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HOW TO / 作品制作のヒント

写真「販売」基礎知識 1/12 作品が売れる場所とは?


写真を売ってみたいけれど、何から始めていいかわからない。

急に「作品を売ってほしい」と言われたけれど、値段の付け方やサインの入れ方など知らなくて困った。

そもそも、写真って売れるの?

作品制作を行う写真家やアマチュアの方で、そんな経験をしたり、疑問を持っている人も多いのではないでしょうか。

いつか作品を売ってみたい写真家や、買ってみたいアートファンの方へ。

本記事は、作品販売を仕事にしているギャラリーPOETIC SCAPEのディレクター柿島貴志さんに、写真販売の基礎知識について詳しくご紹介いただく連載です。

今回のテーマは作品を販売する場所についてのお話。

ギャラリーへの作品持ち込みなどについても、言及しています!

※本記事は、現在Tokyo Institute Of Photography(T.I.P)で開催されている、ギャラリーPOETIC SCAPEのディレクター柿島貴志さんによる人気講座の内容を一部抜粋してご紹介しています。講座は若干名のみ受付中(申し込み状況によって完売の可能性あります)

柿島貴志/Takashi Kakishima
大学卒業後に渡英。ロンドンBlake Collegeを経て、Kent Institute of Art and Design(現UCA)ビジュアルコミュニケーション・フォトメディア卒。ITやアート関連企業を経て、2007年にアートフォトレーベルphotta-lot、2011年にギャラリーPOETIC SCAPEを設立。現在はPOETIC SCAPEの経営・ディレクションのほか、写真作品の額装ディレクション、他ギャラリーでの展覧会・イベントディレクション、写真系企業へのビジネスコンサルティングなどを行う。

森山大道 写真展『Ango』
POETIC SCAPEにて4月22日(日)まで開催中!

<今後の記事アップスケジュール>
2回目 日本におけるギャラリーの種類
ー予定ー
写真の値段とエディションの仕組み
写真のプレゼンテーションとルール
成約から納品、次の展示までのTIPS
写真販売シミュレーション

私は中目黒のPOETIC SCAPEというコマーシャルギャラリーのディレクターで、主に写真家の作品をコレクターに販売する仕事をしています。

最近展覧会を行った写真家は、野村恵子、尾仲浩二、渡部敏哉、野村浩、野村佐紀子、熊谷聖司など。

写真「販売」についてお伝えする本講座の第1回目は、まず作品を売る「場所」についてのお話をしていきたいと思います。

POETIC SCAPEでは、作品を企業に納品する場合もありますが、ほとんどは個人のコレクターへの販売です。コマーシャルギャラリーが美術館に販売することもありますが、それはある程度、有名な写真家だけ。

多くの写真家は、ギャラリーで実績をつくることから作品の販売活動をスタートします。美術館によっては、個人の写真家と取引をしないこともあるので、信頼性という意味でもギャラリーを通すことが多いようですね。

作品が売れる主な場所とは?

1.アートフェア

作品売買の現場として現在、大きな割合を占めるのが、アートフェア。複数のギャラリーが同じ会場に集まり、作品の展示販売を行うイベントです。

主なアートフェアは、基本的に個人では参加できず、ギャラリーが参加するもの。さらに、パリフォトなど有名なフェアは審査が厳しく、どんなギャラリーでも参加できるわけではありません。

いままでの実績だけでなく、フェアでの販売予定作品によって判断されるため、有名ギャラリーが落とされることも。

作品を買うのはコレクターが多いですが、海外のアートフェアだと美術館が買いに来ることもあります。

現代美術のマーケットに関して言えば、アートフェアでの販売が市場全体の販売額の約40%を占めているという報告もあり、売上の割合としては、とても大きなものになっています。

ただし、日本のギャラリーが海外のフェアに参加するには、参加費のほか、作品の輸送費や保険など多額の経費が掛かるため、コスト的に厳しい部分の方が大きいです。

アートフェアは作品を買わなくても、誰でも観に行くことができるもの。鑑賞者としての立場では、ふだん会えないギャラリーのディレクターに会うことができたり、写真の値段がわかるという点でも、足を運ぶ価値があると思います。

主なアートフェア
日本:ART FAIR TOKYO(有楽町)/代官山フォトフェア(代官山)/ART OSAKA(大阪)
海外:アート・バーゼル(スイス、香港など)/パリフォト(フランス)/フォトフィーバー(フランス)/など
フェアとフェスティバルの違いって?
アートフェアは作品売買の場ですが、フェスティバルは写真のお祭りが主体。フランスのアルル国際写真フェスティバルやイタリアのベネチアビエンナーレ、横浜トリエンナーレ、テグフォトビエンナーレ、などはフェスティバルにあたります。

アートフェアのほかにも、サザビーズやクリスティーズなどのオークションでも取引が行われることがありますが、主にコレクターが手放した作品の売買になります。

では、アートフェアにはどんなギャラリーが参加するのでしょうか? 次は、コマーシャルギャラリーについて解説します。

2.コマーシャルギャラリー

コマーシャルギャラリーとは、ディレクターが企画展を開催し、作品を販売することを目的とした別名「商業ギャラリー」(販売をするギャラリー)のことです。

ギャラリーと作家は、展示を行う以上の関係であり、エージェントである場合が多く、分かりやすく言うと芸能事務所みたいなものかもしれません。

展示方法は販売の相談だけでなく、作品制作の段階から協力しあうことも。

また、作家への取材依頼や海外からの問い合わせに英語で対応するなど、外からはわからない細かな事務作業なども行っています。

写真家の作品が取引される現場としては、このコマーシャルギャラリーでの展覧会も大きな割合を占めます。

写真を扱うコマーシャルギャラリーの一例
MEM(恵比寿)/EMON PHOTO GALLERY(広尾)/nap gallery(神田)/タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム(六本木)/PGI(東麻布)/G/P gallery(恵比寿)/POETIC SCAPE(中目黒)

3.コマーシャルギャラリーQ&A

作品販売が行われるコマーシャルギャラリー。作家とギャラリーはどのように出会うのか? 持ち込み方法は?

講師の柿島貴志さんが代表を務めるギャラリーPOETIC SCAPEを例にお答えいただきました。

Q.どうすればコマーシャルギャラリーで展示できますか?
A.作家との出会い方に「これだ!」というものはありません。全く知らなかった作家との良い出会いは、まさに巡り合わせや縁のようなもの。実際、多いのは信頼できる人からの紹介で作家に会うケース。

また紹介がなく純粋な「持ち込み」もあります。

作品が良かったら「じゃあ来年展示しましょう」という話になることもありますが、多くて何十人にひとり。

作品がよくても、売れなさそう、という人もいますし、逆もあります。

基本的には、販売を重視するので「良くて売れる」作品を扱いますが、そういう作家は本当に少なく、もしいればその活動が写真業界の中で目立つので、ギャラリー側から声をかけることが多いです。

また、写真賞を受賞した作家がいいとは限りませんが、注目はされると思います。

「こうじゃないといけない」、ということはないので難しいのですが、大事なのは「くじけない」こと。一発で展示が決まることはほぼないです。

Q.持ち込みの方法は?
A.POETIC SCAPEの場合は、ギャラリーに突然訪れる人もいますし、メールや電話で連絡をいただくこともあります。

突然の場合は、見れるときもあれば見れないこともあるので、アポイントを取って作品が載っているURLなどを事前に送っていただいた方が、お互いの時間を無駄にせずに済むと思います。

Q.「取り扱い」と「所属」の違いとは?
A.明記されていない場合が多いですが、取り扱い作家は、商品として取り扱っているという意味。

所属は、もっとしっかり組んでいるパターン。基本的に同一、近隣のエリアにおいて、他のギャラリーでの作品発表はやらない。

POETIC SCAPEは、作品ごとに契約することが多く、作家個人の所属という契約はしていません。力のある名門ギャラリーの場合は、所属した方が販売についてよいこともあります。

Q.作家とギャラリーの取り分は?
A.レンタルフィーはありませんが、その代わり、作品が売れたらフィフティーフィフティーとなります。

ギャラリー側の取り分が多いのでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ギャラリーを維持する家賃などの固定費に加え、

確実に売れるとは限らない作品の展示費用に、広報活動や人件費、時間をかけているので、その金額は妥当だと言えます。

Q.コマーシャルギャラリーのメリット、デメリット
A.ギャラリーは作家のマネジメントを行う場合が多いので、作家は活動のサポートをしてもらうことができます。

展覧会の際にはギャラリーが持つ顧客リストに情報を案内してもらえますし、またギャラリーに所属しているとアートフェアに出展できたり、写真のエディションの管理を行ってもらえたり、膨大な事務作業を行ってもらうことができます。

さらに細かなことですが、特に女性作家の場合は、購入者と直接やりとりをすることでストーカーのようなトラブルが発生する場合もあり、そういった問題を回避をすることもできます。

デメリットについてですが、ギャラリーとの契約上、販売を強く意識しなければならないというプレッシャーはあるかもしれません。

また他のギャラリーで展示ができない契約の場合もあり、「所属」の不自由さもありますが、いまは自由度が広がっています。

ギャラリーは最大の理解者であり、ビジネスパートナーでもあります。才能だけではなく、ちゃんとビジネスとしてお付き合いができる、ということも含めて、信頼できる関係を築く必要があります。

納期や礼儀など、一般社会と同じマナーやルールを守れることが必要です。

 

いかがでしたか?
コマーシャルギャラリーに所属できる作家はひと握りと言われていますが、作家活動を続けていれば、いつか作品を理解してくれるギャラリーと出会えるチャンスがあるかもしれません。
「あきらめずに続けることが大切」と柿島さんは言います。

次回は、日本におけるギャラリーの種類をご紹介します!

講座は若干名のみ受付中!(申し込み状況によって完売の可能性あります)


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