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写真集

飯沢耕太郎が選ぶ「時代に残る写真集」Vol.3 ベレニス・アボット編『ウジェーヌ・アジェの世界』

写真集


ベレニス・アボット編『ウジェーヌ・アジェの世界』
ed. Berenice Abbott: The World Of Atget, Horaizon Press, 1964

飯沢耕太郎 いいざわこうたろう
写真評論家。1954年宮城県生まれ。1977年日本大学芸術学部写真学科卒業。1984年筑波大学大学院芸術学研究科博士課程修了。主な著書に『写真美術館へようこそ』(講談社現代新書1996)、『デジグラフィ』(中央公論新社 2004)、『写真的思考』(河出ブックス 2009)、『深読み! 日本写真の超名作100』(パイインターナショナル 2012)などがある。

『TOP Collection
アジェのインスピレーション ひきつがれる精神』
東京都写真美術館

期間:2017年12月2日(土)~2018年1月28日(日)

船員から俳優を志し、その後、パリで写真家に

ジャン・ウジェーヌ・オーギュスト・アジェ(1857〜1927)は、1890年代からパリ市内とその周辺を撮影し始め、約8000枚のガラス乾板と1万枚以上のプリントを残した。あくまでも客観的な「芸術家のための資料」として制作されたそれらの写真は、死後になってようやく広く知られるようになり、都市写真の先駆として高く評価されている。

ウジェーヌ・アジェの前半生は謎に包まれている。南仏、ボルドー近郊のリブリヌに生まれ、船員などの仕事をした後に、俳優を志して地方回りの劇団の役者として過ごした。だが自分の才能に限界を感じ、役者を引退して、1890年頃からパリで写真家として活動するようになる。

毎日、旧式の大判カメラと三脚を担いで街を歩き回り、夜に自宅の暗室で現像・プリントをする。そうやって撮りためた写真は、画家、建築家、デザイナーなどに1枚1.5〜5フランで売りさばいたほか、アルバム仕立てにしてパリ歴史図書館やカルナヴァレ美術館などに納入していた。

材料費がようやくまかなえるくらいのぎりぎりの生活を続けていたアジェの仕事にスポットが当たるのは、最晩年になってからである。アジェと同じカンパーニュ・プレミエール街にアトリエを構えていたマン・レイは、購入した写真を『シュルレアリスト革命』誌に掲載した。彼はアジェの写真にシュルレアリスム的な「都市の無意識」が写り込んでいると考えたのだ。


さらに、当時マン・レイの助手だったアメリカの女性写真家、ベレニス・アボットは、アジェの自宅を訪ね、隣人から借りたオーバーコートを着用したポートレイトを撮影している。1927年8月にアジェの死去が伝えられると、アボットは写真が散逸するのを恐れ、遺族と交渉して1787枚の原板と約1万枚のプリントを購入した。そして帰国後、画商のジュリアン・レヴィと協力して個展を開催するなど、アジェの作品の紹介に努める。


本書『ウジェーヌ・アジェの世界』は、そのアボットが長年にわたるアジェ研究の成果をまとめて、戦後に刊行した写真集である。アボットは、アジェを「都市の歴史家、天性のロマンチスト、カメラのバルザック」と位置づけている。その見方はやや独断的だが、のちにアジェの代表作として知られる写真は、ほとんどその中に含まれており、まさに彼の写真家としてのイメージを決定づけた写真集といえるだろう。

飯沢耕太郎が選ぶ「時代に残る写真集」Vol.3
ベレニス・アボット編『ウジェーヌ・アジェの世界』
ed. Berenice Abbott: The World Of Atget, Horaizon Press, 1964

『TOP Collection
アジェのインスピレーション ひきつがれる精神』
東京都写真美術館

期間:2017年12月2日(土)~2018年1月28日(日)
休館日:毎週月曜日(ただし月曜日が祝日の場合は開館し、翌平日休館)、2017年12月29日(金)~2018年1月1日(月・祝)
※年始特別開館 2018年1月2日・3日は11:00~18:00開館 ※1月8日(月・祝)は開館し、翌9日(火)は休館


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