若手写真家の作品を美術館が購入!ヤング・ポートフォリオってどんな賞?
森本眞生 MORIMOTO Maki (Japan, 1985) わたしの森、2018 My Forest ⒸMaki Morimoto
写真家として活動を始めるには、学校に通ったり、アシスタントをしたり、独学で学んだり、SNSを通して広く知られる存在になったり…と、さまざまな活躍の道筋があります。そのなかで「賞」を取るということもひとつのきっかけになります。
4月15日(水)から応募受付がはじまる「2020年度ヤング・ポートフォリオ」。
山梨県にある写真美術館、清里フォトアートミュージアム(K*MoPA)が1995年から行っている活動です。35歳以下を対象に作品を公募し、世界の若手写真家による優れた作品をパーマネント(永久保存)・コレクションとして購入、展示することにより支援をするというもの。
波多野祐貴 HATANO Yuki (Japan, 1985) Call, 2018 ⒸYuki Hatano
若手写真家を支援するコンテストはいくつかありますが、「ヤング・ポートフォリオ」は美術館のパーマネント・コレクションとして作品を購入し、展示するというほかにはない支援を行なっています。つまり一般のコンテストとは異なります。
本記事では、清里フォトアートミュージアム学芸員の綱 恭行(つな やすゆき)さんにお話しをお伺いし、その活動に迫ります。
清里フォトアートミュージアム学芸員・綱 恭行さん
若者の才能の真価を世に問い、後世に伝える、世界で唯一の企画
魏子涵 WEI Zihan (China, 1994) 異なる世界の入り口 The entrance to a parallel world, 2018 ⒸWei Zihan
「ヤング・ポートフォリオ(YP)とは、清里フォトアートミュージアムが、世界の若手写真家による優れた作品を、館のパーマネント(永久保存)・コレクションとして購入、展示することにより、支援する活動です。
毎年35歳以下を対象に作品を公募しており、2020年度の募集は4月15日(水)から5月31日(日)までです。一度限りの賞を与えるコンテストではないので、35歳になるまで何度でもご応募が可能です。継続的に購入することによって、若い作家に勇気を与えたいと願っています」(綱、以下同)
ここがポイント!
・対象は35歳以下。35歳になるまでは何度でも応募が可能
・選考作品はパーマネント(永久保存)・コレクションとして購入
・清里フォトアートミュージアムにて購入作品の展示会を開催
桑迫伽奈 KUWASAKO Kana (Japan, 1990) シリーズarteriaより after the rain, 2017 ⒸKana Kuwasako
なぜ、35歳なのか。芸術における青年期の意義を問う
「芸術家は、青年期に強い意志と情熱をもって試行錯誤を重ねることにより、才能・資質が高められ、作品のクオリティが磨かれます。研鑽を積んだ作家の多くは、おのずと30代には自己のスタイルを確立し、代表作となる作品を生みだしています。
青年の原点とも言うべき作品が、表現の領域を開拓し、歴史を築いてきました。そこには永遠の輝きがあります。
また、YPは35歳まで何度でも応募することができるので、20代から35歳まで何度も収蔵することができれば、作家の成長を見守り、応援することが可能になります」
Tuna LEE (Korea, 1993) キルト・記憶の一部 培材大学校東棟(1916年)、2017年 Quilting – A part of Memory: Pai Chai School East Building (1916), 2017 ⒸTuna Lee
美術館に永久収蔵!パーマネント・コレクションとは?
パーマネント・コレクションとは永久収蔵品のこと。YPがほかのコンテストと異なるのは、選考を経て、優れた作品が購入され、収蔵・展示・保存が行われるという点。作家の世界観や芸術性を表現するポートフォリオ(作品集)となるように、1枚だけでなく、複数の作品を収蔵することもYPの特徴です。
井上拓海 INOUE Takumi (Japan, 1992) Lif-e-Motionシリーズより 「モモブトオオルリハムシ」、2018
「YPは、評価の定まった作家・作品ではなく、若手写真家の「原点」となる貴重な初期作品を後世に残す活動です。開館の1995年から2019年度までに、世界46カ国・802名から6241点を購入永久保存しています」
パーマネント・コレクションになるとどうなる?
「作品は貴重なコレクションとして、当館収蔵庫にて365日温湿度を管理し、後世へ残します。
また、収蔵作品の真価を世に問い、作家のキャリアアップの一助となるよう、国内外への巡回も企画しています。2018年には東京都写真美術館で『原点を、永遠に。−2018—』を開催。一部再構成し、国立台湾美術館への巡回も行いました」
また、美術館への収蔵を履歴書(CV)に書けるというのも大きな魅力です。
東京都写真美術館で2018年に開催された「原点を、永遠に。−2018—」では、アンリ・カルティエ=ブレッソンやロバート・キャパ、ロベール・ドアノーなどの海外の著名な作家35人、荒木経惟、細江英公、篠山紀信ら日本を代表する31人の作品とあわせて、「ヤング・ポートフォリオ」から厳選した29人の作品が展示された。
美術館に収蔵されるということは、こういった名作と肩を並べて展示される可能性があるということでもある。
山下 裕 YAMASHITA Yu (Japan, 1988) 代償の地 –七里村– 2017 The Land that Paid the Price – Qili Village ⒸYu Yamashita
木村伊兵衛写真賞受賞作家も!過去、ヤング・ポートフォリオで購入された写真家たち
「これまで作品を収蔵してきた写真家のなかには、木村伊兵衛写真賞を受賞した本城直季さんや三木淳賞を受賞した林典子さん、林忠彦賞を受賞した中藤毅彦さん、土門拳賞を受賞した百瀬俊哉さんなど、内外の様々な賞を受賞した方がいます。
また東京造形大学、大阪芸術大学、九州産業大学などで、後進の育成にあたるなど、多くの優秀な写真家が誕生しています」
購入作品は「ヤング・ポートフォリオ展」でお披露目される
ヤング・ポートフォリオに選考された作品は、翌年の春~初夏にかけて清里フォトアートミュージアムにて開催される「ヤング・ポートフォリオ展」にて展示されます。
2019年度ヤング・ポートフォリオの購入作品は2020年6月14日(日)まで展示予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で当面の間休館が決定しています。(当初の会期である6月14日までに事態が好転した場合は開催を予定)
「2019年度ヤング・ポートフォリオ展」の様子
休館に伴い、展示室と作品を撮影した動画が公開されているので、ぜひチェックしてみてください。
館長・細江英公氏を含む、3名の写真家が選考
2018年度の選考の様子/(左)上田義彦氏、(中央)川田喜久治氏、(右)細江英公氏
「作品選考は、当館館長の細江英公氏のほか、YPの理念にご賛同いただいた現役写真家2名が行います。それぞれの写真家が手がける写真ジャンルは多様ですが、表現意欲の強さ、視点の明確さなどが基準となるため、担当する選考委員によって何らかの“傾向”が生まれるということはありません。若い才能に未来を託す思いで選考し、3名の選考委員が合致した作品を収蔵します」
イイダユキ IIDAYUKI (Japan, 1991) fig FLOWERS, 2018 ⒸIIDAYUKI
返却された作品に“付箋”がついていたら…?
「もし返却作品に付箋が2つついていたら、それは購入まであと一歩だった証。2名の選考委員が良いと思ったということになります。
2日間行う選考会の初日には、3名の選考委員が、それぞれ良いと思った作品に付箋をつけています。付箋の色は、それぞれピンク、ブルー、イエロー。3色すべて揃った作品が、最終選考に残るというプロセスになっています。1枚だけ、ついていた、という場合もひとりが『良い』と思った証です」
ワン・シンイ WANG Hsin Yi (Taiwan, 1985) Drag queens/kings in their rooms, 2017-18 ⒸWang Hsin Yi
作品が世界に繋がる、キャリアアップのチャンス
シェリー・ホアン Sherry HUANG (Taiwan, 1986)Last Seen (Parking lot), 2019ⒸSherry Huang
「作品を応募する際には、作品の内容・構成、プリントの質、ステートメントなど、自分の作品を様々な点から見直し、自分の作品と向き合う必要があります。自信に満ち溢れる時もあれば、不安にかられる時もあるかもしれません。
その経験は、決して無駄にはならず、仮に選考・購入に至らなかったとしても、今後の活動にも大きな影響をもたらすに違いありません。
記事中にあるように、選考委員が評価した作品には付箋がつけられ、返却時にも付箋をつけたままお返しします。選考委員の評価と自分の評価を比較することは大きなフィードバックになります。過去には、構成を変えて再度応募し選考・購入となった作品もあれば、作風を変えて応募し、購入となった方もいます。
美術館に作品が収蔵される事は、作品が世界に繋がり、皆さんのキャリアップのチャンスが広がります。自分で限界を作らず、可能性を信じて応募してください。そんな意気込みをを持った作品をお待ちしています」
【5月31日締切!】2020年度ヤング・ポートフォリオに応募するには
2020年度ヤング・ポートフォリオの応募は4月15日(水)~5月31日(日)まで。プリント応募で、短写真でも組み写真でも応募ができます。詳細な応募要項は募集ページをチェックしてください。
2020年度ヤング・ポートフォリオ作品募集
■受付期間(Web登録受付および応募作品受付):2020年4月15日から5月31日(必着)まで
■応募形態/注意事項:
・単写真でも、組み写真でも最大50枚まで受付ます。
・CDなど記録媒体での応募はできません。プリントのみ受付ます。
・既発表、未発表を問いません。すでに発表された作品、受賞作品、他のコンテストに応募された作品でも構いません。
・選考された作品は、1枚につき3~10万円で購入します。ただし組写真であっても、全てを購入するとは限りません。
・ヤング・ポートフォリオで購入する作品は、当館の収蔵庫にて永久保存します。したがって、長期保存に耐えるプリント技法であることが基本条件となります。
■応募料(PayPal決済):日本国内からの応募料:2000円、海外からの応募料:US$15
■作品の発送先:受付期間内に下記住所へ送付、もしくは直接搬入してください。
〒407-0301 山梨県北杜市高根町清里3545-1222
清里フォトアートミュージアム「ヤング・ポートフォリオ」係(mail:info@kmopa.com)