辻 凪彩INTERVIEW:T3 STUDENT PROJECTグランプリ展「LANDSCAPE」に向けて
写真を学べる13の美大・専門学校生75名による選抜ポートフォリオ展「T3 STUDENT PROJECT」で、4名の海外レビュアーによりグランプリに選ばれた辻 凪彩さん(東京藝術大学)。
東京・京橋にある72Galleryでの個展開催に向けた想いと、副賞として得たMicrosoft Surface Laptop Studioの感想をお聞きしました。
聞き手:速水惟広
インタビュー写真:千賀健史
supported by Microsoft Surface
辻さんは東京藝術大学の絵画科油画専攻ですが、どうして写真で作品を制作しようと思われたのですか。
藝大の絵画科というと絵を描いている人が多いイメージだと思うんですが、実際は美術をやりたい人がいる場所なので、絵を描いている人は半分くらいなんです。
その中で私は、美術において写真ができる隙間があると思って、写真を選びました。
元々は絵からスタートしていて、風景を描くのが好きだったんです。でも、風景を見てこの空気や光がいいと思っても、ただのモチーフになってしまい、絵でそれらを持ち帰ることができませんでした。
また、絵は真っ白なキャンバスに、私が全て造形を与えるものです。与えられた色彩や形体が、全部私の手によってできているので、作品に対して作者が神のような関係になっているのが嫌だと感じていました。
写真だと、私が持ち帰りたいものをそのまま捉えることもできるし、ちょっと嫌だな、邪魔だなと思った人を捉えてしまうこともある。絵と比較した時に、写真は画面と作者の関係が対等だと思いました。この場にいる1人として形をつくることができる写真が、いいなと思ったんです。
美術において写真ができる隙間というのは、具体的にはどんなところなんでしょうか。
例えば写真展に行くとしたら、みんな写真を見に行く意識だと思うんです。でも、美術館で写真が展示されていたら、どういう気持ちで行くのか。作品を美術として見るのか、写真として見るのか。
これは写真家や作家、美術家など各々が自分を語る時のこだわりに通ずるものがあると思うのですが、私はその中であくまで美術家としてメディアの写真を選びたいんです。
トーマス・ルフやヴォルフガング・ティルマンスは美術の中で写真表現をしていますが、私もそこを辿りたい。美術を見に来る人に、写真について考えて欲しいんです。そういう機会は意外とない気がしていて。
面白いですね。ではその流れで、ご自身の作品についてお聞きします。今回展示をする「LANDSCAPE」はどんな作品なのか教えてください。
私は風景が好きなんですが、なんで風景写真が好きなんだろうと改めて考えてみたんです。
風景とはなんなのか。風が吹き、木が揺らいでいる状況が写っている。それとも日が落ちてきて、影が長くなってきている状況なのか。あるいは植物が生えていて、生き物が暮らしていたり、鳥が飛ぶ。そういった場が写っていることが風景写真なのかと疑問が湧きました。
そういう被写体として風景が写っていること以外で、風景をイメージとしてつくる。その考えで、静物を組んだ風景のイメージを制作しました。
初めは、風景をイメージしてテーブルに静物をセッティングし静物写真として撮っていたんですが、だんだん撮り終わったものが置かれていたり、画鋲やマスキングテープがあったり、気づかないうちに置いているものたちが変化していったんです。
机の上に作為的ではない、ランダムな変化が起きて動いていく。それが風景的な運動に思えました。そうやって出来上がってきた机上に、カメラで寄って1個の場の中を切りとるようなトリミングをすると、1つの風景写真”みたいな”感じになる。
最初は風景をイメージした風景っぽくない静物を撮っていたのが、切りとりによって風景っぽい写真に見えてくる。出発点はイメージをつくるところだったんですが、だんだん視点によって風景的なイリュージョンが起きるんじゃないかと。
そういうものが徐々に見えてきて、自分の中ではトライアル的な作品になりました。
先ほど写真は、絵画に比べて余計なものが入ってきてしまうところが魅力としてあるとお話されていました。その中で、辻さんはある程度セットアップして撮っていますよね。セットアップした状態において、写真ならではの偶然性というのはどこに求めているのでしょうか。
私は元々ストレートフォトが好きなんです。ジョン・シャーカフスキーが紹介していたような人たち*が好きでスナップをやっていて、メイキングが嫌だった。特に合成は大嫌いで、でも嫌いだからやってみようと思ったんです。作り込むことが嫌なら、逆に作りたいものを作れるまでやってみるのもいいんじゃないかと。
また、ペインティングでは昔から静物画が好きで、その中でもジョルジョ・モランディが特に好きでした。それはどうしてだろうと考えた時に、意味がないということに気づいたんです。三角柱や円錐、瓶。瓶は何が入っていたとか、何に使われているなんてことは絵の中では意味を失ってしまっている。でも決して無言ではなく、何か語ってくる。そういう静物の静かな語りかけのトーンが好きで、写真でも静物はできるかもしれないと思いました。
画面の中でものの意味が変わるというところに惹かれて、それなら意味を私が作ることもできるんじゃないか。そして風景が好きなら、風景のイメージも作れるんじゃないかという風になっていった。
それでセットアップしてやっていたんですが、やっぱり動くんです。テープを貼った覚えがなかったり、知らずに物が置かれていたり、何かこぼしていたり。学校のアトリエでやっていたので、窓を開けていると何か飛んで行ったりもする。完全制御はできない。
モチーフ自体は完全に制御できなくて、撮影時に制御することもできると思うんですが、ただ目の前の状態を切りとることができるという、そこに写真の良さを感じるんです。
撮影でちょっとミスをしていて、もう1度同じ場面を撮りたいと思うのも正直何枚かありました。でも無理ですね。作れなかった。
*ニューヨーク近代美術館にて1962-91年までの30年間写真部門のキュレーターを務め、世界の写真をリードした存在。
**アルフレッド・スティーグリッツが推進した特殊な加工やトリミングを行わないストレートな撮影方法
確かに絵であればもう1回やろうと思ったら再現できてしまうことが、写真では出来ない。それは写真ならではの偶然性と言えますね。
普段作品を撮る時は、フィルムで撮られているんですか?
フィルムです。4×5(シノゴ)と呼ばれる大判カメラで撮影しています。撮ってスキャンしたデータをphotoshop上で手を入れています。
その手法にした理由はなんでしょうか。
私の中で大判カメラで撮るというのは大事なことです。大判カメラはアオリと呼ばれる操作によってパースをなくすことができる。それは、私の目ではできないことなんです。人が個人的に見たものとか、私が主観でこうだと言っている風景ではなく、ただ捉えてくれる。客観的にただそこにあったんだと証明してくれる機械ということで、大判カメラを選んでいます。
また、静物は大体ゼムクリップやミニチュアのフィギュアなど小さいものを撮っているんです。そういうものを大きく見せると意味が変わると思っていて、大きい写真としてアウトプットすることが大事だと考えています。そうすると、スキャニングして大判プリンターで出すのがマストになりました。
高い解像度のものが求められるし、ラージフォーマットだからこそのアオリなどを使って人間の目では見られない景色を捉えるということですね。
今回副賞として「Surface Laptop Studio」を授与されたと思いますが、実際に使ってみてどうでしたか?
最初スタジオモードにしてみて、この動作で壊れないんだというのがまず驚きでした。フィルムスキャンをした時にゴミ取りをするのですが、ぱかっと画面を開いてSurface スリム ペン 2で楽にできる。ゴミ取りは最も面倒くさい作業なので、それがペンでできるのはとても大きいです。ポインターもズレがなく、写真そのものに普通に触れている感じがして、ペンタブよりも使いやすいです。
大きなデータを扱う時に、今までと比べて負荷はどうでしたか?
大判フィルムを高解像度でスキャンすると1枚が2GBぐらいの大きなTIFFデータになるので、本当に頻繁にPCが落ちるんです。でもSurface Laptop Studioは、そのサイズのデータを扱ってもさくさく動いて編集ができて助かっています。スペックは十分だと思います。
また、Windowsでゲームができるというのも嬉しいポイントでした。今はApex Legendsを楽しんでいます。
元々古いマシーンを2、3台それぞれの用途に分けてはしごして利用していたのですが、PCとして普通に用いる時も、ペンの作業をする時も、ゲームをする時も1台で完結できるのが良かったです。もっと触れて自分用にカスタムしていきたいと思っています。
では最後に、今回の展示の見どころを教えてください。
写真作品の方では、1枚1枚の画像に対する撮影時のフレーミングという実験があったんですが、展示では空間の中でのフレーミングの実験をしたいなと考えています。
展示を考える時に、写真では額装についても考えますよね。それで額というフレーミングってなんなんだろうなと。分かりやすいところだと、壁から切り離して作品として見えやすくする役だと思うんですが、私の中でもう少し意味や面白さを見つけたいと思ったんです。
それでテストピースとして、小さいミニチュア作品を百均のフレームに入れて壁にかけた時に、窓の外の風景、カーテンの向こうの景色のようなものを連想させたんです。風景には、風や光といった要素以外に、「向こう側にある風景」なのか「ここに広がっている風景」なのかという「空間的要素」もついてくるものだなと感じました。
そういうここに広がっている、向こうに見える、あるいはこっちに迫ってきているなど、自分に対してどういう方向性の風景なのかということを展示で探ってみようと思っています。
辻 凪彩(つじなぎさ)
東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻 在籍中
受賞歴:
2019年 シェル美術賞入選
2022年 T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2022 Student Projectグランプリ
2023年 久米賞
クアッドコア プロセッサと驚異的なグラフィックス。最大リフレッシュレート120HzのPixelSense Flow™ 14.4インチ タッチ ディスプレイを搭載。Dolby Atmos® 搭載 Omnisonic™ スピーカーで、写真はもちろん、映像の編集、アニメーションのレンダリング、アプリケーションの作成、そしてスムーズなゲームプレイを楽々と行うことができる。
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