて、今回の石巻のように、出先で作品を作ることが多いんです。言い換えれば、常に異動先が制作の現場であって、100の現場があればモニターの再現度も100通りあるわけで、つどつどそこに合わせないといけない。だから、場所によって異なるモニター環境を追い込んでもしかたないんですよ。写真については紙のプリントが一番信頼できる判断基準だというのはそういうこと。映像については、スタジオで使うマスターモニターを色の基準に考えるけれど、それとの差はしかたない、という意識でやってきたわけなんです。

ーSW271Cは全世界で使われているビデオキャリブレーションソフト、『CalMAN』をサポートしています。CalMAN認証を取得し、『CalMAN』の3DLUTキャリブレーションに対応しているので、複数のモニターをマスターモニターとほぼ差のないレベルまで調整できるんです。つまり、チームで大規模な映像作品を作る時にも、映像のクオリティーをほぼ均一にすることが可能になります。

岩根 それは便利ですね。

ー最後に、これまで岩根さんが経験してきた滞在制作の現場と比べて、SW271Cを導入した今回の環境はいかがですか?

岩根 出先でここまでいい環境で作業できたことはありません。とりわけ今回は映像作品なので、モニターの性能が作品に影響する度合いはより大きいから、本当に助かりました。複数の拠点を動きながら、写真と映像の両方で作品を作っている私のようなフォトグラファーにとって、SW271Cは、与えられた条件下で作品の質を最大限高めるために、極めて頼りになるモニターだと思います。

岩根愛
1975年、東京生まれ。1991年単身渡米、ペトロリアハイスクールに留学。帰国後、1996年に独立。2006年以降ハワイにおける日系文化に注視し、移民を通じたハワイと福島の関わりをテーマに制作を続ける。2018年、初の作品集『KIPUKA』(青幻舎)を上梓。第44回木村伊兵衛写真賞、第44回伊奈信男賞受賞。2020年、第37回写真の町東川賞新人作家賞受賞。著書に『キプカへの旅』(太田出版)、『ハワイ島のボンダンス』(福音館書店)、『A NEW RIVER』(bookshop M)。中江裕司監督作品『盆唄』(テレコムスタッフ、2018)を企画。アソシエイトプロデューサーを務め、自身の短編映画『KIPUKA -New Beginnings- 』がハワイ国際映画祭に招致される。http://www.mojowork.com/

BenQ SW271C

主な仕様

●Adobe RGB99%対応写真・映像編集向けカラーマネージメントモニター
●27インチ4K UHD(3840×2160)の解像度のIPSパネル採用
●正確な色再現を可能にする「AQCOLOR」技術採用
●Adobe RGB99%、sRGB/Rec.709 100%、DCI-P3/Display P3色域 90%までカバー
●スムーズなカラーグラデーションを可能にする10bit色深度
●ムラ補正技術により、均一なユニフォミティを実現
●ハードウェアキャリブレーション対応
●キャリブレーションソフトPalette Master Element(付属)が利用可能
●カラー写真をモノクロでプレビューできる3段階のモノクロモード
●異なる色空間の映像を左右に並べて同時に表示できる「GamutDuo」機能
●Pantone認証、CalMAN認証を取得
●HDR10(PQ方式)・HLG方式対応
●60W給電可能なUSB Type-C搭載
●モニター(遮光)フード標準搭載
●3年間保証/修理期間中に代替機貸出できる「センドバックサポート」対象製品

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