写真家を志す人へ テラウチマサトの写真の教科書 第12回 「御苗場」の出展者に伝えたいこと
本記事は、3月1日(木)~4日(日)まで横浜・大さん橋ホールにて開催される、「御苗場2018」出展者に向けた、作品制作レクチャーイベント「ナエラボ」のトークショーを一部抜粋したものです。「御苗場」について、作品のPR方法について、テラウチマサトが語りました。
御苗場(おなえば)とは?
御苗場は、“自分の未来に苗を植える場所”という思いのもと、2006年にはじまった日本最大級の写真展です。これまでにのべ3500組以上が参加。御苗場をきっかけに世界で活躍する写真家も多数生まれています。横浜では、幅1500mm(一般ブース)の壁の中で創意工夫凝らされた展示が立ち並びます。300組以上の出展者、それ以上の数多くの写真好きの来場者たちと交流し、語り合い、仲間になる「出合い」の場です。
「御苗場」は裏原宿
私は、2010年にNYフォトフェスティバルで展示をしたことがあります。フォトフェスっていうのは大きな広いイベント会場や野外などでやることが多く、「見せる環境」という意味でいえば、とりわけ素晴らしいわけではないんですよ。
外光が差し込んできたり、あるいは暗かったり、展示場所によって全然光の入り方が違う。
しかも自分では場所が選べないことがほとんど。
でも、ほんとうに新しいものが生まれてくる場所って、私にはそういう混沌としたところから生まれるというイメージがあるんです。
御苗場も同じで、きれいに美術館のような展示はしてなくって、わざと展示壁を蛇行させたり、狭いエリアをつくったり、広いエリアをつくったりしています。
それに対して、時々、「見にくいのでは?」と意見を言われることもありますが、私にとって、御苗場は「裏原宿」みたいなものにしたいのです。
「表参道」というブランドストリートは確かにすごいし、美しいけど、あのブランドが更に大きくなるとは私の中では思えない。未来は想定内にある場所。一方で、〝裏原〟には世界に羽ばたいていったコム・デ・ギャルソンのように、想定外の未来を感じます。
御苗場は、「自分の未来に苗を植える場所」という命名の由来があります。無審査だから、色んな人が出てくる。優秀な人もいれば、未来の天才もいる。未来も今と同じ人もいるかもしれないし、玉石混交なんですけど、そこが面白いんです。想定以上の未来を生み出すかもしれない場所。
本来、御苗場っていうのは何かが生まれる場所だし、卵の孵化装置にしたいからごちゃごちゃにしたいし、実は条件が違っても面白いと思うんです。大切なのは、そういうところから這い上がってくる力があるかどうかだと考えているんです。
自分の作品は美術史の中でどの流れか
数年前かなぁ、どのくらい前からかは調べてみなきゃいけないけれど、花や風景、日常のシーンなどを、2~3絞りほどオーバーに撮る、色味の明るいハイキーな写真が流行ったことがあります。
たとえば、そんな写真を撮っている人が御苗場でレビュアーに作品を見せる時、「あなたの作品は、なんでこんなに見た目以上に明るいのですか?」という問いに、「流行っているからです」っていう人がA。
「僕、こういうの大好きなんですよね」っていう人がB。
でも「西洋美術史のナビ派は、親しみやすい日常的な世界を明るい色彩で描き、アンティミスト(親密派)とも呼ばれた。僕の作品は西洋美術の中のナビ派の系統を受け継いで、そこから新たな作品を出そうと思ってる」と、答えられた人がC。
だとしたら、そのレビュアーが僕なら、絶対Cの人に興味や関心を抱く。
何を撮ったらいいのかって迷うときも、この西洋美術史を知っていると、ものすごく参考になる。私ってこういう系譜のものが撮りたかったのか、とわかるようになるんです。
18世紀から19世紀にかけて、写実主義っていう西洋美術史の歴史があって、見た通りの自然や身近な現実を美化・理想化することなく描いたものだけど、これは推察するに、15年か20年前の、あるいは今もある、ネイチャーフォトに近い。見た通りの美しい自然を美しく撮っている。だからネイチャーフォトって写実主義だと思うんです。
私はポートレイトも撮っていますが、「この女優さん綺麗だな」って見た通り美しく撮るのも写実主義。でもいま私が撮っているポートレイトは写実主義ではないのだと思います。
悪い言い方に聞こえるかもしれないけれど、女優さんを材料に使わせてもらって、人間の切なさだったり優美さだったり、違う感情を表現しようとしている。
そうなってくると、当時(19世紀前夜)写実主義に対抗して出てきた印象派かもしれない。
こういう自分のスタイルを覚えておくと、どんなものが撮りたいかが深まっていくし、レビュアーなどにも作風を伝えやすくなると思います。
ほかにも、バロックという様式は、「歪んだ真珠」という意味(が有力)らしいのですが、劇的な明暗表現などが特徴ですし、写真に置き換えてみると、たとえば人物の片方にライトを当てて、半分を明るく、半分を真っ黒にするようなポートレイトの撮り方ってあるじゃないですか。ハイコントラストの作品って、バロックなんですよ。
それに対して、もうちょっと美しく綺麗なグラデーションを出すのが古典主義。
だから「なんでこんなに強い照明を当てて撮っているの?」って聞かれた時に、「自分はバロックに影響を受けて、その系統を踏んでこの作品を仕上げていこうと思っているんです」って言ったら、なるほどねってなる。でも「好きだからやってます」って言われたら、それ以上は何も思わないんですよね。
フォービズムというのも、西洋美術史にはあったけれど、たとえば、マティス。マティスは鮮烈な色彩で絵を描くことで、新しい表現方法の道を開き、20世紀美術の流れを方向づけた画家のひとりですが、これは、いまの写真業界と似ているんですよ。
この時代、大体、絵ってほとんど同じで、マティスは何か革命的なことを起こしたいと思っていたと思う。それをマティスは色でやった。
写真を撮ってこれでいいのかなって、誰だって、心配になるじゃないですか。みなさんもそうだろうけど、僕も同じ。それを発表するって勇気がいる。
だけど、なにか自分がチャレンジしたいのであれば、やった方がいいんですよ。思い切ったことを。御苗場ってそういう場所なんです。アカデミックな完成された作品を見せるところではない。チャレンジする場所だと思うんです。
マネにしてもモネにしても、マティスにしてもピカソにしても、ずっと続いている絵画の歴史の中で革命を起こしたいと考えてやってきている。私も、御苗場ではそういう人たちを生み出したいと考えてやってきましたし、これからもそうです。
チャレンジし続ける人、そういう意気込みを持っている人に、御苗場に出してもらえたらとても嬉しい。そういう気持ちで作品を発表してもらえたらと思います。
「御苗場2018」
■開催日程:2018年3月1日(木)~4日(日)10:00~18:00(最終日のみ17:00まで)
■会場:大さん橋ホール(CP+2018 PHOTO HARBOUR内)
■入場料:WEB事前登録で無料(ご来場の方は必ず事前に登録をお願いします。出展者の方は不要です)
※障がいがある事を証明する手帳を持参の方、小学生以下の方は無料
2017年9月に開催された「関西御苗場2017」の受賞作品はこちら!
関西御苗場2017 受賞作品①
関西御苗場2017 受賞作品②
関西御苗場2017 受賞作品③
関西御苗場2017 受賞作品③