御苗場は「沼 」の入り口 !? 夢を掴むために活動する受賞者たち
関東と関西で年に1回ずつ開催される御苗場では、編集者やキュレーターなど、写真を見るプロ6~7名によるレビュアー賞が選ばれる。過去にレビュアー賞を受賞したサカイユウスケ、高倉大輔、Rieko Honmaが、御苗場に参加して作品や環境がどう変化してきたかを語った。
御苗場は、“自分の未来に苗を植える場所”という思いのもと、2006年にはじまった日本最大級の写真展です。これまでにのべ3500組以上が参加。出展者、数多くの写真好きの来場者たちと交流し、語り合い、仲間になる「出合い」の場であり、御苗場をきっかけに世界で活躍する写真家も生まれています。
※本記事はPHaT PHOTO vol.93(2016/5-6月号)の特集を抜粋したものです。
左から、サカイユウスケさん、Rieko Honmaさん、高倉大輔さん。
自分の写真が表紙になった本が書店に並んだ
──Honmaさんはその後、どんな活動をされていますか?
Honma 御苗場でゲッティイメージズの小林正明さんからもお声掛けいただいたんです。ゲッティに写真を預けてみないかと。
何回かお話するうちに小林さんの人柄にも惹かれ、提出してみたら小説の表紙に選ばれたんです。自分の写真が表紙になった本が書店に並ぶということにびっくりしました。
他にも、2012年に撮った写真が2016年のゲッティイメージズの広告ビジュアルの写真集の表紙にもなって。
この写真は、他で落ちた写真なんです。自分の作品を信じてあげることって重要なんだなと思いました。
それと、講談社や角川書店から小説のイメージに合うから表紙にしたいと連絡も来て。ラッキーなことが続きましたね。
──すごいですね!
Honma でも、いま技術的なことで悩んでいます。周りには美大や芸大を出たという人も多い中、私は専門知識を学んだわけではないし、ロケしかしてないから、スタジオ撮影を頼まれたらどうしようかと。それがいま憂鬱で、憂鬱で。
高倉 僕も作品を見てもらった人から仕事をいただいたのですが、スタジオで撮るとなったときに、困りました(笑)。情けない話だけど全然知識がないので。
アーティスト写真のお仕事を頂いたときも、マネージャーさんやスタイリストさん、メイクさんとか大勢いる中で撮るのがはじめてで。すごく緊張しましたね。でもアートディレクターの方がすごく良い方で、経験がないこともわかったうえだったので、そこはなんとかなりました。
──仕事に繋がっているのがすごいですね。
自分のことを全く知らない人にも伝わる作品にしたい
──サカイさんは「サラリーマンブルース」でキヤノンフォトグラファーズセッションのキヤノン賞を取られましたが、この作品をつくったきっかけは?
サカイ 1回目の御苗場に出したとき、他の出展者の作品を見て、「写真にはストーリーがある」ということを知ったんです。それまで画として気持ちのいい写真を撮っていただけだったから、自分の中から湧き出る何かがないと作品として弱いことに気づきました。
自分はこういう人間だからこういうことに興味があって、だからこういうものを撮りましたって言えないと、説得力がない。当時、仕事に追われて残業漬けだったから、写真でうっぷんを晴らそうとつくりはじめたんです。
でも自分を投影させるだけじゃまだ弱くて、自分のことを全く知らない人にも伝わる作品にしたい、とようやく思うようになってきましたね。狭い写真では終わりたくないと。
ターニングポイントになった場所
──最後に、みなさんにとって御苗場とはどういう場所でしたでしょうか。
サカイ 本当はもっと広いんだよっていうことを教えてもらった場所でした。何か御苗場って〝沼〟みたいだなと。沼に落ちて行く入口。
自分が思っていた水たまりみたいなものの底に、広い、広い世界があることに気づかされた場所ですね。
──いま、沼を通過中なんですね。
サカイ 沈んで行っている感じです(笑)。
どれだけ広いのかもわからない。写真というものがわからなくなりました。こういうものだろうと思っていたのに。
高倉 僕はそれこそ、ターニングポイントになった場所ですね。御苗場の後に、ライジングサン(※3)を受けて海外にも目を向けるようになって。すべて御苗場から始まっていきました。
(※3)Rising Sun Workshop。オランダの写真キュレーターマーク・プルースト氏によるワークショップ。
Honma 私は10年くらいずっとひとりでやってきたけど、「見せることが大事だったんだ」ってようやく気づきました。出合った人と人との繋がりのおかげで前に進めたし、自分の世界が広がりました。
いままで見えなかった可能性が、いまは夢見ていたところまで来ています。この先もいいことあるんじゃないかって、期待できるようになってきましたね。
プロフィール
2012年「御苗場vol.11関西」にてdigmeoutのレビュアー賞を受賞。2015年にキヤノンフォトグラファーズセッションに参加し、立木義浩グループのキヤノン賞を受賞する。キヤノンギャラリー銀座、梅田にて受賞展を開催した。
1978年新潟県生まれ。2015年「御苗場vol.16横浜」にて西武そごうアートコーディネーター寺内俊博レビュアー賞を受賞。また、同年個展『Sink Into The Dream』をGallery NIWにて開催。御苗場をきっかけにゲッティイメージズ「2016 Creative In Focus」の表紙に作品が選ばれた。
1980年生まれ。2013年「御苗場vol.13関西」にてTEZUKAYAMA GALLERY 代表・松尾良一レビュアー賞を受賞。2015年はフォトフィーバー(パリ)、「brave new world」(プラハ・DOX)にも参加。「ヤング・ポートフォリオ」展に作品が選出され、メインビジュアルにも起用された。
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