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EXPOSURES 海外写真家たちのプロジェクト アリス・ショウ


今回紹介するのは、サンフランシスコ在住のアーティスト アリス・ショウ。
ドローイングやインスタレーションなど写真の枠にとどまらない表現で発信されるプロジェクトの数々を紹介する。
text:兼子裕代(写真家)

People Who Look Like Me(1998-2006)

写真は鏡か窓のどちらか――
セルフポートレイト・シリーズ(People who look like me

サンフランシスコ在住のアーティスト、アリス・ショウとは、時期は異なるが、同じ大学院(サンフランシスコ・アート.インスティチュート)出身という縁で、13年ほど前に知り合った。

「前歯の真ん中に隙間が空いているでしょう?」と自分が写っている写真を見せながら、口を開けてすきっ歯を見せてくれたのが印象的で、その気取りの無さは、いわゆる“芸術写真”とはかけ離れた、スナップショットのようなセルフポートレイトの作品と、そのまま重なった。

People who look like me (1998-2006)』は、アリスと他の誰かのツーショットで構成されたセルフポートレイト・シリーズで、一見ただの記念写真のようであるけれど、よく見ると服や髪型が似ていたり、メガネが同じだったり、それこそ同じすきっ歯だったりと、ツーショットの相手は性別(動物も!)も年齢もまちまちだが、どこかに共通点のある人たちが並んで写っている。

People Who Look Like Me(1998-2006)

「ジョン・シャカウスキー(※)が『写真は鏡か窓のどちらかである』と言っていますが、私は間違いなく鏡タイプの写真家で、そうだとしたら、 私自身を反映している被写体を私が一方的に撮影するのではなく、私と私を反映しているものを一緒に撮影してみたらどうかと考えたのです」

つまりアリスはこの作品で、カメラの裏から表に出て、撮影者と被写体という対立関係を同列関係にして見せているのである。
※John Szarkowski, 1925-2007。1962年から1991年までニューヨークMoMAの写真部門のディレクターを務める。


People Who Look Like Me(1998-2006)

「似た2人が並んでいるというスタイルは双子というアイディアから発生しています。17歳の時に双子の妹ができて、当時写真を始めたばかりの私は、彼女たちを沢山撮ったのだけれど、その中の1枚がダイアン・アーバスの有名な双子写真にそっくりだったの。うちは両親ともアーティストだったので、家にはたくさんのアート本があるのだけれど、ダイアン・アーバスの写真集も本棚に立てかけてあって、毎日のようにあの双子を眺めているうちに、ダイアン・アーバスの写真はそこに写っている人というより写真家そのものなんだと思い至ったのよ」

このように、アリスの初期作品には、他者と自分の相違と共通をテーマにした作品が多く、アイデンティティの問題が重層的に貫かれている。

逃れられない「不思議の国のアリス」

Alice Revisited (2004)』 は「自分の名前は 『不思議の国のアリス』(ルイス・キャロル)から逃れられることができない」と幼少時に思い込んだことから、「不思議の国のアリス」のイラストと自分の子供時代の写真をトレースし、1枚に組み合わせたドローイング作品である。

現実では自分が「不思議の国のアリス」という絵本を見ていたはずなのに、絵本のアリスに自分を覗き見させ、それをバットで振り払おうとするなど、虚実と愛憎が混ぜ合わさった極めてパーソナルな「不思議の国のアリス」が展開されている。

Alice Revisited(2004)

また、「自分の中に女性より男性の要素を強く感じる」が、「体が小さくて肌が白い」ので、 「元は男性だけれども女性性が強く」、「体が大きくて肌の色が濃い」、自分とは正反対のモデルと全く同じ設定で撮影して立体写真に加工した、

Opposite(2009)』など、常に自分と他者を並列させて見せることで、自らを客体化し、他者を主体化し、結果的にその2つを同列に結びつけることに成功している。

Opposite(2009)

セルフポートレイトから風景への変化――
写真の域を超えたインスタレーション

2010年を過ぎて、アリスの作品はセルフポートレイトから風景へと大きく変化した。

「ある時、誰かがこんなことを書いていたのです。『男性の写真家は風景を撮る。女性写真家は自然を撮る』と。その上でイモージェン・カニングハムやアンセル・アダムス、さらにサリー・ガル(※)などの作品を見直してみると、確かに男性は引きで風景全体をとらえた写真が多く、女性の方が被写体に寄って自然の細部をとらえたものが多い。私の中には男女両性が存在しているし、私だったらどうやってアプローチするだろうかと興味を持ったのです。また、風景撮影に苦手意識があったので、だったら挑戦してみようと思い立ったのよ」

あくまでも、相反するものへの逆転の発想が機動力になっているようである。
※Sally Gall:1956年ワシントンDC出身、ニューヨーク在住の写真家。独特の官能性で自然を描く作風で知られる。

Landscape Update (2011-2012)』は彼女が手がけた初めての風景シリーズだが、すでに写真の域を超え、写真も含めた混合素材によるオブジェで構成されたインスタレーションへと進化する。それらは写真史上面々と制作されてきた、「風景らしく捏造された風景」 の開示、解体、救出とも言える作品群となっている。

Landscape Update(2011-2012)より、Placemat(左)、Timber(右)

背後に広がる風景を遮る松の幹の白黒写真、よくみるとその真ん中にローズピンク色のガムがくっついている『Gum Print』、カーテンとカーテン越しに見る広大な自然を1枚のスクリーンに閉じ込めた『Curtain Call』など、そのからくりに気づいた瞬間、風景を見るという習慣に埋め込まれた視覚の澱にすっと切れ目が入る。

Landscape Update(2011-2012) より、Gum Print(1枚目)、Curtain Call(2枚目)

ユーモアとアイロニー、軽さと痛みが同居する彼女の作風には常にハッとした驚きが隠されている。キャンバスを水に浸してできたシミを地平線に見立て、裏に取り付けたワイヤーを山並みに見立てて作った『Back Forty(未耕地)』は「母が絵描きなのですが、とにかく内向的な人で、描いた絵は全て裏返され壁に立てかけられていて、表は見ちゃダメと言われていたから、私は子供の時ずっとキャンバスの裏ばかり見て育った」という経験からできたという。
Landscape Update (2011-2012) より、Back Forty

「アイロニーについてよく考えるのです。なぜなら、アイロニーってもともとは、物事が予想とは逆の展開になってしまったことを指しているの。つまり、そこには驚きが伴うはずなのだけれども、いまはアイロニーの意味が取り違えられてしまって、驚きとは全く逆に、『ああ、そうなると思ったよ』みたいな、シニカルに近いものに変わってしまった」

作品制作には「元ネタ」が必要――
アリス・ショウにとって写真とは

アリスの風景プロジェクトは昨今のサンフランシスコ・ベイエリアやカリフォルニアの経済事情に伴いさらに進化を遂げている。

「『Landscape Update』の中で、ゴールドラッシュ時代に金を採掘していたという泥沼の写真をとって、金箔を貼り付ける作品をつくったのですが、それを見たサンフランシスコ国際空港のキュレーターが興味を持ってくれて、それを空港用にきれいにつくったヴァージョンが『Golden Landscape(2013-2014)』です」
透明感あふれる白黒風景写真とマット感の強い金箔という相反する素材が、美しくも奇妙な迫力を放っている。

Golden Landscape(2013-2014)シリーズ(左)、サンフランシスコ国際空港での展示の様子(右)

90年代のドットコム・バブル(※)から始まった現代のゴールドラッシュを重ね合わせて、カリフォルニア全土に広がる虚飾と金満をテーマにした、『Golden State(2014-2015)』。ダイアナロスのカーリーヘアにプラチナレコードをかたどった金箔を重ねて彼女を聖人に仕立て、1ドル札に金箔を加えてInfration(インフレ)と名付け、銀色にペイントされた家の写真をあたかもつくり物のイメージのように滑り込ませる。驚くべきことに、1ドル札に描かれたピラミッドの目(全知全能の神を表すプロビデンスの目と呼ばれ、その意味は建国にまつわる様々な逸話があるらしい)を写した大型キルトは彼女自身がつくったという。
※1900年代後半から2000年代初めにアメリカで起こった、インターネット関連のベンチャー企業によるバブルのこと


Golden State(2014-2015)より、Platinum(Diana Ross)(1枚目)、Inflation(2枚目)、Castle(3枚目)、Comforter(4枚目)

「ずっと昔、あるお店ですごく綺麗なキルトを見つけたのだけれど、何千ドルもしてたの。だったら自分でつくろうと思って、パターンを盗んでつくり始めたのがきっかけでキルトにハマったのよ。その時、だから、私は写真をやっているんだと気づいたの。なぜなら、私にとって世界はパターンで溢れていて、写真はそのパターンを記録する手段だから。私は創造的ではあるけれど、想像力には欠けるところがあって、私が何かをつくるときは元ネタが必要なの。写真がその元ネタを私にもたらしてくれているのよ」

彼女にとって写真は自己表現の手段ではなく、世界を見るための、あるいは彼女が見た世界を独自の手法で逆転させて、他人と共有するための媒介なのだろう。

以前、彼女はあるインタビューで、世界の新しい見方を提示したという意味で、心理学の発見と写真の発見が同時に起こったのは偶然ではないと言っているが、今回のインタビュー最後に写真にまつわる興味深い考察を語ってくれた。

「最近のフェイクニュース問題は写真が最初に世の中に現れたときと似ていると思うの。写真ができた時、人々は写真をどう見て、どう解釈したらいいかわからなかった。それで写真は現実をそのまま写していると言って、その信憑性を利用する人たちがいたけど、実際にはそうではないし、フェイクニュースも同じで、いま、人々はSNSの大海に紛れて本物と嘘の区別ができなくなっているのだと思う」

アナログとデジタル、2Dと3Dを駆使し、見る人の視覚と思考を煙に巻きながらも、ユーモアとアイロニーで微笑みかけるような作品をつくり続けるアリス・ショウ。2018年3月には3年ぶりとなる個展が控えている。

Alice Shaw アリス・ショウ
1965年カリフォルニア生まれ、1999年サンフランシスコ・アート・インスティチュート大学院卒業。サンフランシスコを拠点に活動する。その作品はサンフランシスコ現代美術館、ディローザ財団(ナパ、カリフォルニア)に所蔵される。写真集にPeople Who Look Like Me(2006)がある。教育者としての活動も活発で、UC デイヴィス、UCバークレーにて教鞭を執ったのち、現在はサンフランシスコ・アート・インスティチュート、カリフォルニア・カレッジ・オブ・アート、ミルズ・カレッジなどで講師を務めている。www.aliceshawphoto.com


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