フォトコンテストで上位に選ばれた理由は?講評をチェック!
「PHaT PHOTO」の人気コンテストPPC。
毎号異なる3名の写真関係者を審査員としてお招きし、審査を行い、座談会形式で3名の視点から講評します。
上位50作品は必ずコメントがつくフォトコンテストです。
本記事では、上位入選10作品を一挙ご紹介。
1位に選ばれた作品の良さは?評価の分かれ目ってなに?審査員たちのさまざまな視点から、あなたの写真がレベルアップするヒントが見つかるかもしれません。
審査員:熊谷聖司/佐藤倫子/テラウチマサト
偶然を捉える確かな撮影技術
1位「弥生の空」今村修(埼玉県)
――今回の1位は、自由応募による今村修さんの作品「弥生の空」です。熊谷さんが1位、佐藤さんが3位に選ばれました。
熊谷 この作品をモニターで拡大して見てみると、群れの中に1羽だけ白い鳥がいたんです。作者は意図していなかったかもしれないですが、その発見が決め手になりました。
写真を講評する時は、よく観察することが大切だと思っています。たとえ作者が気づいていない部分でも、そこに面白さが潜んでいる。写真が持つ魅力を改めて感じました。
佐藤 突然のシーンで構えて撮ったショットだと思うのですが、その偶然性と、まるで意図したような構図が上手くミックスされています。そして、その表現がいやらしくない。
鳥たちが散らずに、ぎゅっと丸く集まっている瞬間をよく捉えられていますね。その時でしか撮れないチャンスを、しっかり見極められたんだろうなと思いました。
テラウチ 鳥のまとまり方が面白いですね。確かに、佐藤さんが言われたようにわざとらしくない切りとり方だと思います。
ちょうど電波塔の真上に鳥が群れるタイミングを、カメラを構えて待っていたのでしょうか。偶然の瞬間にも関わらず、落ち着いてシャッターを押されていると思います。安定した作者の撮影技術を感じました。
演出しないピエロの表情に物語を感じた
2位「After the show」船見征二(栃木県)
――2位は2作品あります。まずは、自由応募で船見征二さんの作品「After the show」。佐藤さんが1位に選ばれました。
佐藤 ピエロの表情に目を引かれました。昔の映画のワンシーンのようですね。被写体の視線の先に、何か物語を感じました。切ないピエロの表情も自然に感じます。
あえて右に寄せて左を空けた構図の間の取り方もいいですし、白塗りの顔も相まって、いかにもスポットライトが当たっているような効果が出ていますね。印象深い1枚でした。
熊谷 セットアップではなく、話をしながら撮影されたとのこと。顔の向きなどを細かく指示するのではなく、このピエロの自然な様子を捉えるのがいちばんいいと思われたのでしょうね。作者がどんなことを表現したいのか、意図が明確でよかったと思います。
テラウチ 遠くを見つめるピエロの姿に、哀愁を感じました。モノクロの画面の中で、白塗りの表情が際立っていますね。人を楽しませるピエロの物悲しさを撮るのは両極の融合という感じがして、面白いと思いました。
ポーズが激しいと、ねらいすぎた印象になりそうですが、この作品は演出しているようには見えない。特別装飾をしていない雰囲気がよかったです。
鴉の生命力あふれる力強い1枚
2位「鴉」イトウエージ(千葉県)
――同じく2位は、自由応募でイトウエージさんの作品「鴉」。テラウチさんが1位に選ばれました。
テラウチ 大胆な構図に力強さを感じました。羽を広げた様子が、不思議なマントのようにも見えます。こういう撮り方は珍しいので、今回の応募作品の中でも目立っていました。
佐藤 すごくインパクトがありますよね。私も票を入れるか悩んだのですが、
なんとなくトリミングを前提とした作品だったのかなと感じてしまった。
私は、写真は撮った瞬間に完成というのが当たり前だと思っているんです。もちろんスパイスとして撮影後にクオリティを高めるためのレタッチはありますが、トリミングは結局後付けになってしまう。本当はどうなのかはわからないですが、直感で今回はあえて選びませんでした。
熊谷 僕も基本的にはトリミングありきでの撮影はしませんね。佐藤さんが言われたように、辻褄を合わせるような感じになって、それはあまり表現としてよくない気がする。
目を引く1枚ですが、羽の描写がもう少し見えてもいいかなと思いました。真っ黒に塗られているところが見えてくると、また印象が変わったかもしれません。
テラウチ 僕はこの作品の美しさは、白い余白だと思うんですね。鴉が真っ黒につぶれていることによって、白い空の部分が映えてくる。鳥のディティールを表現せずとも、羽の広げ具合や、鋭い足で、十分鴉の逞しさや生命力は表現できていると思いました。
その場その瞬間をそのまま写したインパクト
4位「放流はじまる」髙野良介(群馬県)
――続いて4位は、自由応募で髙野良介さんの作品「放流はじまる」。佐藤さんが2位、熊谷さんが特別賞に選ばれました。
佐藤 ダムで汚れた水を放水する際、観客の上にゴミが被さった瞬間を撮ったとのこと。ゴミが舞っている迫力がとてもインパクトのある作品です。
この場のこの瞬間をそのまま写すことができていると思います。画面いっぱいにあるものが一体何なのかわからないところが、面白さになっていますね。
熊谷 僕も作品の説明を読む前は、何がどうなっているのかよくわかりませんでした。ゴミの彩度が強くなっているので、よりその不思議さが際立ったのだと思います。ただ、出力にはもう少し工夫がほしかったですね。あまりにもオレンジ色が強かったかなと。
テラウチ ダムの放流のシーンとのことですが、何かそれ以上のとんでもないことが起こっているように見えますね。ご自身もゴミを被りながら撮影をされたのでしょうか。
面白い瞬間を捉えられたと思いますが、熊谷さんが言われた点が僕も気になりました。手前のゴミが目立ちすぎて、少し不自然な感じがする。前景や被写体のバランスを意識すると、より印象的な作品に仕上がると思います。
作品として成り立っている家族写真
5位「ばあちゃん」松山瑞樹
――続いて5位は2作品あります。まずは、自由応募で松山瑞樹さんの作品「ばあちゃん」。テラウチさんが2位に選ばれました。
テラウチ アーティスティックな作品が多い中で、この日常的な写真が目に留まりました。こういう写真は、家族アルバムの中だけで意味があるものと、作品として成り立つものがある。
おばあちゃんはもちろん知らない方ですが、自分の中の家族や故郷を思わせるような要素がありました。おばあちゃんの周りにあるものが、よりそういうイメージを伝えているのだと思います。中途半端な切り方がよかったですね。
熊谷 テラウチさんが言われたように、僕もバケツや野菜の入れ方がいいと思いました。一見ただのおばあちゃんの写真ですが、全く知らない人が見ても、作者とおばあちゃんの関係性が伝わってきて、温かい気持ちになる。自分も様々なものを写真に入れていくタイプなので、その点で共感しました。
佐藤 家族だからこそ撮れる写真ですよね。知らない人がぱっと撮ったようなものではなく、家族に対して向ける笑顔がここに写っていて、1枚の力強さになっていると思います。
アイディアを掛け合わせたところに遊び心がある
5位「パーツの街…来る」岩野ナオミ
――同じく5位は、自由応募で岩野ナオミさんの作品「パーツの街…来る」。熊谷さんが2位に選ばれました。
熊谷 作者が写真を楽しんでいるということが伝わってきましたね。青っぽい色味も不思議で、絵のようにも見える。いくつかの写真を組み合わせた、遊び心のある作品だなと思いました。
佐藤 現実と非現実、二次元のような空間を表現しているようにも見えます。あえてセルフで自分を中央に持ってきた構図は、どこかで現実をアピールしたいという意図なのかなと思いました。
テラウチ 普通であれば1枚で見せるところを、縦の線で画面を3つに区切って繋ぎ合わせたところが魅力的でした。よく見てみると、意外に1枚1枚もいいんですよね。
いちばん右の写真の黒い人物の後ろに点々とブロックが並んでいる様子が、グラフィカルで面白い。よくある写真にまとまらずに、自分が持っている写真やアイディアを掛け合わせた点がよかったと思います。
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✔見れば見るほど写真の面白さが発見できる
✔仕上げへの作者の想いが感じられる
と評された、7位~9位の講評をチェック!