写真家を志す人へ テラウチマサトの写真の教科書 第6回 写真上達の順番
写真の学校を卒業したわけでもない、著名な写真家の弟子でもなかったテラウチマサトが、
約30年間も写真家として広告や雑誌、また作品発表をして、国内外で活動できているわけとは?
失敗から身に付けたサバイバル術や、これからのフォトグラファーに必要なこと、
日々の中で大切にしていることなど、アシスタントに伝えたい内容を、月2回の特別エッセイでお届けします。
「写真が上手くなるにはどうしたらいいですか?」という質問は誰もが訊いてみたい質問だろうし、実際、質問されることも多い。その答えは、それぞれいろいろな答えがあるだろうけれど、私が勧めるのは“たくさん観ること”である。上手くなるためには“たくさん撮る!”ではなく“たくさん観る”である。
“たくさん観る”とはどういうことだろう。世界にはいろいろな国があるように、写真にもいろいろなタイプの写真がある。
世界を旅して人々の暮らしや街並み、考え方を知ることで、自分自身の生活や生き方に気付くことがあるように、いろんな種類の写真を観て多様な写真の価値を知り、自分の好きな写真、やってみたい写真の方向が見えてくるのだ。
好きな写真、気になった写真を頭の中にインプリントすることは、自分が被写体に向かってカメラを向ける際の撮影ヒントにもなるだろう。「こんな構図で撮っていたな」とか「ピントの当て方、背景のぼかし方はこのくらいだったはず」とか思い出して撮ることで被写体をさらによく観ることになるし、新たに気付くことも生まれて写真が自分流のものに変化していく。
その時、大事なことは“見ること”ではなく“観ること”だ。“見る”と“観る”の違いを意識してほしい。
見学の見と観察の観の違い。それはどこにあるのだろう?
剣豪宮本武蔵は指南書で「観の目強く、見の目弱く」と説いている。「観るべし、見るべからず」とも。切ってくるつもりなのか、脅かしなのか、上辺だけを見るのではなく深く洞察しなさいということだろう。
空海には「目撃せよ」という言葉もある。目で撃つがごとく観なさいということだ。
アララギ派の歌人斎藤茂吉氏の歌を詠む際の支柱は「実相観入」というものだ。真実の様を観入りなさいということ。
それぞれの達人が“観る”ことの大切さ、重要さを訴えているように、写真が上手になるためにはこれまで撮られた多様な写真をしっかりと観て写真について知ることと“観る”を深め自分の世界に導く練習である。もう少し詳しく述べたい。
“観る”とは、その写真の魅力を言葉に置き換えることだ。
好きな写真を見つけたらどこに魅かれたのかをできるだけ細かく具体的に言葉に置き換えること。それが“観る”という行為を深くする。
たとえば、私の最新写真集「NY 夢の距離」の表紙写真について言葉に置き換えると、カメラ近くを2人の男女が真っすぐどこか1点を見つめながら通り過ぎていく瞬間をモノクロームでシルエット的(顔は薄く見えている)に捉え、左にポーズをとったように立つ2人の男のシルエットを小さく対照的に入れている。写真上辺には葉を落とした細かな枝が写されている。
つまり、この写真の特徴は、モノクロであること・2人の大きな人物と小さな人物の対比とポーズのバランス・上辺を覆う小枝、となる。
このように言葉に置き換えておくと、それが写真撮影のメソッドのようなものになり、自分が撮影する際の上手に撮るヒントへと導かれる。実際に撮影する際も“観る”ということが癖づくと、例えば今の美しい紅葉の季節に、紅葉それ自体を眺めながら美しく見える理由を考えるようになるだろう。
赤や黄色や黄緑色のとりどりの色の葉を眺めながら、秋を感じさせているのは紅葉だけでなく背景に映る澄んだ秋の空なのだとか、風にひらひらと揺れる葉が秋の装いをさらに美しくしているのだとか、その風景の魅力を言葉に置き換えられることで美しさを捉えるためのポイントを知ることになる。
写真を撮るということは、「観る、感じる、考える、シャッターを押す」という行為。
最初にあるのは“観る”こと。観たことで感じたことを写真技術という表現で、第三者に伝えること。それが写真を撮るということだ。
テラウチマサト
写真家。1954 年富山県生まれ。出版社を経て1991 年に独立。これまで6,000人以上のポートレイトを撮影。ライフワークとして屋久島やタヒチ、ハワイなど南の島の撮影をする一方で、近年は独自の写真による映像表現と企業や商品、及び地方自治体の魅力を伝えるブランドプロデューサーとしても活動中。2012年パリ・ユネスコにて富士山作品を展示。主な写真集に、「ユネスコ イルドアクトギャラリー」でも展示した富士山をとらえた『F 見上げればいつも』や、NY でのスナップ写真をまとめた『NY 夢の距離』(いずれもT.I.P BOOKS)がある。www.terauchi.com
第1回 気が付いたら写真家になっていた
第2回 私の修業時代
第3回 本当なら、僕は選ばれなかった?
第4回 機材編:写真の出来栄えはレンズで変わる?
第5回 100回のフォトコンテスト審査を経て気付いた審査の傾向
第6回 写真上達の順番
第7回 11月20日(月)更新予定
テラウチマサト写真集『NY 夢の距離』
テラウチマサトが約30年、通い続けているNYのスナップ写真をまとめた写真集です。
ランナーでもあるテラウチが、NYを走りながら出会った人との不思議なエッセイや、
撮影地マップ&ガイドもついています。
「自分の足でNYをくまなく走り、歩いて撮影したから、
この道の先がどこにどうつながるのか、どこに何があるのか、配送センターの人のように分かる。
1本の道を隔てたとたん雰囲気がガラリと変わる面白さも知っている。
NYで使用したカメラは、一眼レフからコンパクト、
ときにレンズと本体が分離できるカメラも使った。
変わったカメラや大きなカメラを持って撮っているとよく声をかけられた。フレンドリーな人も多かった。
刺激と親しみを感じる街NYにこれからも通い続けるのだろう」(あとがきより)
■テラウチマサト写真集「NY 夢の距離」(T.I.P BOOKS)
■定価:税込3,800円 ※税抜3,519円(+税)
■ページ数:90ページ
■仕様:上製本/ヨコ210×タテ260ミリ(A4サイズ)/角背
■発売日:2017年4月7日(金)
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