ゲッティイメージズがいま求めている 新しい「ストックフォト」の写真とは?
「ストックフォト」という言葉を聞いて、どんなイメージを持ちますか?
昔は、プロの写真家にしか撮れない写真であり、広告的に汎用性の高い写真が売れるというイメージがありましたが、いまは、誰もがスマホで撮る時代であり、求められる写真のテーマ、作品世界も広がり、変化してきました。むしろ、いまは既存のストックフォトの枠にはまらない写真が求められています。
本記事では、2015年より「御苗場」のレビュアーを務めるゲッティイメージズ・シニア・アートディレクターの小林正明さんと、「御苗場」で小林さんと知り合ったことをきっかけに、ゲッティイメージズで作品販売を始めた西澤祐介さんをお迎えし、今、世界の広告市場で求められている写真について、そして御苗場の参加者に期待することなどを聞きました。
(左)小林正明さん(右)西澤祐介さん
既成観念から外れた美しさ
――小林さんには2015年から御苗場にレビュアーとして参加していただいていますが、初めてお越しいただいたとき、どのような印象を持たれましたか?
小林 みなさん本当に写真が好きで、熱いエネルギーを感じました。作家さん一人ひとりが、広くて深い世界を持っている。それが約300ブース分集まっているので、どのブースに行っても写真が「見てください」って話しかけてくれる。それがすごく楽しかったです。
――西澤さんは2015年の御苗場で小林さんと出合われたことで、現在、ゲッティイメージズの契約作家としても活動されています。西澤さんの作品は、どんなところがいいと思われましたか?
2015年の御苗場で西澤さんが出展したブース
小林 確かな美意識を持っていらっしゃる方だと思いました。痒い所に手が届くような、気持ちのいい作品。丁度その頃、ゲッティが「グリッチ」というキーワードにフォーカスしていました。グリッチというのは、ノイズというか、美術的に言うと、「壊れている美しさ」を意味します。「写真とはこうあるべき」という既成観念から外れた美しさ。それを改めて気づかせてくれる写真でした。
西澤 僕は、この時、はじめて御苗場に出展したのですが、レビュアー賞をとることはできませんでした。でも、後日小林さんにお声がけ頂いて、すごく嬉しかったですね。
――そのとき、ストックフォトについてはどんな印象を持たれていましたか?
西澤 あまりよくわかっていませんでした。職業としてのカメラマンのイメージはあっても、写真自体を売るという発想はなかったです。
――契約されてからは、どのくらいのペースで作品を販売しているんですか?
西澤 数か月にワンシリーズくらいの頻度で作品を預けています。ほかの方に比べて、ペースはだいぶ遅いと思います。
小林 どのくらいの頻度で提出しなければならないなど、特に決まりはありません。ペースは作家一人ひとりにお任せしています。
西澤さんは、3年間で、127点の販売作品をアップしていますが、ゲッティのWebサイトに西澤さんの新しい写真が上がると、海外のADからも「かっこいいね」ってコメントが寄せられたりするんですよ。
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Creative in Focus 2016に掲載された写真。 / Creative in Focusとは世界中のメディア、ポップカルチャー、広告、アート、そしてGetty Images上で検索・ダウンロードされたデータをもとに、ゲッティイメージズのクリエイティブチームが毎年発表するビジュアルトレンド冊子。全世界の何百万というビジュアルプロフェッショナルが見る冊子の中面見開きページに西澤さんの写真が掲載された。
作家の個性とトレンドをミックスする
――写真は実際に売れるんですか?
西澤 数か月に1度、売れるイメージです。最初は1点、20ドルくらいだったと思います。小林さんには最初「マラソンみたいなものだ」と言われました。ずーっと走り続けてやり続けて、どこかでちゃんと売れるときが来ると聞いていたので、いつか売れるといいなと思っていました。
――最初に作品が売れたときはどういう気持ちでしたか?
西澤 嬉しかったですね。自分の写真が使われたビジュアルを目にしたときはやっぱり嬉しかったです。
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車の広告に使用された作品
――写真を続けるモチベーションのひとつにもなりますね。
西澤 そうですね。実際に自分の写真がどういう広告にどう使われているのかを見ると、かなりのモチベーションになります。それまでは、仕事で写真を撮ることはあっても、自分の作品としてアウトプットするということはありませんでしたから。それに、写真の評価を受けたこともあまりなかったので、小林さんから連絡をいただいた時はすごく嬉しかったです。
――西澤さんの作品をゲッティで販売するようになって、小林さんは西澤さんに何かアドバイスされましたか?
小林 ゲッティではどういうものが売れているか、西澤さんのこういう所がいいから、こうしてみたら? といった話をさせて頂くくらいですね。好きなものを撮って、それがビジネスになっていくということを大切にしています。
皆さんそれぞれ、何を美しいと思うか、何を撮ったらドキドキするのかという、「美の定規」があるので、最初にお話をする時にそれを聞き出すようにしています。 西澤さんがやりたくないことを力技でやらせたくはないんですよ。西澤さんのいいところと、どうすれば売れるか、というところを結び付けられれば、それで僕の仕事は終わりです。
もちろん、写真を販売するには、モデルリリース(人物からの利用許諾)など事務的なルールもありますが、それをご理解いただくくらいですね。
西澤 僕はそれまで他の写真家についてあまりよく知りませんでしたが、小林さんが僕の好きそうな作家さんを教えてくれて、いろいろな作品を見るようになりました。いま求められている写真の方向性などの話もしてくれるので、自分の写真にそれをどう反映させられるかということはよく考えています。個性を尊重した上で、いま求められている写真はこういうものだと教えてくれるので、とてもイメージしやすいです。
小林 この写真は、「ジェンダーブレンド」なんて話をしていた時じゃないかな?日本にいるとあまり実感がないかもしれませんが、ゲッティのマーケットでは「多様性」「個性」などのキーワードがとても重要になっています。
あと、「サイレンスvs.ノイズ」なんていう言葉もあって、この写真はそれを意識しましたよね。「静けさvs.喧騒」っていうのかな。イマジネーションが活性化される余白のある写真です。
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これもやっぱり「グリッチ」なんですよ。壊れている美しさ。日本のストックフォトの中にはあまり無いと思う。やっぱり西澤さんにしか見えないものが見えているんですね。
世界に向けて作品を発信するチャンスの場
――今、ゲッティイメージズで販売されている西澤さんの作品127点は小林さんがセレクトをして、審査に通った作品ですよね。
西澤 小林さんは僕とは比べ物にならないくらい写真を見ているので、いろんな角度からのアドバイスをくださいます。一度、載せたいと思っていた写真が外れてしまって相談したことはありましたけど。
小林 外した理由はありますが、頑なにダメということではありません。 逆のパターンで言うと、西澤さんと同じように、御苗場で声をかけさせて頂いたRieko Honmaさんの場合、「Creative in Focus 2016」の表紙になった写真はご自身ではNGカットだと思っていた写真です。
作家としてはNGだと思ったものの中に、僕らが何かを見つけられることもあります。 この写真は三島由紀夫の小説「真夏の死」のフランス語版の装幀にも使われています。
――作家の個性と、ゲッティイメージズが求めている写真であるか、というところを総合的にジャッジされているんですね。今後の西澤さんに期待されていることはありますか?
小林 一緒に上質な作品をつくっていきたいです。がんがん撮り進めていきましょう。これからもっと幅を広げ、引き出しを増やしていきましょう。
西澤 がんばります!僕にとっては、アウトプットできる場ができたというだけでも確実に世界が広がりました。自分で良い写真が撮れたと思っていても、思っているだけでは何にもなりませんから。御苗場で小林さんと出合えたことは、すごくいいきっかけだったと思います。
――では最後に、御苗場に出展されるみなさんに一言ずつメッセージを頂けますか。
西澤 御苗場は、自分の作品を見てほしい、仲間を作りたい、賞がほしいなど、いろいろな目的を持った方々の写真を見られるという点でも、ものすごく貴重で意味のある場だと思います。作風も様々だし、すごいなと思う作品が毎回たくさんあります。
出展したときに嬉しかったのが、コメントノートに感想を書いてもらったことですね。自分の写真がどう見られているのかが、ダイレクトにわかるので、感想を書いてあげると喜ばれるんじゃないかなと思います。
小林 御苗場は写真好きが集まる場所ですから、本当に期待しています。今年もまたいい出合いがあるでしょう。
写真文化がこれだけ花開いている時代ですから、みなさん、もっとゲッティのプラットフォームで遊んでいただきたい。スマホから直接アップロードできるアプリ(Contributor by Getty Images)もありますし、事務的な手続きも慣れてしまえば、インスタグラムにあげるのと変わらない手軽さです。
世界に向けて販売されることは、想像以上の反応・成果を生むことがある。それをみなさんに実感して頂きたいです。
――ありがとうございます。小林さんは今回、「御苗場2018」のレビュアーとしての参加だけでなく、トークショーやセミナーにもご登壇いただきます。ストックフォトや作品販売について少しでも興味のあるかたは、ぜひ遊びに来てくださいね。
小林正明
ゲッティイメージズ:シニア・アート・ディレクター
ゲッティイメージズ入社以前から長く国境や文化を越えた写真のライセンスビジネスに携わり、 80年代には、H.ニュートン、A.リーボヴィッツ、R.メイプルソープの写真を国内メディアに紹介。 90年代に入ってからは、国内作家のルポルタージュをLife、Smithsonian、Paris Match、Stern、GEOといった海外主要メディア誌に掲載するなど、幅広く活動。西暦2000年企画として、Y.A.ベルトラン「空から見た地球」の日本における写真展プロデュース、G.ランシナンの「Urban Jungle」の撮影コーディネートなどに携わる。
www.gettyimages.co.jp
西澤祐介
Editor/Photographer/WHATTS INSPIRIT Director
音楽関係の本の編集者をしながら独学で写真を始め、ライブやアーティスト写真を撮影するようになる。2015年の御苗場出展を機にゲッティイメージズと契約。サーファーやスケーター、女性のポートレートを中心に撮影。また、自身のアートブランド「WHATTS INSPIRIT」のディレクターを務める。
www.yusukenishizawa.com
whatts-inspirit.net