フォトまち便り「Hello Local」vol.35 郡山写真部~食への関心からつながった、郡山の素敵な農家さん~
紀南、富山、郡山、下田の4つの地域写真部が綴っていく連載企画「フォトまち便りHello Local」。今回は郡山写真部の太田さんによる「農業」をテーマに語っていただきました。郡山に移住して、東京には無かった農場の景色。そこで太田さんは一人の女性と出会い、農業を体験しながらさまざまなことを学んでいきます。
「こんなに小さい種から、こんなに大きくなっていくんだよ。すごいでしょ。かわいいでしょ。」
いきいきとした表情で、ここ最近農業に興味を持ち始めた私にこう語った。
彼女の名前は鈴木久美さん。郡山在住で、美容師とお店、そして畑で野菜を育てている方だ。
今回、私は福島県郡山市に住んで農業をやっている人を紹介したいと思う。
なぜ郡山の農業を取り上げたいと思ったか
なぜ農業?と聞かれると私自身、食べるのが大好きなことから始まる。
もともと住んでいたのは東京の大都会で、農業とは縁のない生活であったが、小さいころから親の実家の帰省や旅行などで地方に訪れることが多く、田園が広がっている姿には魅力を感じていた。
そして移住して住み始めた福島県郡山市。農業が盛んなこの場所で、この風景が身近に感じるようになった。
そして食卓やスーパーで並べられている食材の原点が、目の前で広がるこの景色から始まることを実感し、あらためて農業はどんなことをするのか。作っている人が、どんな想いで育てているのか、非常に関心を持った。
郡山にいる畑の生産者の顔、人柄を取り上げたいと考えた。
農家である鈴木久美さんとの出会い
2022年4月某日。私が執筆した第1弾の原稿で取り上げた門土庵で知り合った友人から、畑をやっていて、飲食店もやっている農家がいるとの情報をもらい、さっそくお店に出向いてみた。
そのお店は郡山駅から徒歩20分ほど、お店の名前は「おかあちゃんの台所 ありがとう」。ここのおすすめは日替わり定食で、この日は手作りのカツ、新鮮な野菜、ふきのとうなど、プレートには自然食がたくさん並んでいた。自然食を食べる機会があまりない私にとって身体が喜ぶメニューだ。価格は900円(昼の場合は800円)。そして食べている最中に、久美さんがやってきて、こう言った。
「これ、うちの畑から今朝収穫してきたものだよ。」
「そうなんですか?畑では何を育てているんですか?」
「いろいろな野菜。60種類ぐらい育ててるかな。」
「60種類もあるんですか!?」
「あるよ。例えばトマトだけで9種類育ててる。」
そう言って定食を食べ終わった後に、畑の様子の写真を見せてくれた。
久美さんは種をまいて収穫するまでの過程を記録しているそうだ。毎日畑に行って、写真に収めて記録に残し、アルバムにして残しているという。
「去年はこんな感じでやってたのよ。」
写真を見ながら嬉しそうに話す姿にますます農業に興味を惹かれ、勇気をもって言ってみた。
「最近、農業に関して興味を持ち初めまして。ぜひ、いろいろ体験したいので、畑行ってもいいですか?」
二つ返事で「いいよ」と言ってくれ、正直驚いた。いきなり初めて会った自分に、写真まで見せてくれて、しかも畑に案内してもらうことになり、すごく気さくな方で魅力的な人だと感じた。
その畑は郡山駅から車で約25分の場所にある西田町鬼生田地区。900坪の広さを持つ。種類としては、トマト、葉野菜(シソ、バジル、パセリなど多数)、じゃがいも、たまねぎ、かぼちゃ、ニンニク、大根、ズッキーニ、など関連するものも併せて60種類ほどの野菜を育てているほか、イチゴなどの果物も育てている。作っている野菜は、全て化学肥料や農薬を一切使っていない有機野菜なのだ。
毎朝やっていること
畑作業はだいたい朝6時から9時ごろまで行う。久美さんだけでなく、他にも桑原さんというご夫婦と3人でやっている。桑原さんとは、久美さんが美容師をしているときにお客さんとして出会い、農業のことがきっかけで意気投合して、それ以降一緒に作業している人だ。
作業としては葉っぱの水やり、雑草取りや土の肥料にするための雑草集め、野菜の収穫など。
これらを毎日の作業としてやっているが、ただ作業をやるように見えて農業は毎日変化しているものだと久美さんは語る。
常日頃からよく観察し、工夫も凝らすなど必要な作業が多いと感じた。
その日の朝に収穫した野菜は「朝採れ野菜」として100円で販売しているほか、日替わり定食として出すこともある。
苗を植える前の種まきという、貴重な経験
最近ではホームセンターで苗を買ってから育てる人が多いのだが、久美さんたちは種を買って種から苗を作る作業から始めている。セルトレーに1マス数粒の種を順番に入れていく、すごく緻密な作業だ。そして種1粒は気をつけないと落としてしまうほど非常に小さく、こんなに小さい種から野菜が出てくるのかという驚きがあった。
「なぜわざわざ種からやるのですか?」
「野菜の成長過程を見るのが好きで、実際に芽が出るとすごくうれしい気持ちになるからかな。だから愛情をこめて育てたい。あと、化学肥料などは使わず、自然の力で育ってほしいの。」
そんな愛情が野菜に注がれて大きくなって野菜も幸せに育てられてると実感した。実際に種まきの作業をやらせてもらったが、本当に緻密な作業。手先が器用でない自分にとって種を落としてしまうなど作業の失敗もいくつかあった。そんな私にも丁寧に愛を持って教えてくれる久美さん。野菜だけでなく人にも思いやるのある人柄に、久美さんの作る野菜が美味しい理由がわかった気がした。作業を通して貴重な体験し、自分の植えた種がどのように成長していくのかを見届けるのが本当に楽しみになった。
美容師時代の出会いで実現した野菜作り
実は久美さん自身も畑を始めたのは5年ほど前からだそう。それまでは美容師の人生が長く、畑や農業とはほぼ無縁の生活だった。
農業を畑を始めようと思ったきっかけは自分の健康を気遣うために、おいしくて安全なものを食べたいという気持ちがきっかけだったそう。
「スーパーで野菜を買ったとき、虫や汚れがついていないきれいなものが多い。けど、それは野菜に消毒液などをたくさんかけているの。すぐ害にならないけど、やはり消毒液や農薬を一切使わず、おいしくて安全なものを食べたい。」
と久美さんは言っていた。
そんな想いがある中で美容師をしていたある日、お客さんとして知り合った農業経験者の桑原さんと出会い、意気投合。畑仕事を始める決意を固めた出会いだった。それ以来、桑原さんたちから教わりながら試行錯誤でやっている。久美さんは色んなことにチャレンジ旺盛で人と話すことが大好き。持ち前の明るさでたくさんの人から慕われ、協力してくれたそう。
きっかけは「居場所づくり」、いまでは人と人がつながるコミュニティへ
自分の健康と美味しい野菜を作りたい想いで始めた畑だが、自然とみんなで「美味しいね!」とワイワイできる場所を作りたい。
その想いから久美さんは「おかあちゃんの台所 ありがとう」という名前でお店を始めた。名前の由来は「いままで出会ってお世話になった人への感謝を忘れない、来てくれたお客様にも感謝の気持ちを。」という意味を込めている。
このお店は常連さんが多く、久美さんが育てた野菜を食べたいと、彼女の人柄に惹かれて来る方が中心だ。
お店にいった際はいつも雰囲気が良く、久美さんは他のお客さんと楽しそうに話している。
そしてこの場所は居心地のいい「居場所」のようなもので、例えばお客さんが差し入れを持ってきてくれたりして、それがメニューに出ることだってある。
インドから来た常連さんには本格インドカレーを教わったりなど、交流を大事にするその人柄は、まるで外国のホストファミリーのように感じた。
久美さんとの出会い、そしてこれまでと違って見えてきた郡山の風景
まだ出会って数か月ほどしか経っていないが、畑で野菜を育てる魅力を語ってくれたり、実際に作業させてもらったり、たくさんの経験と学びがあった。
それは久美さんみたいにやりたいことがあれば、なんでもやってみるという気持ち。そして農業の関心をきっかけに、こんなにも良い出会いができたことは大収穫だったと思う。
そして久美さんのお店を紹介してくれた人、
久美さんとの出会い、
畑の作業を経験をできたこと、学んだこと。
すべては人との出会いや繋がりだ。この出会いを大切に、そして感謝の気持ちを忘れずに生きていこうと想う。
この出会いをきっかけに、郡山の風景がいつもと違って見えてきた。
もっともっとこのまちが好きになっていた。
太田 航平(こうちゃん)
1995年生まれ。もともとは東京に住んでいたが、ふくしまの魅力を発信したいという想いから2019年に福島県に移り住む。2020年郡山写真部に入部。
写真を通じて、まちの人と関わりながら郡山の魅力を発信中。
郡山に住む写真好きの仲間が集まり、2018年から活動をしている「郡山写真部」。
郡山のまち、人の魅力を「写真」を通じて見つめ直し、「#郡山写真部」で発信しています。
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