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HOW TO / 作品制作のヒント

誰にも真似できない海の写真を撮るには? テラウチマサトの写真の教科書17



本記事は、6月1日(金)に開催されたトークショー「夏だ!サマーだ!海撮ろう!!」の一部を抜粋したものです。5月に発売した写真集「タヒチ 昼と夜の間」の撮影裏話や、海撮影のヒントをお届けします。

 

死に場所はタヒチ?

随分長い間写真を撮ってきたが、その中で常に考えていたことがある。
それは、どんな死に方をしたら写真家らしく死ねるか?ということだ。

どこかの砂漠でカラカラになって発見されたり、雪山に登ったまま帰ってこなかったり。あの広大な砂漠のどこかに、あるいはあの氷河のどこかにいるんだろうなと誰かに囁かれる自分の姿を想像してみる。写真家らしい死に方だなあと。

そんなことを考えていた僕にとって、タヒチの海は格別な存在だった。
自分が死ぬなら、この海かなと、そう信じていた。

30代の頃、経営コンサルティング会社の船井総合研究所の船井幸雄会長との共著で、「癒しの島々」という写真集を出した。それが売れたことで、僕は海ばかり撮っていた。
海撮影が続く中で、将来の死に場所を探す気持ちを抱きながら、ある時、タヒチの海に潜った。
でも、潜った瞬間に、ここはそんな場所じゃないと直感的に分かった。
ここはそんな死を求めるような場所じゃない。もっとしっかり自分自身と向き合って写真を撮れとタヒチの波に、語りかけられたようだった。

 

特別な波を撮るために必要なこと

背中を強く押してくれたタヒチの海を、普通の人とは同じように撮りたくない。
そんな特別な海や波を自分なりに切りとるために、いくつか大切にしていることがある。

1つは、シャッタースピード。
波を撮影する時にはシャッタースピードが最も重要になってくる。

シャッタスピードを変えることで、同じ海や波でも変化を生むことができる。
例えば、「揺蕩う(たゆたう)」という表現に近い波を捉えたいと思うとき、
シャッタースピードは1/30秒以下くらいがちょうどいい。

何度も波に揺られながら、自分が表現したい感情に合ったスピードを
いつも考えている。

例えば、この写真。
波がくるぎりぎりのところをどうしても撮りたくて、救命道具をつけて、船の船頭さんにその紐を引っ張ってもらいながら、海に首まで潜って撮影した1枚だ。

波のスピードと、引っ張ってくれる船のスピードのバランスを考え、シャッタースピードを変えながら撮った。
カメラを沈めて撮影したせいで、レンズは水浸し。
中には壊れたものもあったけれど、自分の思う最適なシャッタースピードで、揺蕩うタヒチの波を切りとることができたと思っている。

2つ目は、波が最もパワーがある位置を見極めること。
波はぶわっと上がり、頂点のぎりぎりのところで崩れていく。
だから、崩れる前のほんの一瞬を撮り逃さないように集中する。
どの瞬間でシャッターを切るかによって、相手に伝わる印象はまったく違うし、カメラアングルの工夫で、いくらでも面白い海の表情を写すことができるのだ。

 

タヒチの海にふさわしいカメラ

タヒチの波は、青一色ではない。
濃い青から薄い青まで、無数のグラデーションが存在している。
だからこそ、カメラの色調はいちばんこだわらなければいけない部分だ。

カメラの色味はメーカーごとに微妙に違っていて、僕が常に使っているカメラは10台ほどだが、それは実は海によって使い分けている。
タヒチには181の島があるが、砂の色や天候で、全部同じ海の色ではないから、それぞれのメーカーの色調を理解したうえで、ぴったりだと思うカメラで撮ることにしている。
それは完全に個人的な感覚だから、なかなか伝えづらいのだけれど。

ずっと同じメーカーのカメラを使い続けるのももちろんいいと思うが、出来ることならTPOによってカメラを変えた方がいいとよく写真教室の生徒に言っている。

買い物に行くのに大きなトラックで向かう必要が無いように、TPOに応じて、ふさわしい機材があると思う。

大切なのは、それに気づいて、自分でカメラを選んでみること。
ずっと同じ景色なんてないし、全部同じカメラで撮ることもない。

自分の撮りたいもののために、機材選びにも貪欲になる。
それが、他の人とは違う写真を撮る近道かもしれない。

QandA

Q.タヒチの写真集をつくる時に気をつけたことは?

いろいろ写真に込めた思いはあるけれど、それを押し付けすぎないこと。
僕は写真集につけるタイトルや文章は、ナビのような役割だと思っている。明確に場所を提示してはいないけれど、ある方向を指示するだけでいいような気がしている。何丁目何番地といったような、どんぴしゃの一点ではなく、大体この辺りというような方向性。だからこそ、自分でストーリーを固めずに、見た人がストーリーを考えられるような余白を残すことができるのではないだろうか。
それは、写真を見てくれる人を信用しているからであり、どんな時でも、写真を見てくれる人を子ども扱いはしないと決めてきたことにもよる。

例えば、海に佇むひとりの女性の寂しさのようなものを写したいと思ったら、あえて寄らずにぐーっと引いてみる。伝えたいメッセージは画面の中では小さくなるけれど、それでもその写真を見る人はそこに意識を向けてくれるように撮る。画面内では小さいけれど、きっと届くはずだと思って撮影することは、とても大切なことだと思う。
 

Q.天気によって色が左右される海で、雨や曇りの時はどういう風に撮影していますか?

晴れた日の、きらきら輝く青い海がいちばんきれいだと思っている人は多い。でも、僕はそういう最高なタイミングの時こそ、撮影には気を遣わなければいけないと思っている。
どの場面を切りとっても最高な絵になるような天気の日は、どこかで見た写真、誰でも撮れる写真になる可能性が高いからだ。

逆に雨や曇りの時こそチャンス。みんながあまり魅力的だと思わないような瞬間を、いかに面白く見せるか。
同じ海を見たって、「死ぬならここだ」と思う人もいれば、素敵な色と思う人もいる。そんな多様なことを考えられる海に、天気なんて関係ない。
自分の色が出せる場だと思って、思う存分撮影を楽しんだらいい。
新しく出した写真集「タヒチ 昼と夜の間」は、そんな想いで構成したから、ぜひ見て欲しい。

写真集『タヒチ 昼と夜の間』
価格:4,000円(税込)
仕様:上製本/W148mm×H195mm/176ページ/特製ケース付き
<購入はこちらから>
http://cmsinc.shop-pro.jp/?pid=130161582

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