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フォトまち便り「Hello Local」vol.36 下田写真部~父は「楽園」と言った~


紀南、富山、郡山、下田の4つの地域写真部が綴っていく連載企画「フォトまち便りHello Local」。今回は下田写真部の鈴木さんによるエッセイです。大学進学をきっかけに一度下田を離れ、昨年Uターンした鈴木さん。一度離れてみて気づいたという下田の魅力は、かつて父から聞いた言葉につながるものでした。「戻ってきてよかった。」そうおっしゃっていた鈴木さんの、今の気持ちを綴ってもらいました。


父は「楽園」と言った 

祖父母たちがなぜ下田に移り住むことを決めたのか。私は以前、父に聞いたことがありました。

実は決めたのは父、ここが「楽園だと思った」のだそうです。

あの日から、この「楽園」という言葉がずっと頭の中に刻まれています。

私が物心がついた頃、父と叔父たちが下田に家を建て、そこに祖父母が移住をしてからは、夏とお正月は毎年祖父母のもとに遊びに行っていました。夏は海水浴、冬は親戚一同で新年のお祝いをした楽しい思い出があります。

下田に移住してからのこと

小学6年生になった時、私達家族も下田へ移住しました。生まれ育ったところは田畑が少しあるものの、いわゆるベッドタウンといわれるような場所でした。それが突然、自然豊かなこの環境。今でも強烈に記憶に残っている出来事があります。

たしか場所は爪木崎、遠足だったと思うのですが・・・。ランチに磯でお味噌汁を作るイベントがありました。女の子たちが野菜を切って準備をしている間、男の子たちは泳ぎに行ったのかなと思っていると、カニや貝類を持って男の子たちは戻ってきました。もちろんお味噌汁の具にするためです。

校庭や空き地でしか遊んだことがない私にとっては本当に驚きでしたが、小さい頃から海で遊んでいる彼らにとっては、カニや貝を獲るなんて遊びの延長、日常茶飯事のことだったのだと思います。

遠足で行った爪木崎の海

それから数ヶ月も経たないうちに、友達と海で遊ぶようになりました。あさりや巻貝を獲って、持ち帰ってはお味噌汁にいれてもらって食べました。いつだったか舌平目を獲りに連れて行ってもらったこともあります。舌平目は浅瀬の砂の中に隠れていて、見つけたらモリで捕まえるのですが…。私にはどこにいるのか…同じ砂地にしか見えず…。ビビって歩いていると踏んでしまって、足の裏をくすぐられ悲鳴を上げ逃げ回っていました。

透明度が高くて遠浅な浜(爪木崎)

ところが高校生になってからは、ほとんど海に遊びに行かなくなりました。この頃から写真に興味を持ち、父の一眼レフを借りて撮り歩いていました。高校では写真部に所属していたので、撮影した後にフィルムを現像し印画紙に焼き付けて写真にしていたのですが、この作業がとても楽しかったです。

一度離れて気づいた下田の魅力

高校卒業後は、東京の大学へ進学。大学卒業後は、システムエンジニアとして働いていました。長時間ビルの中に閉じ込められ仕事をしていると、自然が恋しくなるようで、まとまった休みがあると海外のビーチリゾートに出かけたこともありました。しかし、不思議なことに、「美しい海」とは思うものの、感動するほど美しかった海はというと、1箇所かもしれません。海外の有名なビーチリゾートに行って初めて、下田の海の美しさ、透明度の高さを認識しました。そして自分の中での美しい海の基準が下田の海だったことに気が付きました。

行きは良いけど帰りが大変。(九十浜)

昔はプライベートビーチのようだった九十浜

東日本大震災後、下田にUターン。子供の頃とは違って車で移動ができるので、今まで行ったことがない場所や知らなかった、場所に行くことができるようになり、行動範囲が広がりました。実は近所のビーチにしか行ったことがなかったのです。

下田市内にはビーチが9箇所もあります。ちょっとでも時間ができると行ったことがなかったビーチに出かけるようになりました。サーフィンをする人たちの行くビーチは車から降りるとすぐに浜に出られることを知ったので、晴れた気持ちのいい朝はパンとコーヒーを買って海沿いのベンチで朝ごはんを食べたり、お弁当を作ってランチをしに行ったり。もちろん写真を撮りに行ったり。どの浜も美しくそれぞれ魅力的なビーチばかりです。

朝活ビーチめぐり(多々戸浜)

パンとコーヒーを買って朝ごはん(多々戸浜)

休日にサーフィンをしている同僚たちから、夏は仕事が終わってからサンセットサーフィンを楽しんでいるという話をきき、私もマリンスポーツをしてみたいと思うように。同僚に誘われてはじめたSUPは海の上をスイスイ進んでいけます。泳いで行くのが怖いくらいの深さのところまで行くとさらに海の透明度が高くなり、宙に浮いているような感覚になって目がくらんで落ちてしまうことも。でも、楽しいし気持ちいい。

穏やかな鍋田湾でSUP

満員電車で通勤し、ビルの中で一日中仕事をして、家に帰る。
その繰り返しだった都会での生活からは想像もできない暮らしがここにはあります。

コロナ禍でテレワークが普及してからは、平日はフルリモートでシステム開発をして、週末はビーチリゾートを満喫できる贅沢な生活を楽しんでいます。そしてデスクワークで凝った体を癒してくれる温泉もあります。

もしかすると、いつの間にか下田は私にとっても「楽園」になっていたのかもしれません。

 

 


鈴木 敦子(すずき あつこ)

神奈川生まれ。小学校6年生から高校まで下田で過ごす。
大学卒業後、東京・横浜でシステムエンジニアとして働く。
2012年、下田に戻る。筑波大学下田実験センターにて海洋生物データベースの開発などを行う。2021年よりフルリモートでシステムエンジニアとしてシステム開発を行っている。

下岡蓮杖の生誕地、伊豆下田で、写真好きな仲間が日々の暮らしを発信したり、高校生とのフォトツアーなどを開催しながら「写真のまち」を目指して活動中。現在、部員13名。
下田写真部公式Facebook https://www.facebook.com/shimoda.photo
下田写真部公式Instagram https://www.instagram.com/shimoda_photoclub

 


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