自傷行為を追う。岡原功祐のドキュメンタリー「Ibasyo」が教えてくれること


「私には居場所がない」

自己肯定感を感じられず、リストカットを繰り返す。
自傷行為をやめることができなかった女性たちに迫った岡原功祐さんのドキュメンタリー作品展
「Ibasyo 自傷する少女たち”存在の証明“」が東京・TIPで開催中だ。
(6月9日(土)18:00~19:30には、作家本人による『Ibasyo』プロジェクトのプレゼンテーションも開催)

本展示は、文章とテキストでつづられたフォトドキュメンタリーの書籍
Ibasyo 自傷する少女たち“存在の証明”』(工作舎刊)をもとにインスタレーションをするという試み。
神戸の写真ギャラリーMirage Galleryにて今年4月に開催され、東京では今回が初めての展示となる。

そのプロジェクトと本展について、岡原さんに話を聞いた。

この「Ibasyo」プロジェクトは、6人の女性を、写真家の岡原さんが長年かけて追ったドキュメンタリー作品。
プロジェクトのスタートから14年の時を経て、今年3月に書籍化した。

本書には、家庭内暴力やレイプ、いじめなど、胸を締め付けられるような出来事の数々が、ありのままに語られている。

手首に剃刀を当てる。まるでペンで描くように、ゆかの手首に赤い線がついていく。
あくまで「取材している」ということを思い出し、シャッターを切った。
おかしな空間におかしな時間が流れているように感じた。
(本書「ゆか――トンネルの先に見える薄日」より)

親の借金を取り立てに来るやくざに日々怯えながら過ごす女性、
レイプされてしまった女性、
暴力が日常にある家庭で育った女性。
そんな環境の中を過ごしてきた彼女たちは、
ふとしたことをきっかけに自傷行為をし、繰り返すようになる。

Yuka cuts her wrist. “I can not stop cutting myself. I feel better when I cut and see my blood”

中には、200錠以上の薬を飲んで病院に運ばれる女性も。
書籍内には、目を覆いたくなるような写真も一部挿入されている。

存在を否定されるような経験をしたことをきっかけに、自分に価値を感じずらくなってしまった彼女たちは、
自分を傷つけるという方法で、自らの存在を肯定しようとする。
しかし、その傷を見ては「してはいけないことをしてしまった」と自己嫌悪に陥ってしまう。

そんな悪循環を繰り返し、それぞれに苦しむ日々と、
あとがきには、計らずもそこから抜け出した後の様子が綴られている。

Akane, 26 years old, e-mails with her friends by the cell phone before she sleeps. She has been suffering depression and self- injury for over 4 years. The cause of her mental illness, she said, is the traumatic experiences of domestic violence by her father in her childhood.

苦しい思いを抱えながら生きる彼女たち一人ひとりに誠実に向き合い続けた岡原さんの、決して「こうあるべき」という目線ではない、寄り添うような言葉と写真で構成されている1冊なのだ。

そんな写真集を展示化するにあたり、まず岡原さんが思い浮かんだのはこの壁面のイメージだ。


壁一面に、ほぼ全てのページのテキストが広がっている。
書籍ではテキスト部と写真部分が分かれているが、展示ではテキストの間に被写体が散りばめられている。

「具体的なストーリー(テキスト)の中に、被写体の写真を浮かべる、というイメージでこのような形にしました」(岡原)

さらに、より「本」のことを伝えるために、下のような展示も展開。
ふだん私たちが知ることのない、書籍が出来上がる過程を展示した。

「今回出版した工作舎では、僕の要望をかなり聞いてもらえました。
たとえば、サイズひとつとっても、とてもパーソナルなストーリーなので、
本を見る人も、自分の世界でパーソナルに見れるサイズ感など、」(岡原)

さまざまなデザインを工作舎のデザイナーが試行錯誤してくれたそうだ。

そして、もうひとつ大事なのがこのスペースだ。

この書籍が出る以前に、6名の手製写真集を岡原さんが制作。
それを世界中の人に貸し出してメッセージをもらうというプロジェクトをはじめた。
3年半で30カ国を周り、300人以上が書込み、彼女たちに届けられた、というプロジェクトだ。

「貸し出した人には、写真コレクターもいれば、新聞を見て手を上げてくれた人もいるし、
彼女たちと同じ自傷行為をしている“当事者”や家族が自傷行為で苦しんでいるという人もいました。
でも誰が関わってくれてもいいんです。

このプロジェクトの大事なところは、「存在を肯定」すること。
メッセージを書くには、写真をきちんと「見」ないといけない。
それは、彼女たちの姿を認識し、肯定することに繋がるのではないかと考えました。」(岡原)

一方で、「何かの答えを提示しているわけではない」ときっぱりと答える岡原さんだが、
この写真やテキストをきっかけに、自傷行為についてや隠された暴力について、
あるいは自分の”居場所”について、思いを巡らせざるを得ない。

「自分のことを外から見てみたい」「何かの役に立ちたい」と思い、被写体となることに手をあげた女性たち。
その勇気が、岡原さんの眼を通して「苦しみながらも、生きるために居場所を探す人々」の存在を教えてくれている。

Sayuri, 22 years old, who has been suffering from self-injury, looking up the sky during the night. Sayuri had experiences of sexual abuses in her childhood and that triggered self-injury.

写真展タイトル:岡原功祐展「Ibasyo 自傷する少女たち”存在の証明“」
開催日程:開催中~7 月 1 日(日)
開催場所:TOKYO INSTITUTE of PHOTOGRAPHY 72Gallery
東京都中央区京橋 3-6-6 エクスアートビル 1F
開館時間:水~日 12:00~19:00 / 最終日は 17:00 まで休 館:月・火曜日
WEB: https://tip.or.jp/イベント:6 月 9 日(土)18:00~19:30
岡原功祐による『Ibasyo』プロジェクトのプレゼンテーションを実施

関連書籍:Ibasyo 自傷する少女たち“存在の証明”(工作舎刊)
※会場で販売いたします

【作者プロフィール】
岡原功祐
1980年東京都出身。早稲田大学卒。南アフリカWITS大学大学院中退。人の居場所を主なテーマに撮影を続け、これまでに『Contact#1』『消逝的世界』『Almost Paradise』『Fukushima Fragments』の4冊の写真集を上梓。
2008年度文化庁新進芸術家海外研修制度研修員。2009年には世界報道写真財団が世界中の若手写真家から12人を選ぶ Joop Swart Masterclass に日本人として初選出。Photo District Newsが選ぶ世界の若手写真家30人にも選ばれる。
また2010年には、『Ibasyo』でW.ユージン・スミス・フェローシップを受賞。
2012年、原発事故後の福島を撮影した作品でゲッティー・グラント、2014年にはコロンビアの作品でピエール&アレクサンドラ・ブーラ賞を受賞。同作品は、ライカ社100周年記念巡回展にも選出された。
これまでに東京都写真美術館、クンスタール(ロッテルダム)、ケブランリー美術館(パリ)、C/Oベルリン(ベルリン)、ダイヒトールハーレン(ハンブルク)、バイエルン州立図書館(ミュンヘン)、アネンベルク写真センター(ロサンゼルス)、アパーチャー(ニューヨーク)など、各国の美術館やギャラリーでも作品が展示されている。
Polka Galerie 契約作家
www.kosukeokahara.com