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内藤由樹の海外武者修行ログ vol.17 居候先のじいちゃんがポートフォリオの編集を手伝ってくれた話

Magazine, レポート


2012年関西で行われた日本最大級の写真イベント「御苗場」でレビュアー賞を受賞した注目若手作家・内藤由樹。
世界各地を巡り、現在ペルーにある「Centro de la imagen」のマスタークラス在籍中。
http://yuki-naito.tumblr.com

引き続き、ジャングルの村の話をしましょう。
前回は、動物の話をしたので今回は人間の話を。

私が居候していた家族は、母、祖父、妹(もはや自分を家族の一員とした呼び方である)、
そして動物たち、という構成。
といっても、小さな村なので、というか、じいちゃんのじいちゃんの世代に
何もなかったそこに何人かが移り住んできて村をつくりその中で発展してきたので、
もはやみんながみんな親戚のようです。
家によく人が来て、ある日わたしが使わせてもらっているベッドが盛り上がっていたので
不振に思いめくってみると、知らない子どもがかくれんぼしていました。
びっくりしてでかい声を出してしまったら、泣かれた。
おもしろい人がたくさん居たのですが、きりがないので一緒に住んでいた家族をご紹介しましょう。

妹は生意気盛りの中学生女子で、夜の森の静けさを突然大音量のディスコミュージックでぶち壊して、
犬の大合唱を引き起こしていました。
Facebookも使いこなし(村にはネットはないけれどたまに町のネットカフェへ親に内緒でこっそり行っているのを、家に宿題しにきていた他の女子たちとの会話を盗み聞いていたので知っている。わたしが何もわからないと油断しすぎて、クラスの好きな男子の話とかもしていた)、ヘアーセットに30分かけてバスルームを占領し、そのせいで学校に遅刻するようなやつでした。

私に、あんた何でグアテマラに居るの?何でスペイン語勉強してんの?と突っ込んでくる。
ペルーの写真の学校でマスタークラスを受けるためだよ。と言うと、
は?まともに日常会話もできないくせにマスタークラスとかマジで言ってんの、ウケるんだけどー
と(正確に理解できなかったけど、悪意のあるニュアンスだけはとても伝わった)激しくバカにして、
母に怒られたことでわたしに逆ギレするようなやつです。
でも、仲悪かったわけではない、と、思う。
その家を去る時に拗ねていたのが可愛かった。
Facebook申請するね。という台詞が、現代だなあと思ったけど、申請は、きていないです。

母は、よく居るジャングルの母、ドカンとした母でした。
鶏を絞める時に、片手で首の関節を外す、という技を見せてくれました。
あと、森の中を高速で駆け回る蟹を、粗末な造りのトングでつまむという技もあります。
1日中トルティーヤを焼いていました。中米に行ったことのある人はピンと来ると思うのですが、
トルティーヤを平たく叩く、無限音パンパンパンパン・・・がずっと聞こえていました。
わたしも習ったのですが、うまく均一の厚みにできず、へたくそ。これだから先進国の娘は。と罵られました。
じいちゃんに隠れて内緒でこっそりビールを呑んでいました。(母娘だなあ)
口封じのために私にもビールを与えてくれた。

そしてじいちゃん。
じいちゃんが一番仲が良かったです。
じいちゃん暇だし、わたしも暇なので、よく一緒にココナツの皮を剥いていました。
たくさん話をしました。じいちゃん耳遠いしわたしもスペイン語あまり理解できていなかったけど、
けっこう会話になっていた。
おじいちゃんっ子だったのにもう亡くなってしまったから、グランドファザコンなのかもしれない。
反抗期の孫(妹)に無下にされているの見て、私が孫だったらもっと大切にするのに…とか考えて、
彼女がいる人を好きになってしまったらこんなこと思うのかしら。と思いました。

ある日、漁に使う手漕ぎのボートでマングローブツアーに連れて行ってくれました。
そこがもう、とても美しかった。
以前来た時にも、ホステルのマングローブツアーに参加したのですが、今回はじいちゃんの秘密の道を。
特別でした。誰もいない。
村に滞在中に、マスタークラスの奨学金申請のための提出書類をつくっていて完成しかけていたのですが、
その日マングローブで良い写真が撮れたので
今日の写真ポートフォリオに組み込むわ!
と言うと、
おう!いれろいれろ!
と、何故かとても張り切って、老眼鏡かけて一緒に選んでた。
ずっと隣で見てて、デザインをしている時にも、
この組より、これとこれの方がよくない?
と積極的に意見してきました。

なかなか良い意見もあったので、数カ所じいちゃんの意見が反映されています。
一緒に見たマングローブの写真を、綺麗だ綺麗だと褒めてくれて、きっとこの写真については
このじいちゃんに褒められるのが一番嬉しいだろう。と思いました。
どこかの写真を、そこを知らない人にも見て欲しいと思って撮るけど、
そこに居る人、それを既に知っている人に褒められるのは違った喜びがあります。

パソコンに数時間一緒に向かい合っていたので
次の日じいちゃんは目が疲れたと、ココナツの皮を剥くのをしませんでした。

内藤由樹 / ないとうゆき
1987 年大阪府生まれ。2013年 キヤノン写真新世紀 佐内正史選・佳作/第2回御苗場夢の先プロジェクトグランプリ/キヤノンフォトグラファーズセッション ファイナリスト/2012 年 御苗場vol.11 関西 レビュアー賞/写真集に「being」(2013年・TIP BOOKS)がある。

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