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「御苗場」夢の先プロジェクト グループ審査展レポート②

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御苗場でレビュアー賞を受賞したメンバーだけが参加できる「夢の先プロジェクト」。
特別講座の受講後、全員がニコンのカメラD750を使って半年間で作品を5点撮り下ろし、
グループ審査展を経てグランプリが決定しました。
今回は「夢の先プロジェクト」第11弾グランプリ・ニコン賞決定の審査会での
審査員のコメントの一部をご紹介します。

各メンバーの作品詳細はこちら

審査員:
テラウチマサト(写真家/「御苗場」プロデューサー)
速水惟広(「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」プロデューサー)
安藤菜穂子(「PHaT PHOTO」編集長)

ほりともみ title「食」

テラウチ 堀さんの作品は、実は深い作品だと僕は思っています。堀さんは、軽々とつくっているように見えるけど、本当はものすごく深く考えて撮っていると思う。それが堀さんの魅力。

まだ19歳だし、頑張ってほしいなと思います。実は先日、ニューヨークのICP(国際写真センター)を訪れてキュレーターの方に今回のレビュアー賞受賞者の作品を見せたところ、堀さんの作品がいちばん面白いと言っていました。「オリエンタルだ」と言ったんです。

写真という場を世界に広げていこうと思ったときに、オリエンタル(東洋らしさ)がここにあるとしたら、堀さんの特徴でもあるし、武器になる可能性がある。多くの人が楽しんでくれる写真を目指すだけでなく、一見そうかもしれないけど、じっと見て気づくことがあったり、そんな深い作品が撮れる人だと思います。

個性を伸ばしていってほしいというのは切に思います。また東京でも世界でも、写真をたくさん見てほしいです。

安藤 御苗場で受賞されたときは、実はあまりピンときていませんでした。でも今回、この作品が出てきたときに、堀さんが持っているセンスがはじめて理解でき、本物なんだと思いました。

軽やかな作品ですが、なかなかこれは撮れないと思います。このセンスはみんなが持っているものじゃないと思うので、それを今後の作品や、仕事にも生かしてもらったら、いちばん新しいことができるのではないかと思いました。

速水 ミヒャエル・シュミットという写真家の作品を見てほしいなと思いました。堀さんの作品とはまた違いますが、僕が堀さんの作品で深さを感じたのは、いわゆる飽食という、国内で食べ物に困ってない人が多い時代に、すごくシニカルに笑いをとっているところです。

おそらくこの作品はアフリカの人たちからすると許せないでしょう。食べ物を無駄にしているところを「笑い」にしながらも、でも「笑えない」っていうのを風刺として見せていけると、全く違うレベルのものになると思う。

それを堀さんがやりたいかどうかは分かりませんが。ビジュアルインパクトはすごく大事だけど、それだけになってしまうともったいない気がしています。

広告ではなく作品にしていくんだったら、その先に社会的な批評だったり、何かがあったほうがいいと思う。そのあたりが意識的になってくると、全体のトーンが変わってくるかもしれないので、面白くなるのではないかと思いました。

大田綾花 title「ロスト・バージン」

テラウチ 今回のメンバーの中でいちばんパワフルでした。いつもすごい被写体を見つけてくるなと思い、僕は大田さんを推しました。もしかしたら最後まで攻め切れてなかったのかもしれませんが、最も写真表現を使って自分がやりたかったことを表現していたのは大田さんだと思いました。

そして写真に真摯であること、その姿勢がすごく伝わってきたし、ぜひ大化けしてほしいなと思います。まだ途上だと思います。彼女の生きざまに、あるいは大田さん自身の生きざまにパワーを感じられたところが、すごく良かったなと思います。

安藤 大田さんからは、写真家としての覚悟がいちばん伝わってきました。これからどうなっていくのかがすごく楽しみな写真家です。

写真家としての嗅覚というか、感覚は人一倍優れていると思うので、自信を持って、この先も作品をつくり続けていってほしいなと思います。

速水 大田さんの作品は3年ほど前から見ているのですが、確実に進化しています。自分にしか撮れないものを追いかけていますよね。

今回撮影しているのは、色々な課題を抱えている女性ということでしたが、被写体に向き合いながらポートレイト作品にしていった。

演出とドキュメンタリーの間に作品のポイントを置いていると思うんですが、もうちょっとドキュメンタリー寄りにしてもいいかなと思うところがありました。そのあたりが、さらに深まると大田さんの新しいスタイルになるような気がします。

ドキュメンタリー的な要素をきちんともたせつつ、そこに技術や演出を当てはめることで、世界観をつくっていけるのではないかと非常に期待しています。勢いでいうと、今回いちばん強かった作品でした。

清水貴子 title「ふすまの松」

テラウチ 2年前の御苗場から注目をしていた人なので、どう変わっていくのか楽しみにしていました。本作もすごくアート性が高く、斬新だし、いいなと思いました。

ただ、ご本人のイメージとしての庭を描く中で、これら5枚が1つの作品となって見えるような世界観にできれば、もっと良くなったと思います。もっともっと見たいです、すごく期待しています。

安藤 私が最初に推したのは清水さんでした。合成を使った作品は限度が難しい部分もあると思いますが、この5枚の作品はその絶妙なラインで成り立っていると思います。

また、ブックが素晴らしかったです。ブックの中ではご自身の昔の家族アルバムの写真もうまく構成されていました。

展示作品のような、子供時代の思い出や空想の世界を合成技術で可能にしたものと、リアルな過去のアルバムと合わせて表現するというその世界観が斬新で、もうちょっと展示でもその個人的なリアルの部分が見られたら良かったんじゃないかなと思いました。

速水 清水さんの記憶の風景は、白い壁のギャラリーに展示するには少し難しい作品だなと感じました。その世界観を表現するにはブックがいいかもしれないですし、もっとインスタレーション的な作品として、体感してもらえた方がいいと思います。

記憶の風景は目に見えないものなので、それをどうビジュアル化していくかということを考えていった時に、ものすごくポテンシャルがあると思うので、今後期待しています。

Minako Endo title「私たちの間にある旋律は」

テラウチ 気持ちが伝わるものでした。遠藤さんのお母さんが亡くなられたのは2009年。うまく言葉にできませんが、身近な人をなくすというのは、誰にでも経験する特別なこと。でも世の中では誰にもあることで、そこを自分の作品としてつくり上げたいいテーマだと思いました。

これからお母さんの記憶が薄れていく中で、どう撮っていくのか、これからも作品を見たいなと思います。

安藤 母親を亡くしたという個人的な話を、「弟」だけでなく、家族が暮らしていた福島の風景だったり、日々影響を受けているものだったりと、その先へ広げていこうとしているところがいいなと思いました。

ブックには弟さんではない被写体も入っていて、もっと作品が深まっていきそうで楽しみです。

速水 コンセプトとしての完成度は今回の作家の中で遠藤さんがいちばん高いと思いました。個人と物語の関係性もあるし、そこに「生と死」という重要なテーマがあって、哲学的な要素も入っています。

さらに、アートを基盤とする作品が持っていなければならない社会と自身の関係も内包されているので、とても強い作品だと思いました。

弟さんがいない写真にも世界観が出てくると思うので、ビジュアルとしてのインパクトをもう少し出せたら、さらに可能性のある作品になるのではないかと思いました。

GRAND PRIX箱入り息子 title「~箱入り娘といっしょ編~」

テラウチ 今回、5枚の写真で全メンバーを評価した時に、どの作品も素晴らしく、接戦で決めきれなかったんです。その中で、箱入り息子さんがいままでの御苗場でも出されてきた歴史も踏まえて、今回評価されました。

文章と共に作者がやってきたことが気になったし、いつか写真集にしてみたいなと思わせる題材でした。

今回の新しい作品5点は、箱入り息子さんに彼女ができて、幸せになってからの5枚なので、若干いままでとは路線がずれていたのですが、感情が揺さぶられる写真で素晴らしい作品だったと思います。

安藤 箱入り息子さんは作品として確立した強い魅力があります。最後にはその一言なのかなと思いました。「箱入り息子」というブランドをつくり上げて、うまくプレゼンテーションできたというところが、最終的なグランプリの決め手でした。

これから先この作品がどうなっていくか、というのが課題だと思うので、グランプリに選ばれたことを自信に持って、これから発展していく姿を見ていきたいなと思います。

速水 でも賞を取ったから言わせてもらいますが、展示がいちばん残念だったのは箱入りさんでした。やっぱり、勿体ないというのがすごくあります。他のメンバーの方が展示としては完成していました。

でも賞を取った理由は、さっきほかの審査員も言ったように、積み重ねてきたもの、実力が評価されたとは思っていいと思います。そこはすごく自信を持ってもらっていい。これから作家としてどう作品を見せていくかという部分は、もう少し伸びしろがあるのではないかと思いました。

第11弾グランプリ・ニコン賞に選ばれたのは…
箱入り息子 title「箱入り息子~箱入り娘といっしょ編~」

各メンバーの作品解説を読む!
「御苗場」夢の先プロジェクト グループ写真審査展レポート①

 

御苗場2018開催!

御苗場2018
日程:2018年3月1日(木)~4日(日)
会場:大さん橋ホール(CP+ PHOTO HARBOUR内)

■先行募集開始:2017年11月15日(水)正午 ※
■一般募集開始:2017年11月25日(土)正午
※先行募集は、これまで御苗場に3回以上出展された経験のある方がお申込みいただけます。
お申込み受付は、WEBサイトにて行います。


STORY TELLER / 写真家達の物語 vol.37

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