フォトまち便り「Hello Local」vol.10 AMAZING TOYAMA写真部 ~富山の味「ます寿し」~
4つの地域で活動する写真部が、自分たちの住むまちの魅力をまるで交換日記のように発信していく本連載も、いよいよ10回目を迎えました。記念すべき今回はAMAZING TOYAMA写真部の黒川さんによる投稿です。富山市に店を構えるます寿しの名店「高芳」への取材を通して、改めて気づいたこのまちの魅力。素敵な写真と共にお楽しみください。
郷土の味
各都道府県にはそれぞれ代表する郷土の味があると思うが、富山県こと富山市で言えば「ます寿し」は外せない。「ます寿し」は富山市内を流れる神通川流域を中心とした食文化で、比較的神通川から近い場所にお店を構えているところも多い。
歴史をみてみると、8代将軍徳川吉宗への献上品にも使用されていたらしく280年くらい前には食べられていたようだ。
全国に知られるようになったのは、110年程前から始まった駅弁としての販売がきっかけのよう。現在ではデパートなどの駅弁フェアで見かけることも多いのではないだろうか。
近頃ではコンビニでもおにぎりスタイルで見かけることも(こちらの地方だけか?)
匠の技
今回は富山市中心部にお店を構える高芳さんにお邪魔して「ます寿し」についてお話を伺ってきた。高芳さんは創業96年で現在の店主は3代目となる。
「ます寿し」の主な材料は米、笹、そして鱒である。
米は富山県下新川郡入善町の特別栽培米コシヒカリを使用、立山連峰から流れる黒部川のミネラル豊富な水で育てられている。
笹は新潟県産を使用、生笹を冷凍して鮮度と色を保っている。
鱒は北海道産のサクラマスを使用、地元漁港の協力を得て「船上活け〆」という方法を取り入れ鮮度と切り身の美しい桜色を保たれている。店内で鱒を捌いている様子を見学させていただいたが、これがまた見事な仕事をされていた。包丁を握られる職人さんはこの道40年、現在のお店では一番の古株だそうだ。冷凍されている鱒は全てがまっすぐではなく、中には曲がった状態で凍っている鱒もあるのだが、まるで真っ直ぐな鱒を扱うかの如く捌かれていく。
3枚におろされた中骨も身の付着は最小限という、ここにも確かな仕事の腕が垣間見れた。
おろした鱒は乾燥しないよう剥いだ皮の上に一度並べていき、その後一晩塩漬けして寝かす。
材料が揃ったところでわっぱに詰めていく。わっぱに笹を敷き鱒を詰めるのだが、この工程で鱒に対して酢を使用されている。その後酢飯を敷き詰めて笹を折り返してわっぱ詰めは終了する。
出来上がったわっぱを重ね、さらに上から重石をのせて押していく。重石も昔は河原にあるような石を使用されていたそうだが、持ちやすさと安定性を考慮し現在の形になったそう。
変化と継続と挑戦
創業80年の歴史の中で変わったこと・変わらないことを伺ってみた。
変わったことは「寿しを押す時間が短くなった」ことだそうだ。
昔は現在よりもしっかり押しをして締まった食感だったそうだが、時代に合わせ押しの時間を短くして柔らかさを出されているとのこと。些細なことかも知れないが、米と鱒のふっくら感は絶妙なバランスを保たれていると思う。
その他「ます寿し」の大きさにも挑戦された話を伺った。直径120cmの超特大サイズで普通サイズの40個分というボリューム。わっぱも特注されたとのことなので、今後もし製作されることがあれば是非ともこの目で見てみたいものだ。
(注文すればもしかしたら。。。気になる方は問い合わせてみていただきたい)
変わらないことは「手作業、機械化をしない」ことだそう。
工程を見学させて頂いたのだが、やはり手作業というのは大変だ。数も1個や2個ではないから尚更だろう。機械化できる工程もあるだろうがあえて手作業にこだわる。こういったことも味に繋がっているんだろうなと思わせてくれた光景だった。
それぞれの伝統の味
ます寿司屋は富山市内に約40店舗ほどがあり、各店舗でスタイルやバリエーションは様々だが、笹で包んだ鱒の押し寿司ということは何処も変わらない。
酢飯の酢の効き具合や鱒の〆具合、寿司全体の押し具合など本当に様々あるので、お気に入りの一品を見つけるのも楽しみの一つではないだろうか。
あとがき
約半世紀近くを富山で過ごしているが、ます寿司の歴史や製造工程を拝見したのは初めてだった。身近にある伝統的なものはまだ他にもあるはず。知ってるようで知らない富山をこの「フォトまち便り」で発掘していきたい。
最後に撮影に協力してくださった高芳の皆様と写真やインタビューをとってくれた仲間に感謝を申し上げたい。
富山名産 鱒の寿し
有限会社 高芳(https://www.takayoshi-masuzushi.com/)
〒930-0029
富山県富山市本町3番29号
TEL 076-441-2724
FAX 076-441-6873
通信販売も取り扱いあります
プロフィール 黒川智康(くろかわともやす)
1974年生まれ。アメイジングトヤマ写真部へは4期より参加させていただき、今期より新設されたリーダーズに参加。
遠くの絶景より近くの路地を撮るほうが楽しいアラフィフでスーパーカブという新しい玩具を手に入れ富山市内を快走している。
photos by T.Kurokawa & H.Watanabe & H.Ikegami