内藤由樹の海外武者修行ログ vol.14 名人を目指すことになった話
2012年関西で行われた日本最大級の写真イベント「御苗場」でレビュアー賞を受賞した注目若手作家・内藤由樹。
現在世界各地を旅しながら写真を撮影している。
http://yuki-naito.tumblr.com
前にも書きましたが、私がグアテマラに居たのは、ペルーでいい感じの写真学校を見つけ、
気になりつつもスペイン語が全く話せないので、それならばしばらく勉強してみるぜ!と
語学学校の安い国を選んだからでした。
(けれど、学校には結局3週間しか通いませんでした。飛行機代の方が高くついてしまった。
こんなことなら移動せずにペルーで通えば良かったかなあ。しかしそれもまた縁です。)
語学留学で有名なアンティグアに到着してすぐに学校に通い始めました。
のんびりとしたカリキュラムで日本人に人気の丁寧な説明をする先生に、
時間ないんだからタラタラしてないでさっさと進んでよ!
問題は家で自分でやってくるから次の文法いっちゃってよ!
グリム童話なんて読みたくない、それより学校のパンフレットの翻訳手伝ってよ!
と圧力をかけ、いま思えばかなりやりにくい生徒だっただろうなあ。と、少し反省しています。
でもアリとキリギリスの話なんてどうでもよかったのです。
アンティグア(スペイン語で古い、昔の、という意味です)は
植民地時代の古い町並みが人気の歩いて回れる小さい街で、
民族衣装で過ごしている人もたくさんいます。
欧米人向けのおしゃれなカフェ(Wi-Fiめちゃくちゃ早い)もあるし、芝生でだらだらできる公園や、
ローカルな市場も大きなスーパーもあって、とても住みやすかったです。
ホームステイ先にも恵まれ、現地で見つけた
可愛いおじいちゃんおばあちゃん夫婦の家で暮らしていました。
しばらくすると知り合いも増え、街を歩くのも楽しくなってきました。
行きつけのカフェの常連の子たちと仲良くなって、毎週末にカテドラルの広場でやっている無料のコンサート(きっと想像しているよりいい感じのものです)に行ったりもしました。
平和だったなあ。
そうやって楽しく過ごしていると、ペルーの学校のことを考えるのがめんどくさくなってきました。
その時私が受けようかと検討していたクラスは、3年間のいわば「写真家」育成コースと、1年間の「プロカメラマン」育成コースのどちらかでした。
内容は3年間コースの方に興味があったのですが、3年というのはちょっと長すぎます。
そして両方2月スタートのコースだったので、もし入学するとしても、その時(3月)から1年近く先の話で、それまでモチベーションを保てるかわかりませんでした。
一言で言えば、
勢いつけてこんなとこまで来ちゃったけどよく考えたらいろいろ微妙だな。
と思い始め、それをごまかすように必死に勉強していました。
たまに、もうどうでもいいかな、旅行も飽きたし、しばらく勉強してちょっと喋れるようになったらそのまま日本帰ろうかな。と気持ちが揺れていた。
やる気が冷めつつあったとある日、これからどうしよう…と通っていたカフェで
昼からひとりでビールを呑んでいると、ペルーで学校を案内してくれた先生からメールが届きました。
「ゆきー元気ー?スペイン語頑張ってるー?
そういや、今年新設のマスターコースが、8月から1年間あるんだけどどう?
ポートフォリオ通れば奨学金もらえるかもよー」
とのことでした。
ほろ酔いだったのと、開始時期もコースの期間もちょうどよかったので
わかった、じゃあ奨学金とれたら行く。と即答でした。
なんかマスターってかっこいいし。
でも、マスターってそもそも何だ。
「バーのマスター」とかしかイメージがありません。
Wikipediaで調べると名人、達人の意。
マスターコースは修士課程。らしいです。
今まで写真をちゃんと学んだこと無いくせにいきなり名人とはなんだ。となったけど、
それはまあよしとしよう。
日本を出るとき実は、本当に写真家になりたいのかどうかも含めて
ちゃんと考えようと思っていたのですが、なんだかこんなわけで
いきなり名人を目指すことになりました。
写真はホームステイ先のじいちゃんです。
ジブリにでてきそうだなあと毎日思っていました。
内藤由樹 / ないとうゆき
1987 年大阪府生まれ。2013年 キヤノン写真新世紀 佐内正史選・佳作/第2回御苗場夢の先プロジェクトグランプリ/キヤノンフォトグラファーズセッション ファイナリスト/2012 年 御苗場vol.11 関西 レビュアー賞/写真集に「being」(2013年・TIP BOOKS)がある。
次の話を読む
vol.15 ジャングルでのホームステイ、なんとか始めた話
vol.16 動物と仲良くなった話
vol.17 居候先のじいちゃんがポートフォリオの編集を手伝ってくれた話