小林正明・松本友希・テラウチマサトがフォトコンテストでその写真を選んだ理由は?講評をチェック!
美しい景色を写しただけではない面白さ
「vacances」奥田晃介(京都府)
――次に、自由応募で奥田晃介さんの作品「vacances」。
テラウチ 好きな写真ですね。何かが続いていくような感じもあって、飾っていても飽きない作品だと思いました。泳いでいる人、揺れるボート、奥には大きなビルがあって、霞んだ山が見える。それぞれの配置のバランスがよかったです。ヨーロッパの心地良い雰囲気が感じとれました。
小林 このアナログな空気感は、広告やファッション写真でもよく見かけますね。デジタルではなく、プリントでも見てみたかったです。
松本 ゆったりとした海の表情が撮れていますね。穏やかな景色の中に、泳ぐ男性と彩度の高いボートが入ることによって、構図が上手く崩れているように思いました。ぴたっと完璧にはまらない感じが、ここに流れる悠々とした時間を想像させてくれる。
ボートが少しコミカルな感じにも見えて、ただ美しい景色を写しただけの写真ではない面白さがありました。
工夫次第で、美しさは深まっていく
「働く人は美しい」加藤光博(メルボルン)
――続いては、自由応募で加藤光博さんの作品「働く人は美しい」。
小林 僕は昔、カメラを持ってアジアを周っていたんですが、こういう場面は、本当に絵になる情景ですよね。タイトルも納得です。旅先の非日常の中で美を捉えるのももちろんいいですが、毎日の生活の中で美しく目に留まるものも大切に写していってほしいです。
松本 カラフルな色彩が印象的な作品で、小林さんが言われたようにタイトルはその通りですよね。ただ、作者がぱっと撮った、スタートラインの写真のような気がしました。しゃがんで撮ってみたり、角度をつけてみたり、アングルによってこの場面の美しさは深まっていくのかなと思います。
テラウチ 確かに、単純にいいなと思って撮った1枚のように見えますね。この画角が気に入っているなら、もう少し待った方がよかった。背景の人々が全く協力していないので、色んな人が通るのを粘り強く待ってみると、主役と背景のバランスがとれたまとまりのある作品になると思います。
面白さを重ねる構想力を磨いてほしい
「楽し怖ろし」山本健一(兵庫県)
――続いて、自由応募で山本健一さんの作品「楽し怖ろし」。
松本 おどけているような表情が可愛らしいです。スクエアにしたことで被写体の面白さは際立っていますが、伝わることが限定されてしまうので、もう少し引いてもよかったかもしれません。横位置で周りの風景を入れてあげた方が、非日常的な場面に見えそうです。
また、恐竜の質感を出すためにモノクロにしたのかもしれませんが、カラーでも面白かったかなと思います。色や画角を変えたカットを他にも見てみたかったですね。
テラウチ 確かにカラーの方がより魅力が引き立ちそうですね。反対側のベンチの端に誰かを座らせてみたりすると、もっと面白くなりそうです。どうやって面白さを重ねていくのか、構想力を磨いていって欲しいなと思いました。
小林 せっかくベンチにこんな恐竜がいる場所なのであれば、もう少し工夫が欲しかったですね。お2人が言われたような少しの工夫で、もっとこの場面を面白く活用することができたと思います。
自分の観方+偶然性で想像を超えた1枚に
「花火に願いを」森田耕司(富山県)
――最後は、自由応募で森田耕司さんの作品「花火に願いを」。
小林 職業柄、花火の写真は数多く見ますが、手前に短冊をいれるのは珍しいなと思いました。ただ、工夫はもっとできそうですね。
花火はたくさんの人が撮るからこそ個性を追求していけるテーマだと思いますし、アプローチをここで止めずに、もっと試して深く踏み込んでいってほしいと思います。
テラウチ 美しい1枚ですが、単純に花火を背景にして七夕飾りを撮っただけのように見えてしまいました。シャッタースピードをもう少し長くすると、短冊と笹が風に揺れるシーンが撮れる。
また、長時間露光にして、段々薄くなっていく花火の様子を捉えれば、一瞬の花火と短冊にある願いの儚さを演出できたような気がします。この作品で表現したい感情まできちんと考えて設定を決められたらよかったかなと思いました。
松本 短冊と花火を組み合わせる発想が面白かったです。ただ、まだ自分の想像の中で撮られている気がして。自分の観方に、テラウチさんが言われたような工夫によって出てくる偶然性をプラスできるようになれば、作品として強くなると思います。
いかがでしたか?
次回は「もうちょっとで入選」20点の講評をご紹介します!