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フォトまち便り「Hello Local」vol.21 紀南フィルム ~この町で紡いだ思い出、経過してわかった大事なこと~


紀南、富山、郡山、下田の4つの地域写真部が綴っていく連載企画「Hello Local」。今回は、東京からUターンし、現在は和歌山県の古座川町で暮らす紀南フィルムのひらみさんによるフォトエッセイです。祖父母との思い出のまちにカメラを向けることで、見えてきた意外なストーリーとは?


はじめまして、紀南フィルムのひらみです。


黒潮薫る本州最南端のまち、和歌山県串本町で生まれ、隣町の古座川町の宿泊施設で働いています。

東京からのUターン。1年限定のはずだった…

大学進学を機に地元を離れ、京都では鴨川の近くに住み、東京では目黒川、そして巡り巡って今は古座川。と、なんとも川のあるところに不思議と縁があります。

そんな私が東京からUターンすることが決まった時に、古座川町でたまたま観光の仕事の求人がありました。「1年間だけの限定の仕事、絶対更新はない。」そんな条件でしたが、まさかのもう9年もいます(笑)。

東京で一所懸命に探していた風景

毎日の車での通勤風景が好きです。自宅を出発し、海岸沿いを車で走りながら河口に着き、川沿いに並ぶ家々を横目に山の奥へ奥へと走らせます。

季節によって海の明るさ、山のにぎわい、空気の匂いが違って、東京時代わざわざ探していたものが毎日すぐそこにあります。

古座川は河口付近から源流まで全長約40キロ。山々を縫うように川が流れ、人々が暮らしています。

30年ぶりに訪ねてきた人に「あの頃と何も変わっていない!」と言わしめるくらい時間がゆっくりと流れる町です。コンビニはもちろんマンションや信号機もありません。

想い出が土地に埋め込まれている

そんな古座川町は祖父母の生まれ故郷で小さな頃から馴染みがあり、色濃く残ってる思い出は古座川のものばかり。

遊園地や動物園、子供の頃に行った思い出の場所は、映像として残っているけれど、古座川での思い出は今も五感で蘇ります。

うなぎを捕まえた時のぬるっとした感触遊び

疲れて帰る時の夕暮れ時の川の匂い

散歩で集めた椎の実を煎った香ばしい味

山にお手伝いに行った時の枝打ちの音

今も同じシーンに出くわすと、ふわっと蘇ります。

冬が去って春になると大人たちの姿が見えず、どこに行ったのかと聞くときまって山菜を取りに山へ。数日、食卓には山菜が並びあんまりいい思い出がなかったり。

鮎の解禁が近づくといつもはクールなおいちゃんが、そわそわして行ったり来たりする夏のはじまりがあったり。

秋はゆずの収穫の手伝いに駆り出された大人は、ぐったりして帰ってきて誰も遊んでくれなかったり。

その季節になると、「あぁ、またこの時期がやってきたか」と思い出す空気感もあの頃のまま。

今思うとそれらは全て生活に紐づいていて、知らずに貴重な体験をしていたのだと、大人になってこの町で働くようになり、改めて気付きました。

あたり前じゃなかったこの町の桜

そしてもう一つ。
この町で知ることができた事があります。

古座川町には2018年に約100年ぶりに新種として発見された桜「クマノザクラ」の標準木があります。それまで地元の住民は早咲きのヤマザクラとして毎年愛でていたものが、実は未だ発見されていない新種の固有種だったんです。

小さい頃、ひいおばあちゃんに
「好きな花はなに?」と聞くと、
「桜だねぇ。」と答えてくれました。

ひいおばあちゃんの雰囲気と、私が知っている絢爛豪華な桜が結びつかず、子供ながらに不思議に思っていました。

その疑問が数年前の新種の発見によって紐解かれることになるとは…。

新種として発見されたクマノザクラは、今まで見たことのある桜とは違い、肢体はすらりと伸び花弁はなんとも可憐で楚々とし、山奥にひっそりと咲いています。

そうか、昔は植樹したソメイヨシノは無く、山に咲いていたのは自生の桜ばかり。
ひいおばあちゃんが見ていたのはこの桜だったのだと、納得がいきました。

大好きなひいおばあちゃんが好きだったクマノザクラ。私は毎年この木が咲くのを楽しみにしています。

そんな思い出の場所で携わる仕事は宿泊業。
観光とは切っても切れない関係。

日々、この町の希望と不安と追いかけっこする中、紀南フィルムに所属することにより、
仕事以外で地域のことに関われることがすごく新鮮で、観光に対する捉え方、写真の切り取り方も変わってきました。

自慢の町の名所はメインではなくあくまでも背景。そこではどういう人たちがどのように関わっているのか。ストーリーをメインとして捉えられるようになってきた気がします。

カメラを向けるから残せる風景

古座川に「滝の拝」という名所があります。

トントン釣りという地元の組合員しかできない漁法で鮎を釣るのは初夏の風物詩。前日が大雨で増水した日は特にカメラマンが集まります。

たまたま朝早く目が覚め、何も考えずにふらっと訪れたある日。

凸凹した奇岩の間を増水した川が滝のように流れ、そこに釣り糸を垂らすいつものあの光景。

、、、ではなく、あの断崖絶壁に差し込める朝日で新聞を読んでいるおじいちゃんが!?

お、これは!とカメラを構えると、こちらに気づいたおじいちゃんは慌てて新聞を閉じ、
釣り糸を垂らし始め、、、

どうやらカメラを構える私がトントン釣りを撮りにきたのだと思い、すかさず釣りにシフトしてくれたようなのです。。。

おじいちゃん:「もう、早く撮らんかい!新聞のつづき、読みたいんや〜。」

わたし:「撮りたいのは釣りしてるとこじゃないのよ、もう一回新聞広げて!お願い!。」

両者譲らず。(笑)

そんな攻防が繰り広げられる前になんとか撮れていた奇跡の一枚。

そんなハプニング?が楽しくて
今日もふらっと名所に出かけている日々です。

平見 華子(ひらみはなこ)

1981年生まれ
和歌山県串本町生まれ。高校まで地元で過ごす。
大学は名古屋、就職は京都、なぜか無性に幼い頃に習っていた書道を勉強したくなり仕事を辞め東京の書道専門学校へ。卒業後、20年ぶりにUターン。祖父母との思い出の町、古座川町の宿泊施設で働いている。


STORY TELLER / 写真家達の物語 vol.37

フォトディレクターの推し写真集

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