PHaT PHOTO写真教室のすごい人 ~スガアキコさんの場合~
「PHaT PHOTO」写真教室の逸材を探し出し、担当講師とともにその魅力を深堀りするコーナー。
「PHaT PHOTO」写真教室は、ビギナー(1年目)から、ミディアム(2年目)、ハイパー(3年目)、プレミアム(4年目以降)と進み、それぞれのクラスに応じた技術や知識の講義を行っています。
今回ご紹介するのは、「PHaT PHOTO」写真教室の校長テラウチマサトが講師を務める、プレミアムクラスに在籍するスガアキコさんです。
今回ご登場いただくスガアキコさんは、2016年4月頃からプリントアウトした写真に何かを“足す”という、「plusシリーズ」を手掛けています。何気ない街の風景や自然が、何かを足すだけで、いつもとは違う景色に見えてくる。そんな、日常に面白さをプラスするスガさんの作品を、たっぷりご紹介します。
また、作品制作のアイディアのヒントや、こだわりなどなど、いろいろお話していただきました。さらに、写真教室講師の松下龍士先生も飛び入り参加。ボリュームたっぷりの内容でお届けします。
テラウチ 毎回宿題を出してるけど、それに対していつも不思議な作品をつくってきてくれてたよね。クラスのみんなが楽しみにしてたから、新しい作品を生み出し続けるのがプレッシャーにならなきゃいいなと思っていたんだけど。どうやって思いつくんですか?
スガ ずっと考えていて、ピカーンって頭に浮かんでくる瞬間があるんです。あ、あれを足そう!と、それでやっているだけです。
テラウチ そういうひらめきがあるんだ。いつもコンセプトがちゃんと考えてあって、とても感心してました。作品がいつも繊細で丁寧でね。この「plusシリーズ」の初期の作品も面白いね。
スガ これは私の住んでいるところが新興住宅地でなんにも色味がないので、色を足したいなと思って。
テラウチ 自分のマンションのベランダから見える風景に色を足したのね。
スガ そうです。テトリスをやったことがある方の中には、何か四角いものをマンションの間にはめたくなることがあるかなと思うんですけど、その気持ちを写真にぶつけてみました。その次につくったのは、この作品です。
オリジナリティを出すという宿題で、卒業制作でもありました。3年間一緒に授業を受けたクラスメイトの住む街に、うっすらした記憶を頼りに勝手に行って、写真を撮ったものです。
テラウチ 大阪のクラスメイトのところにも行ってたよね。
スガ たまたま大阪に行く機会があったので、撮りに行きました。
テラウチ その人の住んでいるであろう街に行ってきたんだ。
スガ はい、でも詳しく住所とか聞けないので、ちょっとずれてる人もいっぱいいました。みんな自分のよく知っているところを私が撮ってきたらびっくりするだろうなと思って、わくわくしながら街をめぐりましたね。
テラウチ この色は?
スガ 色は、私がその街に実際に行ってそこで感じた空気感をあらわしました。戸越銀座に行った時はすごく活気があったので、おしゃべりをしている感じにしたりとか。
テラウチ これは人の流れですか?
スガ これは東長崎なんですけど、ここは曲がり角のある道が多くて、カンカンカーンという感じの街だったので、矢印をつけました。自分の感じた街のイメージを膨らませて色をつけていったら、こうなりました。
テラウチ ここでもう完全にスガさんの味が出る作品になってきてるね。
スガ 次は、渋谷の作品です。この時の宿題は、ランドマークがある渋谷という街をどういう風に撮るかというものだったので、とりあえず渋谷に行ったんですが、そこで私の目についたのが、グラフィティーアートでした。
テラウチ それはどうして?
スガ ちょうどその時、伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』という本を読んでいて、そこにグラフィティーアートがすごく印象的に出てきたんです。だから、渋谷でもそればかり目につきました。この写真の場所は、元々なにもない綺麗なビルなんですけど、せっかくだから描いてやろうと思って、写真の上に描いてしまいました。
テラウチ さも元からありそうな感じだよね。
スガ 渋谷のヒカリエもノリで描き足しました。
テラウチ 描いたのか、元々あったのかわからない感じがいいですね。ここまでの作品だけでもすごい多様だなと思う。同じ作者とは思えない。
スガ 次の作品は原宿ですね。
テラウチ これにはびっくりしました。
スガ 原宿を撮るっていう宿題だったので、行ってみたら、原宿ってすごく個性的で変なものがいっぱいあったんです。だから、これを生き物みたいに捉えちゃおうと思って、檻に閉じ込めてみたりとか。
テラウチ タイトルが「原宿ZOO」だったよね。原宿にいる人たちを動物園の檻に閉じ込めたみたいですごく面白いなと思いました。
スガ 次の作品は、藤子不二雄さんの漫画に影響を受けてつくりました。人間の欲望は食欲・性欲とあって、現代社会では食欲は普通に大っぴらにされているけど、性欲は隠されてる。でも、ただそれが時が変われば違うかもしれない、違う側面があるかもしれないというので、食べる行為を隠さなければいけないんじゃないかと思ったんです。だから、自分で撮った食べている写真にわざと影をつけて撮りました。
テラウチ この作品か、さっきの原宿の写真のどちらを御苗場で展示するか迷ってたよね。原宿の写真はわかりやすくて評価されるけど、わかる人にはこの良さがわかると言って、こっちの作品を出せとアドバイスしました。でも、何もキャプションを書かないで展示してたから、もったいなくて。今やっとみんなに良さが伝わると思うよ。
スガ 今、私説明できてました?
テラウチ 大丈夫。作品づくりのきっかけを聞くとさらに面白いね。この写真を御苗場で1番大きくした理由はなにかあるの?
スガ やっぱり食べている真っ最中なので。1番食欲を感じさせる場面かなと。
テラウチ これは自分?
スガ 違います、教室の友達です。
テラウチ 影の入り方がいいよね。
スガ 少女Aっぽくしたかったんです。目じゃなくて口を少女Aみたいに。
テラウチ テレビとかを撮る時に、こういう風にスーッと走査線が入る時があるけど、それにも近いよね。
スガ 手を入れたり、部屋の中にあるカーテンとかを入れたりもしました。でも、この写真は撮れる時期に限りがあるということに後から気づきました。私の部屋の向きが東向きなので、今は影が弱くてこれができないんです。ちょうど撮影したこの時期は、毎朝影が入ってきているのを見ていて、なにかでこの影が使えないかなってずっと思ってたんですよ。
テラウチ この作品はすごくいいなと思った。ずっと似た感じの作風の延長で来ていたんだけど、ここでパーンと変わったから、これは化けるかもしれないなと思ってみていました。じゃあ、次の桜の写真の話を聞こうかな。
スガ 次の作品は、「春がきたかな?」っていう宿題の時のもので、桜の写真はあまり撮りたくなかったんですけど、あえて撮りたくないものに取り組んでみようと思ってやりました。尾形光琳の『紅白梅図屏風』を見た後だったので、それを目指してプリントの上に金箔を貼ったんです。すごく苦労して、もう二度と作りたくないくらい、本当に大変でした。
テラウチ 苦労してつくったんだね。今、松下龍士先生もいるので、せっかくだからこの作品のどこを見ているのか教えてもらおうかな。
松下 僕は、この錆びている感じが、写っているものではなかなか出せないなと思って魅力的に映りました。撮影で工夫するには限界があるし、そういう時はついつい紙に頼りたくなるんですよ。錆びた感じの紙と、印刷のコントロールでなんとかしようとするけれど、プリントでの工夫というところを超えられない。でも、この作品はそうきたかっていう感じですよね。それに、日本の古典を現代の写真で表現しているのが僕は好きでした。
テラウチ 松下さんもプリントをすることに対して、すごくこだわってらっしゃるからね。これは、全部貼ったの?
スガ ボンドを薄めて全部貼りました。でもやっぱりうまい具合にいかなかったですね。
テラウチ この木の幹とか相当苦労してるよね。
松下 手で貼っているブレ感というか、そこがまたいいんですよ。大変だったんだろうなというのが見る側にも伝わってくるし、金色のムラがあるところが面白さになってます。
スガ 作品をつくった時から時間が経って変色したので、最初よりやつれた感じが、いい具合に出て、日本の侘び寂びがさらに表現できているような感じがします。
テラウチ やっぱり相当考えてつくってる。それがこの作品からは特に感じられます。そして、最後が1番最近の作品。
スガ これは、「いつも舞台に立っている」という不思議な宿題を与えられた時のものです。銅像はいつもずっと立っているので、じゃあ自分も一緒に銅像になってみようかなと思って。
テラウチ スガさんご本人が?
スガ はい、自分が。セルフで一生懸命撮りました。
テラウチ この対になってるもう1枚の写真は?
スガ これは、ちょうど銅像が立っている前にある景色なんです。銅像は常にこの景色を見ているけれど、じゃあ何を考えているのかなとか、そんなことを思いながら撮りました。
テラウチ これは結構深いなと思った。銅像は何があってもぶれないし、そしてその目が向く先はなんだろうと考えるというのは興味深いテーマです。でも、どうして自分も銅像の形になってみようと思ったんですか?
スガ 横尾忠則さんの展覧会を見に行ったんですけど、横尾さんとか草間彌生さんってアーティスト自身が作品に出てくることがある。だから、私もやってみようと思って、同じ形で銅像の気持ちになってみました。
テラウチ 自分が作品に出てみようっていうのは、なかなか考え付かないことなので、この写真はすごく目を引きました。初期作品から最近のものまで、今回いろんな作品を振り返ってみてどうでした?
スガ 直接聞かれると恥ずかしかったです。あんまり喋れなかったような気がします。
テラウチ いや、でもちゃんと説明できてましたよ。絵画や小説、いろんな芸術作品から刺激を受けて、それを取り込んで、しっかり自分の作品に落としこむことができているなと思いました。ただ見るだけでは伝わりきらないスガさんの魅力を、今回こうして実際に作品にまつわる話を聞いて、多くの人に知ってもらえるんじゃないかなと期待しています。これからも、スガさんらしい写真を撮り続けてください。
スガ はい、ありがとうございます。
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最初はカメラを全くやったことがない人でも、上のクラスに進むうちに、スガさんのようなオリジナリティのある作品が撮れるようになります。
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